環境エネルギー第2部 佐々木 佑真
化学物質排出把握管理促進法(化管法)の政令が改正され、2023年4月より、新たなPRTR対象物質*1の排出量および移動量の把握が開始される。化管法では、事業者が自ら排出量等の削減目標を設定する自主的取り組みによる化学物質自主管理が掲げられてきた。本稿では、自主管理に対する支援の現状を紹介し、今後の化学物質管理のあり方について言及したい。
これまで国や自治体は、安全データシート(SDS)の作成やリスクコミュニケーション対応を中心とした事業者向けセミナーを開催し、支援を行ってきた(例:経済産業省 化学物質管理セミナー、大阪府 化学物質対策セミナーなど)。一方で、化学物質自主管理の一環として具体的な排出量の削減目標を立てるためには、化学物質のリスクアセスメントが必要であると考えるが、全国的に見てそのような支援の事例は少ない。
化学物質のリスクアセスメントは、有害性評価とばく露評価で構成され、有害性評価については、環境省事業等により化学物質の動物試験データや有害性評価値が公開されている。また、ばく露評価については、その手法として環境モニタリングとモデル推計が考えられるが、モニタリングはコストがかかり、ほかの排出源の影響を受けることから、自社のリスクアセスメントには不向きな面がある。そこでモデル推計が有効となるのだが、大気環境については排出源近傍を予測するMETI-LIS(経済委産業省-低煙源工場拡散モデル)や、より広い範囲を予測するADMER(産総研-曝露・リスク評価大気拡散モデル)などのモデルが公開されているほか、現在Excelで大気拡散を計算する簡易ツールの開発も行われている。
以上のようにリスクアセスメントのためのモデルや各種データは公開されているものの、実際にリスクアセスメントを行うとなると、ある程度の専門性が要求されることからリスクアセスメントの敷居は依然として高いのではないだろうか。
そのような中、川崎市では、化学物質のリスクアセスメントのガイダンスとして「化学物質取扱い事業所周辺の環境リスク評価のための手引き*2」を作成し、環境省事業で収集された有害性評価値を利用しやすい形で公開している。また、大気拡散モデルの使用方法を解説する「METI-LISの使用手順書*3」を作成し、事業者向け環境リスク評価講習会を開催することで、事業者によるリスクアセスメント実施を促進している。
ばく露評価については、METI-LISレベルのモデル推計を実施できれば、周辺住民へのリスクコミュニケーションやCSRへの活用ができるものと筆者は考えている。また、有害性評価については、行政等による新たなPRTR対象物質を含めたデータが整備されることが必要である。本稿で紹介した自治体の取り組み等を参考に、事業者による自主的なリスクアセスメントが促進されることを期待したい。
- *1) PRTR制度 PRTR対象物質
- *2)川崎市「化学物質取扱い事業所周辺の環境リスク評価のための手引き」 (PDF/751KB)
- *3)川崎市「METI-LIS(ver.3.4.2)の使用手順書」 (PDF/2,400KB)
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