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2021年10月27日

運転者の存在を前提としないレベル4の社会実装に向けて

自動運転とは何かを改めて考える

経営・ITコンサルティング部 西村 和真

最近は、自動運転と検索すると、自動車の自動運転に関する話題で溢れるようになった。東京オリンピック・パラリンピックにおいて、選手村内の移動にトヨタ自動車等が開発したe-Paletteを運行していたのは記憶に新しい。それだけでなく、全国各地において実証実験が行われており、自動運転の社会実装に向けて着実に前に進んでいる。技術面では、レベル3が実用化を迎え、2022年度にレベル4の自動運転移動サービスの実用化が目指されている。

しかし、自動運転の実用化が進む一方、自動運転という言葉について、その言葉のイメージから思い描くものと現実にギャップが見受けられる。「自動運転」という言葉を聞いて、どのようなものを想像するだろうか?

本稿では、自動運転の現在地から、レベル4の社会実装に向けて必要なことを考察する。

自動運転はシステムが運転の全てを担うことではない

自動運転をイメージするものの代表例として、その段階を示す自動運転レベル(レベル1~5)がある*1。たとえば、レベル2は「アクセル・ブレーキ操作およびハンドル操作の両方が、部分的に自動化された状態」、レベル5は「自動運行装置(以降は便宜上、システムと呼ぶ*2)が運転操作の全部を代替する状態」といったものだ。加えて、運転操作の主体について、レベル2までは運転者であり、レベル3以降はシステムとなっており、運転操作の主体がシステムになるレベル3以降のシステムを搭載した車を基本的に自動運転車と呼称することとされている。

この中で、自動運転をイメージするうえで重要なのが、「運転操作」という言葉である。運転操作は、「車両の操縦のために必要な、認知、予測、判断及び操作の行為を行うこと」とされているが、これは"運転"と"運転操作"が異なるものであり、あえて運転操作という言葉が用いられている。それでは、「運転」とは何か。

運転については、道路交通法にその定義や、運転者に求められる義務について規定されており、運転にはこれらの現行の交通ルールへの遵守も含まれると考えられている。自動運転においても従来と同等以上の安全性が求められており、現行の交通ルールへの遵守が原則にある*3

これらを踏まえると、自動運転は、システム単独で、車両を自動的に動かしつつ、交通ルールも遵守するものと考えられるが、現状の技術レベルはそこまで至っていない。システムだけでは、交通ルールの全てに対応することは困難とされており、今の自動運転は、人の関与が前提に取り組まれている。では、現状の技術レベルで、運転のうち、システムはどこまで対応可能なのか。

自動運転には人の関与が必要不可欠。その関与を運転者が行うか、運転者以外が行うかが重要に

警察庁の「自動運転の実現に向けた調査研究報告書*4」によると、道路交通法のうち、現場で行う個別具体的な対応(たとえば、緊急自動車の優先や、事故時の救護など)について、一部はシステムではなく、人間が行うものもあるという。すなわち、これらは、自動運転であっても、システムではなく、人が対応する必要があるのだ。

それでは、自動運転によって何が変わるのか。そこには、運転者が重要な位置付けにあり、レベル3およびレベル4は、運転者の存在が前提にあるか、ないかが大きな違いの1つになっている。すでに自動運転として実用化しているレベル3では「特定の走行条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作の全部を代替する状態」であるが、但し書きに、運転者に求められる対応として、「自動運行装置の作動中、自動運行装置が正常に作動しない恐れがある場合においては、運転操作を促す警報が発せられるので、適切に応答しなければならない」とあり、運転者が必要になる。他方、レベル4では、システムが正常に作動しない恐れがある場合には、基本的にはシステムが対応するものの、システムが対応できないことについては運転者以外の人が対応する。

すなわち、レベル3とレベル4の自動運転の違いは、レベル3の場合、運転者がシステムを使用して運転することが自動運転*5と考えられている一方で、レベル4の場合、運転者の存在が前提とされないことから、運転者以外がシステムを使用して運転をすることが自動運転となる(この時、運転者以外には、人だけでなく、事業者等も含まれると考えられ、自動運転移動サービスのような事業も可能になる。また、運転免許の要否やその要件等については、現在検討が進められている)。これが現在の自動運転の実態である。

これらを踏まえ、運転者の存在を前提としないものの人の関与が必要となるレベル4の社会実装について、以下に考察する。

レベル4の社会実装に必要なことは「運用体制」と「現状の自動運転ができることに対する正しい理解の浸透」

自動運転は、2022年度に使用する環境を限定したレベル4のシステムを搭載する自動運転車の実現を目指している*6。これは、従来の公共交通のような役割を担う自動運転移動サービスの社会実装として期待されている。想定されているレベル4の自動運転移動サービスは、使用される車両やシステムも現在開発中の状況にあるほか、導入する地域(都市部から地方部など)や道路環境(限定空間/混在交通、一般道路/高速道路など)等によって多種多様である。前項までに述べているように、共通の事項として、レベル4の自動運転は、運転者の存在が前提ではないものの、運転者以外の人が運転に関与する必要がある。これらのことから、レベル4の社会実装に向けて、以下の2点が重要であると考える。

1つは、自動運転を運用する事業者の役割である。たとえば、自動運転を活用した移動サービスを想定した場合、その運用を担うのは現在の公共交通事業者のような移動サービス事業者が想定される。この時、自動運転に関与する人(システムが対応できないことに対応する人)は、事業者からその役割を与えられた人と考えられる。この役割を与えられた人は、自動運転の使用に際し、重要な意味を持つことはいうまでもない。加えて、その人に対し、役割を担わせる事業者についても、移動サービスを管理する者として、その事業者が与えられた役割を全うできるのかを管理することが必要になる。

我が国は、特に地方部において、自動車による移動が多いことや、少子高齢化が進展していることによって公共交通サービスの需要が低下しており、加えて、その担い手としての運転者も不足していることから、サービスの維持確保が課題になっている。こうした状況にある地方部の課題解決のためには、レベル4の自動運転に対する期待が高く、このサービスを新たなモビリティとして捉え、公共交通サービスの維持につなげていくかを検討することが重要になるだろう。

もう1つは、現状の自動運転ができることに対する正しい理解の浸透である。自動運転の活用促進の大きな目的の1つには、交通事故の削減等の安心・安全な交通の実現がある。しかし、当面の自動運転は、従来と同等以上の安全性を実現する一方、従来の運転による車両等と混在した状況で使用され、かつ、システムがあらゆる事象に対応できるものではないことから、システムに対する過信・誤解によってその安全性が担保されなくなる可能性がある。

また、レベル4の自動運転は、運転者の存在は前提とされないものの、車両・システムに対するコストのほか、運転者以外の運用体制等も必要になることから、従来の運転と大きくコスト面での変化はないとも考えられる。これらによって、自動運転の導入が進まず、結果として安心・安全な交通が実現しないことは避けなければならない。そのため、自動運転の活用推進には、安全への配慮を前提としつつ、導入のためのコストに見合う効果を挙げることが求められる。これには、自動運転移動サービスを導入する事業者が、利用者(乗客)のニーズを踏まえた運用方法やサービス等を構築することが必要になるが、検討にあたっては、現状の自動運転ができることを関係者および乗客が正しく理解し、その理解を前提に検討を行うことが重要になるだろう。

自動運転はレベル4が社会実装間際にあり、後は、それをどのように有効活用するかを検討する局面にある。自動運転は、移動するという目的達成において従来の公共交通と同様ではあるが、前述のとおり、その運用方法は従来とは異なり、新たなモビリティともいえる。このような新たなモビリティが、安全かつ円滑に、そしてより便利な交通を実現するものとして、広く社会に浸透していくことを期待したい。

  1. *1) 国土交通省「自動運転車両の呼称」
    (PDF/90KB)
  2. *2) 道路運送車両法では「プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な装置であって、当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件で使用される場合において、自動車を運行する者の認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有する装置」と定義されているもの。
  3. *3) 自動運転に係る制度整備大綱 ※10~11ページ目
    (PDF/445KB)
  4. *4) 警察庁「自動運転の実現に向けた調査研究報告書」(2021年3月)
    (PDF/5,800KB)
  5. *5) 改正道路交通法では、自動運行装置(システム)を使用して自動車を用いる行為は「運転」に含まれるとされている。
  6. *6) 「官民ITS構想・ロードマップ ―これまでの取組と今後のITS 構想の基本的考え方―」(2021年6月15日)では、たとえば、2022年に限定地域における遠隔監視のみ(レベル4)の無人自動運転移動サービスの実現や、2025 年度頃の混在空間でのレベル4自動運転サービス実現、2025 年度頃の高速道路でのレベル4自動運転トラックの実現等が示されている。

西村 和真(にしむら かずま)

みずほリサーチ&テクノロジーズ 経営・ITコンサルティング部 上席主任コンサルタント

自動運転や無人航空機(ドローン)、AR・VR・MR等のデジタル・モビリティ領域に関する調査研究・コンサルティング、実証実験に携わる。デジタル技術の社会実装に向けた政策立案支援やデジタル技術を活用したビジネスの創出・事業化支援を担当。