みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席研究員 藤森 克彦
- *本稿は、『個人金融』2022年冬号(一般財団法人ゆうちょ財団、2022年2月発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
社会的孤立は何が問題なのか
では、社会的孤立は、何が問題なのだろうか。高齢者を中心にした社会的孤立に関する先行研究をみると、孤立している高齢者は、孤立していない高齢者に比べて、経済的困窮に陥りやすいこと、抑うつ傾向が強いこと、不健康になりやすいことなどが指摘されている*3。現役世代であっても、社会的孤立に陥れば、こうした問題が顕在化することが考えられる。
そこで以下では、みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)に基づいて、各孤立指標について、①経済的困窮、②生きる意欲や自己肯定感の低下、③主観的不健康に陥る人の比率を、孤立者と非孤立者に分けて比べていく。
(1)経済的困窮と社会的孤立の関係
第一に、経済的困窮と社会的孤立との関係についてみていく。具体的には、「等価可処分所得第1十分位*4」に属する人の比率と「現在の暮らし向きが大変苦しい」と回答する人の比率を、孤立者と非孤立者で比べていく。
まず、「等価可処分所得第1十分位」に属する人の比率を孤立者と非孤立者で比べると、会話欠如型、受領的サポート欠如型、提供的サポート欠如型のいずれの孤立指標においても、孤立者は非孤立者よりも第1十分位に所属する人の比率が高い(表5)。
また、「現在の暮らし向きが大変苦しい」と回答する人の比率をみても、会話欠如型、受領的サポート孤立型、提供的サポート欠如型の孤立指標において、孤立者の方が非孤立者よりも「現在の暮らし向きが大変苦しい」と回答する人の比率が顕著に高い。
以上のように、会話欠如型、受領的サポート孤立型、提供的サポート欠如型の孤立に陥っている人は、経済的に困窮している人の比率が高い。
そして、孤立者が経済的困窮に陥ると、支援を頼める相手がいないために、最悪の場合、衣食に関する生活必需品を購入できないことや、ライフラインが止められるリスクがある。表5は、4つの孤立指標について、過去に「食料を買えない経験」「衣料を買えない経験」「公共料金の未払いの経験」があったかどうかを尋ねたものである。その結果をみると、どの孤立指標も、孤立者の方が非孤立者よりも、こうした経験をもつ人の割合が高い。特に、会話欠如型や受領的サポート欠如型において、孤立者と非孤立者の差が大きい。
経済的困窮に陥っても、早期に支援を求めることができれば、生活再建も行いやすい。しかし、社会的に孤立すると、生活困窮が一層深刻になっていく懸念がある。
表5 経済的困窮と社会的孤立との関係
左右スクロールで表全体を閲覧できます
(単位:%)
会話欠如型 | 受領的サポート欠如型 | 提供的サポート欠如型 | 社会参加欠如型 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
孤立者 | 非孤立者 | 孤立者 | 非孤立者 | 孤立者 | 非孤立者 | 孤立者 | 非孤立者 | |
等価可処分所得第1十分位に属する |
26.9 |
7.0 |
21.5 |
6.1 |
14.1 |
4.8 |
6.5 |
6.8 |
現在の暮らし向きが「大変苦しい」 |
24.3 |
8.1 |
28.0 |
8.0 |
18.2 |
8.1 |
9.7 |
8.4 |
食料を買えない経験があった |
31.2 |
12.4 |
35.0 |
12.0 |
22.9 |
11.1 |
17.1 |
12.3 |
衣料を買えない経験があった |
30.5 |
14.1 |
33.9 |
13.7 |
20.8 |
12.9 |
17.4 |
13.9 |
公共料金の未払いがあった |
16.5 |
7.6 |
20.1 |
7.3 |
12.8 |
7.1 |
8.8 |
7.8 |
(注)太文字部分は、10%を超える箇所。
(出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)、34-36、38、40頁に基づき作成。
(2)生きる意欲や自己肯定感の低下
第二に、社会的孤立の問題点として、生きる意欲や自己肯定感の低下を招くことがあげられる。
国立社会保障・人口問題研究所(2017)では、「何をするのも面倒くさい」や「自分は価値のない人間だ」と感じるかを尋ねる項目がある。これらの項目は、生きる意欲や自己肯定感に関わる項目と考えられる。会話欠如型、受領的サポート欠如型、提供的サポート欠如型の孤立に陥る人において、15%弱の孤立者が「何をするのも面倒くさい」と考えており、非孤立者よりも高い水準である(表6)。また、「自分は価値のない人間だ」と考える人の割合も、上記の3つの孤立に陥る人は、非孤立者よりもかなり高い水準にある。
また、国立社会保障・人口問題研究所(2017)では、「まわりの物事に神経過敏に感じる」「何かに絶望的だと感じる」「そわそわ落ち着かないと感じる」「気分が沈み込んで気が晴れない」という点も尋ねている。これらの指標に「何をするのも面倒くさい」「自分は価値のない人間だ」を加えた6つの質問項目は、うつ・不安障害の指標でもある。会話欠如型、受領的サポート欠如型、提供的サポート欠如型の孤立に陥る人は、孤立者の方が非孤立者に比べてうつ・不安障害の傾向が強いこと推察される。
表6 生きる意欲や自己肯定感などと社会的孤立との関係
左右スクロールで表全体を閲覧できます
(単位:%)
会話欠如型 | 受領的サポート欠如型 | 提供的サポート欠如型 | 社会参加欠如型 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
孤立者 | 非孤立者 | 孤立者 | 非孤立者 | 孤立者 | 非孤立者 | 孤立者 | 非孤立者 | |
何をするのも面倒くさいと「いつも」感じる |
14.7 |
4.0 |
13.6 |
4.0 |
14.0 |
3.9 |
3.8 |
4.6 |
自分は価値のない人間だと「いつも」感じる |
14.0 |
2.1 |
13.1 |
2.1 |
8.2 |
2.1 |
2.3 |
2.5 |
まわりの物事に神経過敏に「いつも」感じる |
11.6 |
4.6 |
5.7 |
4.6 |
9.2 |
4.5 |
4.2 |
5.0 |
何かに絶望的だと「いつも」感じる |
10.8 |
2.3 |
7.9 |
2.3 |
8.2 |
2.1 |
2.0 |
2.6 |
そわそわ落ち着かないと「いつも」感じる |
7.8 |
1.6 |
4.9 |
1.6 |
7.3 |
1.3 |
1.4 |
1.9 |
気分が沈み込んで気が晴れないと「いつも」感じる |
10.0 |
2.2 |
6.7 |
2.2 |
8.0 |
2.0 |
1.9 |
2.5 |
(注)太文字部分は、10%以上の箇所。
(出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)、46-51頁に基づき作成。
(3) 主観的健康の低下
次に、主観的健康について「健康状態がよくない」という回答した人の比率をみると、会話欠如型、受領的サポート欠如型、提供的サポート欠如型において、孤立者は非孤立者よりも「健康状態がよくない」と回答する人の比率が高い(表7)。
健康状態が悪ければ、他者に支援を求めることが必要になるが、孤立している1割程度の人は、会話頻度が低く、頼れる人がなく、手助けする相手もいないことが考えられる。
表7 主観的健康と社会的孤立との関係
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(単位:%)
会話欠如型 | 受領的サポート欠如型 | 提供的サポート欠如型 | 社会参加欠如型 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
孤立者 | 非孤立者 | 孤立者 | 非孤立者 | 孤立者 | 非孤立者 | 孤立者 | 非孤立者 | |
健康状態がよくない |
13.2 |
2.6 |
10.4 |
2.4 |
10.5 |
2.0 |
3.5 |
2.7 |
(注)太文字部分は、10%以上の箇所。
(出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)、43頁に基づき作成。
おわりに ―社会的孤立への対応
(1)社会的孤立の実態とその問題点
以上をまとめると、社会的孤立の実態として下記の点があげられる。これらは、社会的孤立に陥りやすい人の主な属性などを示しており、今後留意していく必要があろう。
第一に、年齢階層別に社会的孤立の出現率をみると、会話欠如型、受領的サポート欠如型、提供的サポート欠如型の孤立に陥る人の比率は、50代までは低水準であるが、60代以降になると高まっていく。特に、提供的サポート欠如型の孤立に陥る女性の比率が、70代から80代にかけて急激に高まっている。
第二に、配偶関係別に60歳未満の社会的孤立の出現率をみると、会話欠如型と受領的サポート欠如型の孤立に陥る人の比率は、未婚者と離別者で高い。一方、提供的サポート欠如型は、未婚者と死別者で高い水準にある。
また、60歳以上について配偶関係別の社会的孤立者の出現率をみると、未婚者において、会話欠如型、受領的サポート欠如型、提供的サポート欠如型の出現率が10%を超える高い水準になっている。また、離別者も、提供的サポート欠如型の孤立に陥る人の比率が10%を超えている。
第三に、世帯類型別に社会的孤立の出現率をみると、高齢期と現役期の単身男性は、会話欠如型、受領的サポート欠如型、提供型サポート欠如型の孤立に陥る人の比率が高い。特に、高齢の単身男性は、これらの孤立指標で出現率が10%を超える高い水準である。また、ひとり親世帯も、社会参加欠如型の孤立に陥る人の比率が高い。
次に、社会的孤立の問題点をみると、以下の点を指摘できる。
第一に、経済的困窮と孤立との関係をみると、会話欠如型、受領的サポート孤立型、提供的サポート欠如型の孤立に陥っている人は、経済的に困窮している人の比率が高い。そして、孤立者は、衣食に関する必需品を購入できない経験や、ライフラインが止められる経験をもつ人の比率が高い。孤立者が経済的困窮に陥ると、支援を求める相手がいないために一層深刻な状況に陥ることが考えられる。
第二に、生きる意欲や自己肯定感の低下と孤立との関係をみると、会話欠如型、受領的サポート欠如型、提供的サポート欠如型の孤立に陥る人において、生きる意欲や自己肯定感が低い傾向がみられた。さらに、孤立者の方が非孤立者に比べてうつ・不安障害になりやすいと推察される。
第三に、主観的不健康と社会的孤立との関係をみると、会話欠如型、受領的サポート欠如型、提供的サポート欠如型において、孤立者は非孤立者よりも「健康状態がよくない」と回答する人の比率が高い。
(2)社会的孤立への対応としての「伴走型支援」
では、社会的孤立に対して、どのような対応が求められているのだろうか。この点、生活が困窮する孤立者への支援を行う現場から、社会的孤立に対する新たな支援の在り方として、「伴走型支援」が提案されている(奥田・原田、2021)。伴走型支援とは、相談支援の専門職や地域の人々が、孤立者とつながりつづけることを目的としたアプローチであり、従来の「課題解決を目的にしたアプローチ」とは異なる。なお、「伴走型支援」と「課題解決型支援」は対立する概念ではなく、「支援の両輪」である(地域共生社会推進検討会、2019)。
伴走型支援が求められる背景には、孤立している人は、自ら抱えている課題を認識していないことが多いことがある。自らの状況を認識するには、「他者の存在」が必要であり、他者が自らを映す鏡となって、自己の課題を知る。また、生きる意欲も、「誰かのために働く」というように、他者の存在から生じる面がある。
伴走型支援は、孤立者と伴走者が関係性を築くことによって、孤立者が自らの課題を認識して、自己肯定感をもてるようにしていく。時間をかけて関係性を築き、関係性を広げて、別の展開が始まることを待つ。
このような支援を「存在の支援」と呼び、課題解決型支援における経済的自立に向けた「処遇の支援」と区別する。そして、伴走型支援は、支援を受けた者が支援をする側に変わるなど、互酬的関係になっていくことを目指す。他者との関係性の中で生きる力を醸成し、その一方で、自らも社会参加をすることで自己肯定感を確保する。
今後、未婚者や単身世帯の増加によって、孤立する人が増加する可能性がある。人は一人では生きられない。新たな支え合いに向けた取り組みを強化していくことが求められている。
注
- *1)ワーキングペーパーは、西村幸満(2021)「単身女性の生活保障―家族と雇用に注目して」国立社会保障・人口問題研究所『ワーキングペーパー』No.46である(みずほリサーチ&テクノロジーズ,2021,20)。
- *2)みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)では、「広義」の受領的サポートの定義として、9項目の事柄の全ての設問について「(頼れる人は)いない」あるいは「そのことでは人に頼らない」のいずれかを選択した場合に、「受領的サポート欠如型の孤立者」としている。また、「広義」の「社会参加欠如型の孤立者」の定義として、7項目の事柄のすべての設問について「参加したいができない」あるいは「参加する予定はない」のいずれかを選択した場合に、「社会参加欠如型の孤立者」としている。
- *3)例えば、斎藤(2018:30-44)では、高齢者の社会的孤立に関連している諸問題として、①ソーシャル・サポートの乏しさ、②低所得・住環境の劣悪さ、③生活満足度の低さ・孤独感・抑うつ傾向、④自殺、⑤健康寿命の喪失、⑥犯罪、があげられている。
- *4)等価可処分所得第1十分位とは、世帯規模を調整した等価可処分所得について、収入の低い方から高い方へ順に並べて10等分した十の分位のうち、等価可処分所得が最も低い下位10%の階層をいう。
参考文献
- 阿部彩(2014)「包摂社会の中の社会的孤立―他県からの移住者に注目して―」『社会科学研究』第65巻第1号、2014年5月
- 奥田知志・稲月正・垣田裕介・堤圭史郎(2014)『生活困窮者への伴走型支援』明石書店
- 奥田知志・原田正樹(2021)『伴走型支援』有斐閣
- 国立社会保障・人口問題研究所(2019)「2017年社会保障・人口問題基本調査 生活と支え合いに関する調査報告書」『調査研究報告資料第37号』、2019年4月
- 斎藤雅茂(2018)『高齢者の社会的孤立と地域福祉』明石書店
- 地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会(地域共生社会推進検討会)(2019)『最終とりまとめ』、2019年12月26日
- 内閣府(2014)『「絆」と社会サービスに関する調査 結果の概要』
- 服部広子・一番ケ瀬康子訳(1974)『老人の家族生活―社会問題として』家政教育社(Townsend,P.(1963).The Family Life of Old People: AnInquiry in East London, Routledge & KeganPaul.)
- 藤森克彦(2017)『単身急増社会の希望』日本経済新聞出版社
- 藤森克彦(2016)「社会的孤立4類型からみた単身世帯における孤立の実態分析」国立社会保障・人口問題研究所『生活と支え合いに関する調査(2012年)二次利用分析報告書(平成27年度)』所内研究報告, 66
- みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)『社会的孤立の実態・要因に関する調査分析等研究事業報告書』(厚生労働省令和2年度社会福祉推進事業) (PDF/6,200KB)(2022年1月8日閲覧)
関連情報
この執筆者はこちらも執筆しています
-
2022年3月
『週刊東洋経済』 2022年1月22日号
-
2021年12月
『週刊東洋経済』 2021年11月20日号