キービジュアル画像

激甚化する水害への対策の現状と浸水シミュレーション

2022年2月4日 サイエンスソリューション部 溝内 秀男

はじめに

近年、気候変動の影響により全国各地で水害が激甚化・頻発化しており、今後も降水量が増大し、引き続き被害拡大が懸念されている。このような現状に対し、国土交通省は様々な水害対策を推進している。

例えば、近年の台風・豪雨において雨水処理を行う下水道施設そのものが水害で機能停止する事態が頻発していることへの対策として、下水道施設を管理する地方自治体に対して「下水道施設の耐水化」を令和2年度より推進している*1

また、国や都道府県の河川管理者や下水道管理者といった管理者が主体的に行う従来の治水対策に加えて、上流から下流、本川・支川などの流域全体を俯瞰して、国・都道府県・市町村、さらには企業や住民等のあらゆる関係者が協働して取り組む「流域治水」の考え方を推進すべく、「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律」(流域治水関連法)が令和3年7月から施行されており、併せて関連する水防法・下水道法・河川法等も改正・施行されている*2。さらに、流域治水の実装手段として、グリーンインフラを活用して水害への防災・減災を図りつつ、環境や地域振興も含めた総合的な観点での持続可能な地域づくりも推進している*3

本コラムでは、上記「下水道施設の耐水化」及び「流域治水関連法」について紹介するとともに、当社の保有している浸水シミュレーション技術の活用について紹介する。

下水道施設の耐水化

令和元年東日本台風や令和2年7月豪雨では、下水道施設そのものが設備の水没等により機能停止に陥る等、下水道施設自体の浸水被害が問題となった。これを受けて国土交通省が設置した有識者会議「気候変動を踏まえた都市浸水対策に関する検討会」*4は提言の一つに、「下水道施設の耐水化の推進」*5を挙げ、下水道施設を管理する地方自治体が、下水道施設の耐水化や建物の防水化等を推進する方針を示した。

この方針では、高リスクの下水道施設に対して、令和2年度までに耐水化計画を策定し、その後5年程度で受変電設備とポンプ設備の耐水化を、10年程度で電気施設の移設や建物の耐水化といったハード対策の完了を目指している。また、ハード対策でカバーできない浸水に対しては、事業継続計画(BCP)等のソフト施策により下水道機能の迅速な回復を目指すよう求められている。

この耐水化計画に対して、公益財団法人日本下水道新技術機構(下水道機構)は、耐水化計画策定の具体的手順等をまとめた手引書「下水道施設の耐水化計画と対策立案に関する手引き」*6を令和3年3月に刊行し、全国の地方自治体に配布した。特に、本手引書にて、対策浸水深*7の策定に必要な内水浸水*8想定区域図が未作成の場合、公表された浸水実績図の使用が認められた他、簡易な浸水シミュレーションにより浸水想定する措置も認められた。尚、本手引書は下水道機構が主催した共同研究の成果物であり、当社も共同研究のメンバーとして参画し、簡易シミュレーションの例には、当社開発シミュレータ*9の解析結果が掲載されている。

流域治水関連法

流域治水関連法は、流域治水を強力に推進するための法的枠組みとして制定され、令和3年7月に施行された。併せて関連する水防法・下水道法・河川法等も改正・施行された*2。以下では、特に浸水シミュレーションと関係のある事項について紹介する。

近年、洪水浸水*10想定区域の指定対象ではない中小河川において、多くの浸水被害が発生している。この対策として、浸水想定区域の指定対象外の河川、下水道、海岸のうち、周辺に住宅等の防護対象のあるものについては指定対象に追加し、水害リスク情報の空白地帯をなくすよう改正された。例えば、令和7年度までに洪水浸水、雨水出水浸水*11、及び高潮浸水*12の想定区域の見直しを行うことが求められている。これに伴い、各地方自治体では防災計画及びハザードマップの見直しが必須となり*2、今後全国的に行われるハザードマップの作成・見直しに資する浸水シミュレーションの需要は大きくなると考えられる。

また、流域治水の遂行のため、下水道法の改正で、国や地方自治体に認定された民間企業が雨水貯留浸透施設の整備を行うことが可能になり、補助金や固定資産税の軽減等を受けられる*13。これら民間による施設の建設が頻繁になれば、設計等で浸水シミュレーションの需要も大きくなるであろう。

おわりに

今後更なる需要が予想される浸水シミュレーションに対し、当社も保有する浸水シミュレーションの技術を活かして、水害対策に貢献できれば幸いである。

特に当社には、自社開発のシミュレータとして、河川・下水道・地表面氾濫の同時解析シミュレータ*9や津波・高潮シミュレータ*14等がある。これらシミュレータの組み合わせやカスタマイズにより、洪水・雨水出水・高潮の浸水シミュレーションに幅広く対応できるとともに、例えば、本コラムの主題とは外れるが、津波が特定の都市に及ぼす水害を津波発生時点からの一貫解析で行うことで、津波対策にも役立つと考えている。このように、当社保有のシミュレーション技術で幅広く水害対策に貢献していきたい。