社会政策コンサルティング部 主任コンサルタント 村井 昂志
【分析1】「コロナショック」下での在宅勤務の実施状況とその地域差の把握
(1)分析内容・手法
ここでは、基本的な実態把握として、新型コロナウイルスの感染状況の推移に応じた、平日における在宅勤務の実施率の変化状況を把握した。
これにあたり、まず、それぞれの分析対象者の滞在場所・時間について、下記のような条件を適用し、土曜日・日曜日を除くそれぞれの日において、「在宅勤務」であったのか「出勤」であったのかを推定した。
本分析では、2で抽出した336人のうち、推定勤務地が板橋区内である者(45人)は、スマートフォンの位置情報から「在宅勤務」「出勤」を判定しにくいため、これを除く291人を分析対象とした。なお、「2.用いた位置情報データ」に記載の通り、この291人は、属性情報が「昼勤、フルタイム、ビジネスパーソン」の3つすべてに該当する。
次いで、2に記載した①2019年10月・②2020年7月・③同10月・④同12月の4期のそれぞれについて、
を算出し、①~④の4期の間の変化について検討すべく、対応関係のあるt 検定を用いた有意差の検定を行った。
なお、在宅勤務の行いやすさや実施率には、業種や職種による違いがあるものと考えられるが、スマートフォンの位置データからは、個々の端末所有者の業種や職種を直接に推定することが難しい。これを踏まえ、「オフィスビルの多い都心部への通勤」と「工場の多い地域への通勤」といった勤務先の立地条件の違いを通じて、業種や職種による違いの影響を間接的に把握すべく、この平均在宅勤務日数は、図表1に示した推定勤務地間でも比較を行った。
(2)分析結果
①平日における在宅勤務/出勤/その他の日数の推移
図表2に、平日5日間の在宅勤務/ 出勤/ その他の日数の推移を示す。
図表2 平日5日間における在宅勤務/ 出勤/ その他の平均日数の推移(n=291)
*: p<0.05, **: p<0.01, ***: p<0.001
株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計
分析対象とした291名全体では、平日5日間の平均在宅勤務日数(推定)は、「コロナショック」前の①2019年10月の0.49日から、②2020年7月・③10月・④12月には1.30日、1.21日、1.33日へと有意に増加した(いずれもp<0.001)。一方、平均出勤日数(推定)は、2019年10月の3.60日から、2020年7月・10月・12月には2.84日、2.86日、2.82日へと有意に減少した( いずれもp<0.001)。
新型コロナウイルス感染拡大を機に、出勤から在宅勤務への転換が生じているものと推測される。 勤務日数が有意に増加した(p=0.045)。
②推定在宅勤務日数の遷移状況
①2019年10月と③2020年10月との間の、平日5日間における推定在宅勤務日数の遷移を、図表3に示す。291人中120人の在宅勤務日数が増えており、うち64人は2日以上の増加をみている(図表3の青色破線部分)。
図表3 2019年10月と2020年10月との間の平日5日間の推定在宅勤務日数の遷移
株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計
③推定勤務地別の在宅勤務日数の比較
①~④の4期の、平日5日間における平均在宅勤務日数の推移や変化を図表4、5に示す。
「コロナショック」前の①2019年10月の在宅勤務日数に対し、②2020年7月・③10月・④12月の在宅勤務日数は、推定勤務地が都心3区(千代田区・中央区・港区)や周辺4区(新宿区・文京区・品川区・渋谷区)、多摩地域・東京都外である者について、有意に増加した。また、このうち推定勤務地が都心3区である者については、②2020年7月に対して③2020年10月に有意な減少、③2020年10月に対して④2020年12月に有意な増加がみられ、新型コロナウイルスの感染拡大・収束状況に合わせて、在宅勤務日数が増減をみせている(図表4、5)。
一方、推定勤務地が東部8区(台東区・墨田区・江東区・北区・荒川区・足立区・葛飾区・江戸川区)である者については、有意な変化がみられない(図表5)。
図表4 推定勤務地の地域別 平日5日間における平均在宅勤務日数の推移
株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計
図表5 推定勤務地の地域別 平日5日間における平均在宅勤務日数の変化
株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計
また、①2019年10月をベースラインとした②2020年7月・③10月・④12月の平均在宅勤務日数の変化幅について、ウェルチのt検定によって都心3区とそれ以外の地域とを比較した結果を、図表6に示す。②2020年7月・③10月・④12月のいずれにおいても、都心3区が推定勤務地である対象者の平均在宅勤務日数の増加幅が、他の地域が推定勤務地である対象者よりも有意に大きかった(いずれもp<0.001)。
これらの結果から、各地域に多く立地する事業所の違いに応じて、通勤者の業種や職種が異なり、特にオフィスビル勤務のホワイトカラー職の多い勤務先において、在宅勤務への転換が多く行われていることが推察される。
図表6 推定勤務先地域別 2019年10月を基準とした平日5日間における平均在宅勤務日数の増加幅
*: p<0.05, **: p<0.01,
***:
p<0.001
株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計
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