社会政策コンサルティング部 田中 陽香
急速に拡大したテレワーク
世界中が直面している新型コロナウイルス感染症の拡大がはじまって一年以上が経過し、ニューノーマルな生活が定着しつつある。それに伴い、外出自粛がされ、出社を抑制するため、多くの企業がテレワークを導入した。
政府は以前より多様な働き方を推進する流れの中でテレワークの積極的な活用を推奨していた。各種ガイドラインの策定やモデルとなる企業の表彰や事例の紹介、助成制度や導入相談等により、企業におけるテレワークの導入を後押ししていたが、計らずもコロナ禍という未曾有の事態がテレワークの普及を加速させることとなった
見えてきたテレワークの効果と課題
新しい働き方としてのテレワークが定着しつつある中で、メリットだけではなく、いくつかの課題も見えてきた。厚生労働省が2020年に実施したテレワーク実態調査によると、企業が感じている効果と課題、労働者が感じているメリット・デメリットは以下のように整理できる。
企業が感じる効果・課題/従業員が感じるメリット/デメリット
左右スクロールで表全体を閲覧できます
効果(メリット) | 課題(デメリット) | |
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企業 |
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従業員 |
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出典:テレワークの労務管理等に関する 実態調査 (速報版) (PDF/1,540KB)
厚生労働省が開催した有識者検討会「これからのテレワークのあり方に関する検討会」の報告書では、上記の調査結果も受けて、テレワークに伴う課題として以下のようなものが挙げられていた。
テレワーク実施上の課題
- テレワーク対象者(業種・職種、正規・非正規、希望しない者)の選定
- 人事評価、費用負担、人材育成のあり方
- 労働時間管理
- 作業環境や健康状況の管理・把握、メンタルヘルス
出典:これからのテレワークでの働き方に 関する検討会報告書(PDF/1,021KB)
急速に拡大したテレワークの課題の一つとして同報告書では、メンタルヘルス対策の重要性が指摘された。これまでも企業はメンタルヘルス不調に取り組んできており、新しい課題ではない。また、テレワークが一概にメンタルヘルス不調を引き起こす原因になっているわけでもない。しかし、コロナ禍におけるテレワークは、従来と異なる様相を呈している。
コロナ拡大前のテレワークは、[1] テレワーク実施者は一部で、オフィス出社者がサポートできていたり、[2] テレワーク頻度は月数回から週1~2回程度で、特に孤立やコミュニケーションに支障が出るレベルではないケースが多かった。しかし、コロナ禍を経験した現在は、[1] 多数(場合によっては全員)がテレワークをしているため誰もサポートできず、[2] 週4~5回実施などほとんど出社しない場合もあり、[3] しかもその状態が長期間続く(取りやめた会社もあるが)という状況の下でテレワークが実施されていることも多い。コロナ対策として開始されたテレワークは「大規模一斉・高頻度・長期間」という特徴があり、メンタルヘルス的にリスクの高い状態にある*1。
求められるニューノーマルに対応したメンタルヘルス対策
こうした課題は各学会でも認識されており、テレワーク下のメンタルヘルスに関してシンポジウムが開催されたり、研究や事例の収集が進められたりしている。
テレワーク下のメンタルヘルスに関連した学会の活動
- 日本産業精神保健学会シンポジウム:テレワーク時代のメンタルヘルス対策(2021年2月13日)
- 日本産業ストレス学会ホームページ:新型コロナウイルス感染症ストレス対策好事例 インタビュー
これら学術的な知見、現場での実践は今まさに積み重ねられているところであるが、テレワークが浸透した状況下では、メンタルヘルス対策についてもニューノーマルへの対応が求められる。
筆者が収集した情報では、テレワークの状況で発生したメンタルヘルス不調に対しては、以下のような対応がとられていた。
テレワーク下でのメンタルヘルス不調への対応の例
- 入社時点から完全リモートの勤務となり、上司・先輩・同僚とも、オンラインでしか接する機会がない新入社員に対し、保健師がオンラインではあるが、全員面談を実施し、不安要素等を聞き取り
- メンタルヘルス不調からの復職面談は、その後の出社可能性を見極めるためにも、復職後の勤務がテレワークであっても、オンラインによる復職面談だけでその可否を判断するのではなく、リアルに出社してもらい、対面での面談を実施
これらはごく一例ではあり、現場では実践の中でさまざまな工夫がされている。国も先述の報告書を受け、テレワークに対応したメンタルヘルス対策の重要性を認識し、好事例の収集に取り組むことにしている。試行錯誤しながらニューノーマルに対応しようと奮闘している企業のために、積極的な情報発信がされ、実践につながっていくことに期待したい。
- *1 眞崎 昭彦「新型コロナウイルス感染症対策としてのテレワークの課題」(第22回日本テレワーク学会研究発表大会予稿集, 2020)
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