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アバターロボット ―遠隔操作型ロボットへの期待

2020年12月28日 経営・ITコンサルティング部 川瀬 将義

注目が高まっているアバターロボット

昨今のテクノロジーの進展、少子高齢化による労働力不足、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)に代表される感染症の流行により、ロボットを活用したサービスが広がりつつある。たとえば、ロボットによる店頭接客や案内は珍しくなくなってきており、物流業界では倉庫内の運搬作業を代替するロボットの導入に加え、宅配を担う自動配送ロボットの実証試験も行われている。

最近では、これらの自動ロボットに並び、人間による遠隔操作を前提としたアバターロボットにも注目が高まっている。アバターロボットは、ロボットが体感した感覚情報を人間にフィードバックすることで、まるで人間が遠隔地に存在しているかのように存在を拡張するためのロボットである。人間の眼に相当するカメラ、手に相当するロボットアームと触覚センサー、足に相当する移動機能などが搭載*1されており、遠隔地にいる人間は、カメラ映像を見て、触覚を感じながらアームや移動の操作を行うことができる。それにより、人間はアバターロボットを疑似的な身体として、あたかも現場でコミュニケーションや作業をしているかのような体験が可能である。そのため、デスクワークに限らない遠隔就業*2、テレショッピング*3などの距離を超越した遠隔体験や危険環境下の作業代替*4など、さまざまな領域で活用が期待されている。

近年、アバターロボットへの注目が高まっている背景としては、ロボティクス技術に加え、人間への感覚提示技術などのテクノロジーの進展によるところが大きい。視聴覚はAR/MR*5で、触覚はハプティクス*6でロボットが体感した感覚を再現し、人間にフィードバックすることが一定水準で可能となった。また、5Gにより、これらの感覚情報を大容量・低遅延で通信できるようになりつつあることも重要なファクターである。加えて、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、人間同士が接触せずに活動できる技術として、さらに注目が高まっている。

アバターロボットの社会実装が期待される領域

1. 物理的な距離をものともしない遠隔体験

アバターロボットの大きなメリットの1つとして、物理的な距離に関係なく人間の存在を遠隔地に疑似的に瞬間移動できる点が挙げられ、これを活かしたサービスが実際に検討されている。たとえば、アミューズメント施設や実店舗にアバターロボットを配置し、イベントやショッピングを遠隔地にいながら体験できるサービスの実証試験が行われている。将来的には、カーシェアリングのように、空いている共有のアバターロボットにユーザーがいつでもどこでも瞬時に存在を移すことができる、新たな遠隔体験プラットフォームとしての確立・普及が期待される。

2. 危険環境下の作業代替

人間を危険に晒さずに作業できることも大きなメリットであり、建設現場、宇宙、災害現場など、危険環境下の作業代替が期待されている。こうした環境では、自動ロボットの活用も期待されているが、高度な判断能力が必要な作業の代替は困難である。すでに危険環境下でのアバターロボットの活用に向けた取り組みは始まっており、建設現場や宇宙などの実環境における複数の実証試験が実施・予定されている。

3. 労働力不足解消

アバターロボットは労働力不足解消の効果も期待されている。労働力不足解消に対しては、単純な繰り返し作業を自動ロボットで代替する取り組み*7が一般的である。しかし実際には、現状の自動ロボットでは担えない複雑な作業工程があり、人間による操作やフォローが不可欠な場合も多い。アバターロボットを用いた労働力不足解消に向けた取り組みとして、一人の人間が複数のアバターロボットを同時に扱い、人間一人当たりの作業効率を高める方法も想定されている。たとえば、定型的な接客やレジ打ちなどを自動で実施できるアバターロボットを各店舗に配置し、顧客からのイレギュラーな質問など、人間による高度な判断が求められる場合には、随時アバターロボットを遠隔操作して対応する方法が考えられる。

また、自動ロボットの導入過程において、アバターロボットを活用して人間の動作をデータ化し、ロボットに動作を教示する教師データとする事例も多数見受けられる。

4. 高齢者や傷病者の支援

アバターロボットは、高齢者や傷病者が、身体的な負担を感じずに自由に外出や労働を行うためのツールとしても期待されている。たとえば、ベッドに寝たきりの人でも、アバターロボットを疑似的な身体として遠隔操作することで、カフェで接客や給仕を行うことができる。これは実際に社会導入に向けた取り組みが行われており、実証試験が複数回実施されている。

5. 技能継承

アバターロボットの活用としては派生的な内容になるが、先述のアバターロボットを介した人間の動作のデータ化は、熟練者の動作を初学者へ継承する際にも活用できる可能性がある。近年、熟練者の高齢化に伴い、熟練者の動作を自動ロボットで代替する取り組みが広く進められている。しかし、一度学習した動作を自動ロボット自身で改善することは困難であり、技能のさらなる発展のためには人間への技能継承も重要とされている。人間への技能継承に必要な技術として、アバターロボットを遠隔操作するための技術とは別に、データ化された動作を初学者へフィードバックする技術も研究開発が進められている。

アバターロボットの普及に向けた展望

現在、アバターロボットは実用化の途上段階だが、実証試験が行われているものも多く、導入にあたり必要とされる技術水準は満たしつつあるといえる。実際に、現状のアバターロボットでも5本の指を持つ2本のロボットアームを器用に遠隔操作し、複数重なっているプラスチックのカップを1つだけ取る、カップの上下を変えながら違う手に持ち変える、そのコップにペットボトルから水を注ぐなど、人間と遜色ない一連の動作を一定水準で実現できる*8

一方、アバターロボットの導入にあたっては、技術水準に加えてコストや導入意義の観点も欠かせない。コストの観点では、先述の手指を器用に遠隔操作できるような高性能なアバターロボットは、その分高価となるため、アバターロボットの活用目的を踏まえた過不足のない機能を検討する必要がある。たとえば、飲食店への導入を想定した場合、レジ打ちや案内業務で活用するのであれば器用な手指は必要なく、移動機能のある自動精算機のようなアバターロボットでもよい。しかし、配膳や後片付けでも活用するのであれば、さまざまな形状の食器を把持できる手指や、複数の食器を同時に運搬できる機能が必要となる。コストパフォーマンスを突き詰めることで、アバターロボットの導入による人件費削減効果が見込まれれば、労働力不足が深刻でない現場にも普及していくのではないか。

導入意義の観点は、コストより重要と筆者は考える。特に現状のアバターロボットはまだ比較的高価格なものが多い中で、導入を促進するためには単なる既存テクノロジーや労働者の代替ではなく、導入コスト以上に効果のある活用方法を示す必要がある。たとえば、「1. 物理的な距離をものともしない遠隔体験」では、アバターロボットによる疑似的な瞬間移動により、従来の交通手段より高い価値を見出せるサービスが実現できれば、社会に普及していくものとみられる。特に現在の新型コロナウイルス感染症の拡大防止が求められる社会においては、人間の身体は移動せず存在のみを移動できることに大きな意義がある。また、「2. 危険環境下の作業代替」においては、「安全」を確保できるため、多少のコスト高は許容することができる。実際に、建設分野においては他の分野に比べてアバターロボットの活用検討事例が多く見受けられる。

このように、アバターロボットの利点や特色を活かすことで、1~5の領域に限らずさまざまな領域で普及していくものと考えられる。アバターロボットを活用する意義を整理するため、まずは(1)人間が自身の身体で行うこと、(2)アバターロボットを用いて遠隔で実施すること、(3)自動ロボットに任せること、の切り分けを検討していくことが必要ではないか。

ここまで述べてきた通り、アバターロボットは導入にあたり必要とされる技術水準を満たしつつあり、一部の領域では社会導入が目前に迫っている。一方で、コスト低下や安全基準、公道走行等に係る法整備など、社会に広く普及させるために解決しなければならない課題はまだ多数存在している。これら課題の解決やテクノロジーのさらなる進展により、アバターロボットの社会導入がますます活発化し、さまざまな遠隔体験サービスによるQOL(Quality of Life)の向上や新たな労働形態の実現による労働力不足の解消などが実現されることに大いに期待したい。

  1. *1ロボットアームや移動機能が搭載されていないロボットでもアバターロボットと呼ぶこともあり、搭載する機能はアバターロボットによってさまざまである。
  2. *2従来は遠隔就業が困難であった現場作業や接客などを行う職種でも、アバターロボットを活用することで遠隔就業できる可能性がある。
  3. *3アバターロボットを活用したテレショッピングでは、あたかも実店舗内にいるかのように、店員とのコミュニケーションや店舗内の移動を行ったうえで商品を購入できる。
  4. *4作業者は安全な場所からアバターロボットを遠隔操作して危険作業を実施できる。
  5. *5Augmented Reality:拡張現実、Mixed Reality:複合現実
  6. *6振動や力などで人間の触覚を疑似的に再現する技術。
  7. *7単純な繰り返し作業を自動ロボットで代替する取り組みとして、たとえば、倉庫内の運搬ロボットや巡回警備ロボットが挙げられる。
  8. *8身体感覚を伝送する双腕型ロボットの開発に成功(2017年9月28日、新エネルギー・産業技術総合開発機構、慶應義塾大学)

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