環境エネルギー第2部
主任コンサルタント 後藤 嘉孝
コンサルタント 庭野 諒
主任コンサルタント 秋山 雄
コンサルタント 関 理貴
コンサルタント 佐々木 佑真
グリーン・ケミストリー推進に向けた戦略のあり方(PDF/28,031KB)
はじめに
現在、ペルフルオロアルキル物質及びポリフルオロアルキル物質(PFAS)と呼ばれる一群の合成化学物質の規制が世界各国で広がりを見せているほか、米国ではPFASを製造・取扱う企業に対する数多くの訴訟、NGOや消費者からの関心の高まりを受け、米マクドナルドやAmazon等、一部の企業はPFAS関連製品の代替戦略を積極的に公表している。
代替戦略の策定にあたっては、グリーン・ケミストリー(Green Chemistry)*1のコンセプトを考慮することが重要である。グリーン・ケミストリーとは、化学物質のライフサイクル全体において、人体及び環境への負荷を低減しようとするコンセプト及び技術の総称である。
本稿では、PFAS規制の概要や今後のPFAS関連製品における企業のリスク、さらに企業の機会としての欧米企業のPFAS代替の動向、そして最後に“グリーン・ケミストリー”推進に向けた有害物質代替の戦略策定のポイントを整理した。
多くの企業がPFAS関連製品のサプライチェーンにおいて関わっている可能性があり、PFAS規制及び企業動向を把握し、PFAS関連製品におけるリスクを回避するための戦略策定が求められている。
PFASとは
PFASは、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、またはその代替物質であるペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)や新しい短鎖有機フッ素化合物(GenXなど)、及びその他多くの化学物質を含む有機フッ素化合物の総称であり、分解されにくく蓄積されやすいため、永遠の化学物質(Forever Chemicals)と呼ばれる。
PFASは、図表1に示す通り調理器具、容器包装、消火剤、塗料、防汚剤等、人々が日常的に使用するさまざまな消費者製品に含まれている。PFASには、4,700種類の化学物質が含まれる可能性があると推定*2されている。
PFASには、PFOS、PFOA、PFHxSのように様々な種類について略称で呼ばれている物質があり、このうちPFOSとPFOAは、これらの化学物質の中で最も広範囲に製造され、研究されてきた。
PFASの名称は、図表2に示すように炭素数や末端の官能基(スルホン酸、酸)の違いで名称が決められているものもある。炭素鎖長8であるPFOSとPFOAが残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約により規制対象として挙げられた結果、代替物質として鎖長の異なるPFHxSやGen Xという類似の構造を持つ物質が用いられるようになっている。
図表1 PFASの広がりと人への暴露経路
(資料)各種資料を参考にみずほリサーチ&テクノロジーズが作成
図表2 PFASに含まれる化学物質及び代替の流れの例
(資料)各種資料を参考にみずほリサーチ&テクノロジーズが作成
―ワクチンの有効性低減の可能性―
PFASの毒性PFASは、外部からの作用に強く、自然界で分解するのに数千年かかるという難分解性から、環境残留性や生態蓄積性が近年注目され、問題となっている。また、腎がん、精巣がん、甲状腺や肝機能障害、高コレステロール値等の有害影響があり、ヒト健康有害性が懸念されている。
最近の研究では、PFASの一部の物質への暴露が免疫系を阻害しワクチンの効能を減退させうることを明らかにしており、新型コロナウイルス感染症のパンデミック下において非常に注目されている。
Grandjeanらの研究(2012)*3は、血液中のPFOS・PFOA・PFHxS濃度が高い子どもは、破傷風、ジフテリアを予防するワクチンへの反応が弱い傾向にあることを示している。
また、Lookerら(2014)*4は、成人411人を対象にした疫学調査により、PFOAの血液濃度が高いほど、インフルエンザワクチンによる抗体ができにくいことを示している。
こうした研究結果を踏まえ欧州食品安全機関(EFSA)は2020年9月、「Risk to human health related to the presence of perfluoroalkyl substances in food」*5において、PFASの耐容週間摂取量(TWI)を決定する際に考慮すべき最も重要な人体への影響を、ワクチン接種に対する免疫系反応の低下と述べている。
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