サステナビリティコンサルティング第2部 関 理貴
生分解性プラスチック*1は、環境に配慮した素材として注目され、学術的な分野だけでなく街中でも目にする機会が多くなった。最近では、海洋プラスチックごみ(以下、海洋プラごみ)問題の高まりを受け、環境中で分解する素材としてメディアで紹介されることも多い。一方、全ての生分解性プラスチックが海洋プラごみ問題の解決に貢献するわけではない。今回は、生分解性プラスチックに対する期待と誤解について考える。
生分解性プラスチックに対する期待としてまず挙がるのは、海洋プラごみ問題の解決ではないか。海洋プラごみは、誤飲などにより生物に悪影響を及ぼすことが指摘されているが、海で分解する生分解性プラスチックであれば、海洋プラごみ問題の解決に大きく貢献することが期待できる。
また、バイオマス資源を原料とした生分解性プラスチックであれば、分解され生じた二酸化炭素がバイオマス資源の成長に活用され、再びプラスチックの原料になるという循環も実現する。農業において土壌で分解する生分解性プラスチックのマルチフィルムを使用すれば、フィルムを回収する労力の軽減も期待できる。
では、生分解性プラスチックの誤解とは何か。最も大きい誤解は、生分解性プラスチックであれば必ず速やかに分解する、ということであろう。生分解性プラスチックもさまざまな種類があり、それぞれの素材の特性に応じて分解しやすい環境が異なる。生分解性プラスチックは、種類ごとに分解を促す微生物の種類も異なっており、それぞれに適した微生物が適切な密度で存在しなければ、速やかに分解されない。たとえば、代表的な生分解性プラスチックであるポリ乳酸(PLA)は、コンポスト中では分解するが、街中の土の中などでは分解しにくく、速やかに分解しないと中途半端な分解で止まり、マイクロプラスチックを生じるおそれもある。
また、生分解性プラスチックに関しては、その取り扱いの難しさも考えなければならない。加工性・成型性のほかに、素材の耐久性という特有の問題がある。生分解性プラスチックは、特定の環境下でなければ分解しにくいが、それ以外でも緩やかに分解されるものが多い。ポリエチレンやポリプロピレンのような従来のプラスチックと同じような感覚で使用すると、倉庫で保管中に分解してしまったという事態が生じるため、使用にあたっては、時間軸も考慮する必要がある。
このような意図しない分解を生じない素材の開発も進められている。たとえば、「ムーンショット型研究開発事業*2」においては、分解のタイミングやスピードをコントロールする研究が採択され、技術開発の進展が期待される。
生分解性プラスチックは、環境問題の解決や作業効率の向上に貢献する可能性のある非常に有望な素材である一方、正しく性質を理解しなければ、別の環境問題や思わぬ事態を引き起こす可能性もある。素材の特性を正しく理解し使用することが、優れた素材の普及に不可欠である。
- *1)プラスチックとしての機能や物性に加えて、ある一定の条件の下で自然界に豊富に存在する微生物などの働きによって分解し、最終的には二酸化炭素と水にまで変化する性質を持つプラスチック
- *2) ムーンショット型研究開発事業(NEDO)
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