サイエンスソリューション部 コンサルタント 室井 謙吾
1995年に起きた兵庫県南部地震以後、地震による構造物の安全性検討として液状化の影響検討は重要事項となっている。液状化検討において液状化解析は重要であるが、解析技術の習得には適切な液状化パラメータ(注:液状化のしやすさを規定する地盤パラメータ)の設定など高度な専門性が求められる。地震大国である日本では従来から河川堤防や護岸構造物、重要構造物などにおける耐震性能評価として数多く検討されてきた。さらに、近年注目を集めている着床式洋上風力の設計、建設においても地盤の液状化の影響検討は設計上の課題である。本稿では、液状化解析の現状を整理し、液状化パラメータの最適化や洋上風力への適用を例にとって今後の技術展望について考察する。
液状化とは
(1)液状化現象について
液状化現象は埋立地や干拓地、砂州の間の低地などのゆるく堆積した地盤に強い地震動が加わることで地層自体が液体状になる現象である。日本においては、1964年の新潟地震の際に構造物の支持地盤の液状化により、建物が転倒あるいは沈下・傾斜する被害が発生し、液状化現象がよく知られるようになった。また、同年に発生したアラスカ地震でも液状化による被害が発生し、日米で研究が活発に行われるようになった。液状化により生じる現象として噴砂・噴水(注:砂と水が地表に吹き上がる現象)、構造物の沈下、浮き上がり、側方流動(注:液状化に伴い、地盤が水平方向に大きく変位する現象)、地盤沈下などがある。
(2)液状化の被害について
①構造物の沈下
前述したとおり1964年の新潟地震では数m規模の大規模な沈下が見られた。その後1995年兵庫県南部地震や2011年東北地方太平洋沖地震でも住宅の沈下被害などが発生しているが、最近では木造家屋でも、基礎がしっかりしていれば建物の上部構造に被害が出ず、沈下しても基礎を持ち上げて復旧させることが可能な事例が存在する。その他に盛土や堤防などの構造物下の地盤で液状化が発生し、被害が発生した事例もある。
図表1 液状化現象の一例(沈下)
(資料)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成。
②浮き上がり
1993年釧路沖地震や2003年十勝沖地震などではマンホールの浮き上がりが見られた。地中構造物は内部に空間があり、液体状となった水の単位体積重量よりも軽い構造物は浮き上がる。そのほかにも下水道管や重油タンクの浮き上がりなどの事例がある。
③側方流動
液状化に伴う地盤の流動に起因して被災した事例として、1995年兵庫県南部地震の際の護岸背後地盤の移動(陸側(高い方)から海側(低い方)へ)による沈下やそれに伴う護岸近傍の杭の被害などが挙げられる。
④地盤沈下
液状化発生後に地表に水が湧きあがり、これに伴い地盤が沈下すると、杭支持の構造物のように沈下しない構造物との間に段差が生じる。1995年兵庫県南部地震のポートアイランドの事例などが挙げられる。
液状化対策と検討手法
一般に液状化が生じると想定される場合には、構造物への影響を適切に評価し、耐震検討に取り入れなければならない。そして、必要に応じて液状化が発生しないように地盤改良工法など対策を講じる。しかし、1995年兵庫県南部地震の地震動が当時の設計指針では考慮していなかったような大きなものであり、それ以降非常に大きな地震動(レベル2地震動)を考慮するようになった現在の設計指針に基づいた設計用地震動では、地盤そのものの液状化を完全に防ぐことが難しいケースがある。そのような場合には、地震時の構造物の杭基礎などの構造部材にかかる応力を計算し、構造物に要求される性能が守られるように設計をする。このような考え方を性能設計(performance-based design)といい、現在の主流となっている考え方である。
地盤が液状化するか判定する方法として、現在用いられているものは①「土質調査・試験結果をもとにした簡易な判定法」、②「土質調査結果や液状化試験結果を用いて、静的または動的解析を行う詳細な判定法」の2つである。①の判定法は簡単に液状化判定ができ、精度も高く、必要な調査も標準貫入試験などの一般的なもので済むため、多くの指針類に取り入れられている。主な方法は「粒度とN値による方法」「FL値法」「FL値を深さ方向に重み付けして積分した値である液状化指数(PL値)によって判別する方法」などがある。PL値は、地盤のある深さの液状化のしやすさを表すFL値とは異なり、地盤の総合的な液状化の激しさを表す指標であることから、特に多くの基準で一般的に用いられている。一方、より詳細な判定が必要だと想定される場合には、②の判定法によりさらに精度よく判定できるが、別途土質試験が必要となること、数値解析(全応力解析法あるいは有効応力解析法(注:有効応力解析法:土に応力が作用するとき、土骨格が受け持つ応力と間隙水が負担する応力に分けて表現し、間隙水圧の発生を考慮する解析手法))が必要になるため、時間・費用ともに増大する。しかし、全応力解析法による一次元地盤応答解析については比較的容易に行えるようになってきたことから、簡易判定法として同解析の結果を一部利用して判定することも増えてきている。
液状化を検討する必要がある主な構造物としては、過去の地震により多数の被害が報告されている河川堤防、港湾の護岸や厳格な耐震検討が求められる重要構造物、さらに着床式洋上風力などがある。
液状化解析の現状について
(1)解析手法の概要
液状化現象は一種の地盤破壊現象であり、地盤の地震応答解析の一分野として発展してきた。地震応答解析手法の開発は1970年代になって本格化し、まず、全応力解析で土の非線形性を近似的に表現したSHAKE*2に代表される等価線形解析が登場した。なお、SHAKEはUniversityof California,Berkeleyで開発され、一次元であるため簡易的であること、またフリーソフトであることも相まって、急速に広がり、現在でも広く使用されている。しかし、全応力解析法のため液状化解析には現在のところ、適用不可である。
1970年代後半から北米や日本などで有効応力解析法が開発され、液状化を考慮した解析が可能になった。日本においては、有効応力解析法の解析プログラムの発展の過渡期に兵庫県南部地震などの液状化が発生した実事例の再現解析を行うことができ、プログラムの適用性に関して十分な検証をすることができたため、急速に発展することができた。図表2に液状化解析に関する発展の概観を示す。
図表2 液状化解析に関する発展の概観
(資料)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成。
(2)各解析プログラムの詳細
以下では、実務においてよく使用されるものや高度な構成モデルを用いた液状化解析プログラムとしてFLIP(Finite element analysis forLiquefaction Program)*3、LIQCA(ComputerProgram for Liquefaction Analysis) *6、GEOASIA( All Soils All States All RoundGeo-analysis Integration) *7の代表的な3つのプログラムを紹介する。図表3に3つのプログラムが採用している解析手法の比較を示す。なお、各解析プログラムの構成モデルなどの詳細はそれぞれの論文を参照されたい。
①FLIP
旧運輸省港湾技術研究所において、「液状化による構造物被害予測プログラム」として開発された。港湾基準*4に記載のため実績が多数存在する。後述するLIQCAにも共通するが、解析モデル作成時に事前に液状化が想定される層を液状化層として定義し、その液状化層には液状化パラメータの設定をする必要があるが、液状化に関するパラメータの設定が難しく、熟練な技術を要する。液状化層は標準貫入試験などの試験結果をもとに解析実施者が設定する必要がある。液状化パラメータの設定にあたっては、土質試験を模擬した要素シミュレーションで液状化強度(注:土の性質を表現する主要な指標)を目標値としてフィッティングする、あるいは土質試験結果(液状化強度試験結果)が得られていない場合には簡易パラメータ設定法*5により設定する必要がある。また、解析において設定するパラメータは多いが、その一つ一つを試験結果に合わせてパラメータ調整を行うわけではなく、液状化強度曲線が合うという条件でパラメータ調整を行っていることから、同一の液状化強度曲線に合うようなパラメータの組み合わせは多数あり、それらの結果は当然差異が生じる。液状化強度を合わせたとしても地震時の挙動が、実際の挙動と相違なく正しく求められるとは限らないため、場合によっては他の液状化に関する試験結果とも整合をとるなど注意が必要である。また、解析範囲拡大と精緻化向上を目的とし、ユーザー会員が自由に参加できるワーキング活動(通称FLIPWG)が盛んであり、実務上の課題への対応や解析の適用範囲の拡大が進んでいる。
②LIQCA
京都大学を中心とする開発グループにより開発された。FLIPでは非線形特性とダイレイタンシー特性(注:ダイレイタンシー:せん断力によって、土粒子の配列が変わり体積が変化すること)を別々に表現していたが、まとめて表現した構成モデルを用いる。液状化層の設定および液状化パラメータの設定に関する留意事項はFLIPと同様である。
③GEOASIA
名古屋大学地盤研究グループにより開発された地盤解析技術であり、従来の地盤解析技術では、砂・粘土などの地盤を構成する土の種類によって構成モデルが異なり、沈下・地盤の液状化・地震時応答などの地盤が示す挙動ごとに解析ツールの使い分けの必要があったが、GEOASIAでは地盤に発生するあらゆる力学現象を統一的に記述できる*8。解析を実施するうえで、土質パラメータ把握のためにいくつかの土質試験を実施する必要がある。また、学術的な解析コードであり、一定の基準を満たした技術者のみ利用可能であるなど実務における解析事例は少ない。
図表3 FLIP、LIQCA、GEOASIAの比較
(資料)各種情報よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成。
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