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海洋プラスチックごみ問題解決に向けた日本企業への提言(1/2)

みずほ情報総研 環境エネルギー第1部 コンサルタント 谷口 友莉

  • *本稿は、『みずほグローバルニュース』 Vol.105 (みずほ銀行、2019年10月発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。

2019年6月に大阪で開催されたG20サミットでは「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が共有され、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染ゼロをめざすとした。日本政府としては、これまでの技術や経験をフル活用し、途上国の廃棄物管理や人材育成支援を行うとしている。本稿では、G7およびG20で海洋プラスチック問題が取り上げられ世界的な課題として認識された経緯とともに、海洋プラスチックごみ問題の現状と日本が置かれた状況についてまとめ、日本企業への提言を試みる。

G7およびG20での議論の推移と日本政府の取り組み

G7/G20での議論の推移

海洋プラスチックごみによる影響としては、生態系を含めた海洋環境への被害だけではなく、船舶航行、観光・漁業や沿岸域の居住環境など人の生活への負の影響も懸念されている。2015年6月にドイツ・エルマウで開催されたG7サミットで、海洋ごみ、特にプラスチックごみが世界的課題であることが政策レベルで初めて提起された。その約半年後の2016年1月に英エレン・マッカーサー財団が海洋プラスチックに関する報告書*1を公表し、ダボス会議で報告した。その内容は、各国が積極的なリサイクル政策を導入しなければ、海洋中に存在するプラスチックの量は2050年までに魚の量を超えてしまう(重量ベース)というセンセーショナルなものであった。続いて、G7伊勢志摩サミット(2016年5月)、G20ハンブルク・サミット(2017年7月)でも海洋ごみが取り上げられ、世界的な対策が必要との認識が参加国政府の間で共有されてきた。

こうした流れを受けて、2018年にカナダで開催されたG7サミットでは英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの5カ国とEUが「海洋プラスチック憲章」に署名した。このとき日本は「国民生活や国民経済への影響を慎重に検討し、精査する必要がある」*2として署名はしなかったが、「2019年6月に開催され日本が議長国を務めるG20サミットで海洋ごみに関する問題について取り組みたい」との発言が安倍総理からあった。これが、2019年6月のG20大阪サミットにおいて、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることをめざすという「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の共有へとつながった。また、同サミットにおいて安倍総理は、このビジョンの実現に向けて日本は途上国の廃棄物管理に関する能力構築およびインフラ整備等を支援していくこと、そのために日本は世界全体の効率的な海洋プラスチック対策を後押しする「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」を立ち上げることを表明した*3

図表1. G7およびG20での海洋プラスチック問題への言及

イベント 概要

G7エルマウサミット
(2015年6月)

  • 首脳宣言において、海洋ごみが世界的な問題であることが認識されるとともに、「海洋ごみ問題に対処するためのG7行動計画」を策定

G7伊勢志摩サミット
(2016年5月)

  • 首脳宣言において、資源効率性および3Rに関する取り組みが、陸域を発生源とする海洋ごみ、特にプラスチックの発生抑制および削減に寄与することも認識しつつ、海洋ごみに対処することを再確認

G20ハンブルクサミット
(2017年7月)

  • G20サミットでは初めて海洋ごみを首脳宣言で取り上げ
  • これまでのG7の取り組みを基礎としつつ、発生抑制、持続可能な廃棄物管理の構築、教育活動・調査等の取り組みを盛り込んだ「海洋ごみに対するG20行動計画」立ち上げに合意

G7シャルルボワサミット
(2018年6月)

  • G7すべての国が海洋環境の保全に関する「健全な海洋および強靭な沿岸部コミュニティのためのシャルルボワ・ブループリント」を承認し、「持続可能な海洋と漁業を促進し、強靭な沿岸および沿岸コミュニティを支援し、海洋のプラスチック廃棄物や海洋ごみに対処する」とした
  • カナダおよび欧州各国(日米以外)は、「海洋プラスチック憲章」を承認(達成期限付きの数値目標等を含む)
  • 安倍総理からは、日本が議長国を務める2019年G20サミットで海洋プラスチック問題に取り組む意向を発信

G20大阪サミット
(2019年6月)

  • 海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることをめざす「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を共有
  • 安倍総理は「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」実現のため日本は「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」を立ち上げ、途上国の廃棄物管理に関する能力構築およびインフラ整備等を支援していく旨を表明
  • サミットに先駆けて開催されたG20エネルギー・環境相会合では、各国が海洋プラスチックごみの削減に向けた行動計画の進捗状況を定期的に報告・共有する「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」に合意(具体的な数値目標の設定はないが、状況を相互に確認する枠組みをつくることで、実効性を高める狙い)

(資料)環境省・外務省資料より、みずほ情報総研作成

日本政府の取り組み

日本政府は、2019年5月にG20大阪サミットに先立って「プラスチック資源循環戦略」*4および「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」*5を策定した。「プラスチック資源循環戦略」では、G7海洋プラスチック憲章の目標値と比べても遜色のない目標を「マイルストーン」(年限付き数値目標)として設定した。「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」では、「新たな汚染を生み出さない世界」の実現をめざし率先して取り組むとして、日本としての具体的な取り組みを示した。また、戦略とプランの両文書において、日本の経験、技術およびノウハウを途上国へ輸出することを促進するという途上国への貢献も掲げている。この途上国への貢献については、約半年前の2018年11月のASEAN+3サミット*6においても「海洋プラスチックごみ協力アクション・イニシアティブ」として、ASEAN地域で国別行動計画の策定支援、廃棄物管理・3R*7の能力開発支援、地域ナレッジハブの設立などを提唱した。

図表2. G20大阪サミットに向けた日本政府の取り組み

図表2

(資料)環境省資料より、みずほ情報総研作成

海洋プラスチックごみ問題の現状と日本が置かれた状況

海洋プラスチックごみの80%は陸域由来のもので、その大半は未回収の廃棄物や廃棄物管理システムから漏れ出した廃棄物との試算がある*8。特に途上国などでは、街中でポイ捨てされたごみやオープンダンピングの状態で埋立処分場などにあったごみが、河川等を通じて海に流出していると推定されている。海に流れ出したプラスチックは紫外線や波の力で細かく砕かれてマイクロプラスチックとなる。そうなってからでは海からの回収は難しい。まずは海洋を含めた環境中への漏出を防ぐ、いわば蛇口の栓を締めることが肝要である。プラスチックを環境中に漏出させないための根源的な解決策はプラスチックを使用しないこと(脱プラ)であるが、次善策として生産したプラスチックを人が管理できるシステムの外に漏れ出させないことがポイントとなる。

この文脈で日本が置かれた状況をみる。国連環境計画(UNEP)の報告書によれば、日本の人口1人あたりのプラスチック製容器包装の廃棄量は米国に次いで2番目に多い(中国、EU28カ国が僅差で続く)*9。一方で、Jambeck*10は、陸上から海洋に流出したプラスチックごみの発生量(2010年推計)を人口密度や経済状態等から国別に推計した結果、1~4位が東・東南アジアであったと報告している(上から中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム)。プラスチック生産・消費量が多い日本は30番目である*11。これは、日本国内では高度な廃棄物管理システムが整備されているうえに、市民によるPETボトルの分別回収も広く行われるなど市民のリサイクルの意識も高く、プラスチックが河川や海などの環境中に漏れ出す機会が途上国に比べれば少ないことが理由である。

しかし、日本国内で回収された廃プラスチックが、実は国内よりも処理コストの安い中国などのアジアの途上国へ輸出されていたケースも多い。また、中国に加えて日本からの廃プラスチックが輸出されている東南アジア各国には、前述のJambeckの報告で海洋への流出が多い国も含まれる。つまり、日本国内ではプラスチックをうまく管理できていたとしても、国内で回収され他の国・地域に輸出された廃プラスチックが海洋を含めた環境中へ流出している可能性、また不適切な処理に伴い水質汚染や大気汚染など周辺の環境悪化に寄与している可能性は否定できない。そもそも自国で排出された廃棄物を適切に回収・処理するインフラが整っていない国・地域も多い。この点に関して、日本は東南アジア諸国への廃棄物処理制度・システム・廃棄物発電技術ガイドラインなど制度整備支援や政府、企業、国民の意識変革(人材育成)支援を長年行ってきた。インフラシステム輸出戦略*12の一環として東南アジアでの廃棄物発電施設の整備などを進めてきた他、国際協力機構(JICA)などを通じたキャパシティ・ビルディングや草の根活動も数多くの実績がある*13

一方で、世界最大の廃プラスチック輸入国であった中国が国内の環境問題への危機感から2017年末に廃棄物の輸入規制を導入*14し、日本だけではなく欧米先進国でも廃プラスチックが行き場を失うとの危惧が広がった。中国の輸入規制導入以降、日本からの廃プラスチックの輸出先は東南アジア各国へ振り分けられているが、この東南アジア各国でも廃棄物の輸入規制を強化する動きがある*15。日本政府と産業界、特にリサイクル・廃棄物処理業界には廃プラスチックの輸出がままならなくなり、国内に処理できない廃プラスチックが滞留するとの危機感がある。国内の資源循環・リサイクルの能力を強化する必要があるとの認識から、環境省では国内の廃プラスチックリサイクル施設の能力増強のため国庫補助を実施*16しているが、これが軌道に乗るまでには数年かかるとみられている。

日本は海洋プラスチック対策に向けて、海洋への廃プラスチックの流出を止めるために途上国の廃棄物管理等の支援を行う能力やノウハウを持つ一方で、自国内の廃プラスチック処理の足元が揺らいでいる状況と言えるだろう。

図表3. 日本からの廃プラスチックくず輸出量の推移(輸出国・地域別)

図表3

(注)2019年は1月~6月までの合計
(出典)貿易統計(HSコード3915)より、みずほ情報総研作成