みずほリサーチ&テクノロジーズ グローバルイノベーション&エネルギー部 河本 桂一
- *本稿は、『Journal of Japan Solar Energy Society』Vol.47 No.4(一般社団法人日本太陽エネルギー学会、2021年7月31日発行)に掲載されたものを、同事務局の承諾のもと掲載しております。
Subtaskの概略と主な成果物(続き)
2.3 Subtask 3:Other Sustainability Topics
太陽光発電の使用後処理やLCA以外の側面から、太陽光発電の持続可能性につながるアプローチを議論、検討しているSubtaskである。
これまでの主要な成果として、太陽光発電による健康リスクに関する検討がある。太陽光発電は元来、強固な構造を有し、電気的な安全性も確保して設置されているが、懸念されるリスクとして、例えば、太陽光発電が設置された建物等におカる火災、落下物・飛来物などによる太陽電池モジュールの破損、使用後の適正処理(有害物質の除去)を施さないままの埋立処理によって、有害物質の飛散や溶出などによる健康へのリスクが挙げられる。これらのリスクに対し、既存の評価モデル(米国EPAによるモデル等)を用いたシミュレーションによって、有害物質の大気への飛散量、土壌への沈積量、地中への拡散量を推定し、それらによるリスクの評価を行ったものである。
表4に評価結果(結論)を示す。いずれのリスク事象においても、有害物質の飛散や溶出は生じ得るものの、その量は、健康への影響を憂慮すべき閾値と比較して十分に小さいという結果が示されている。
表4 太陽光発電の健康リスクに関する検討結果*10-*12
想定リスク事象 | 火災 | 破損 | 廃棄 |
---|---|---|---|
評価対象 | 結晶Si(Pb)、CdTe(Cd)、CIS(Se) |
結晶Si(Pb)、CdTe(Cd) ※CIS(Se)は溶出試験データが得られず、対象外 |
結晶Si(Pb)、CdTe(Cd)、CIS(Se) |
評価結果 | 太陽電池モジュールが設置された建物の火災により生じる有害物質の飛散、吸入によるリスクは閾値と比較して十分に小さく、消火水や雨水とともに地面に沈積した後の土壌への吸着、地中への拡散によるリスクも閾値と比較して十分に小さい。 | 破損した太陽電池モジュールから、雨水によって有害物質が溶出してしまうことにより生じ得る、土壌への沈積、大気への拡散、地下水への混入による健康へのリスクは、閾値と比較して十分に小さい。 | 廃棄された太陽電池モジュールから、有害物質(Pb(結晶Si)、Cd(CdTe)、Se(CIS))が溶出してしまうことにより生じ得る、土壌への沈積、大気への拡散、地下水への混入による健康へのリスクは、閾値と比較して十分に小さい。 |
参考:レポート | Human Health Risk Assessment Methods for PV: Part 1 Fire Risks*10 | Human Health Risk Assessment Methods for PV: Part 2 Breakage Risks*11 | Human Health Risk Assessment Methods for PV: Part 3 Module Disposal Risks*12 |
今後の活動予定
Subtask1では現在、主要国におカる太陽電池モジュールリサイクルの現状や、結晶Si太陽電池セルからの金属回収技術の調査を行うとともに、リサイクルに配慮した設計指針(“Design for recycling”ガイドライン)の作成、モジュールリユースに関する環境性および経済性の評価を行っており、これらの成果は2021年中の公表が予定されている。また、最新の太陽電池モジュールリサイクル技術を対象としたLCAを行うことも計画されている。
Subtask2では、太陽光発電の環境性に関するFactsheetの作成、ライフサイクルにおカる鉱物資源消費量の分析などを実施しており、2021年中の成果公表が予定されている。Task12のFlagshipであるLCAガイドライン、LCIレポートについても、太陽光発電技術の進展を反映し、適宜、更新されていく予定である。
Subtask3では、太陽光発電の持続可能性に関連する基準やスタンダードの整備状況や、事業入札等におカる持続可能性に対する要件などを把握するための活動を開始することが予定されている。
太陽光発電は今では、CO2排出削減のみならず、様々な環境負荷の低減に貢献するエネルギー生産・供給技術として位置づカられるようになっている。世界的な急速な普及拡大が進む中、太陽光発電の持続可能性は重要な論点であり、Task12に寄せられる期待も大きい。
欧米では、太陽光発電の環境影響評価、持続性への貢献の考え方などが整備されてきており、Task12成果物への関心は高く、そのような取り組みに対して、Task12としての助言や監修も行っている。
日本としても、これまでに蓄積されている知見や、実施されている研究開発の成果などを効果的に活用し、太陽光発電の持続性を高めるための取り組みを展開していくとともに、Task12活動への貢献、ならびにTask12活動・成果物を通じた世界への情報や成果の発信に積極的に取り組んでいく必要がある。
参考文献
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