ページの先頭です

循環経済 ―サーキュラー・エコノミーへの波(2)

サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンスの潮流

2021年3月25日 環境エネルギー第1部 佐野 翔一

近年、ESG投資における環境分野の関心が、気候変動からサーキュラー・エコノミーへ広がっている。欧米の大手金融機関などでは、サーキュラー・エコノミーに係る金融商品の取り扱いを開始している。国内でも一部の資産運用会社がサーキュラー・エコノミーやプラスチック資源循環を企業との対話のテーマの1つとして掲げており、国内でも関心が高まりつつある。また、統合報告書やアニュアルレポートにおいてサーキュラー・エコノミーに係る情報を開示する国内企業も出始めている。しかしながら、こうした開示は一部の先進企業にとどまっており、開示の方法や内容も各社各様である。

このような中、昨年5月に、経済産業省および環境省は、サーキュラー・エコノミーに資する取り組みを進める国内企業が、国内外の投資家や金融機関から適正に評価を受け、投融資を呼び込むことができるようにするため、「サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環ファイナンス研究会」を設置した。そして、本年1月には、サーキュラー・エコノミーに係る開示や企業と投資家・金融機関の間での対話の促進を図るためのガイダンスとなる「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」を公表した*。同ガイダンスは、サーキュラー・エコノミーに特化して政府が策定する"世界初"の開示・対話ガイダンスであり、開示・対話のポイントとともに、多くの開示事例を紹介している。

ここ数年、国内企業のサーキュラー・エコノミーへの関心が高まり、対応を意識する企業も出始めている。しかしながら、サーキュラー・エコノミーは広範な内容を包含し、リスクや機会も多岐にわたることから、いざ向き合ってみると、これをどのように捉え、どのように対応していくべきか、戸惑う企業も少なくないだろう。本ガイダンスは、そうした企業にとって大きな助けとなるだろう。

さて、サーキュラー・エコノミーへの対応の具体的な検討となると、何か新しい事業を始める必要があると考えてしまう企業も多いだろう。しかし、実は既存の事業活動をサーキュラー・エコノミーの観点で捉え直すことも、その対応につながる。これからサーキュラー・エコノミーへの対応を検討していく企業にはこの点を強調したい。

たとえば、国内企業が以前から取り組んできている3R(Reduce、Reuse、Recycle)の中には、サーキュラー・エコノミーに対応する活動として国際的に評価されているものがある。また、遠隔監視により機器の稼働状態を良好に維持しつつ機器寿命を長期化するようなサービスも正にサーキュラー・エコノミーに資するサービスである。実際、世界循環経済フォーラムなどで国際的に紹介されるサーキュラー・エコノミーの好事例には、国内企業がすでに取り組んできた事業活動に類似する事例が多数含まれている。国内企業にとって自社の取り組みは当然のものであり、わざわざ社外に発信するような情報ではないという意見をしばしば耳にするが、非常にもったいないことである。

気候変動と比べれば、サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンスは緒に就いたばかりである。しかしながら、国内にはサーキュラー・エコノミーへの移行に資することができる企業が数多く存在する。前述のガイダンスを通じて国内企業の取り組みが発信されることで、各社が以前から実施している取り組みも含めて、国内外の投資家や金融機関から適正に評価を受けるようになるとともに、サーキュラー・エコノミーへの移行が進展することを期待したい。

  • *サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス
    (PDF/4,460KB)

関連情報

【連載】循環経済 ―サーキュラー・エコノミーへの波

2021年2月1日
WCEFonline報告
循環経済 ―サーキュラー・エコノミーへの波(1)

この執筆者はこちらも執筆しています

ページの先頭へ