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グリーンウォッシュ排除に向けた真のネットゼロとは

国連がネットゼロを定義

2023年2月15日 サステナビリティコンサルティング第2部 大友 かな子

2015年にパリ協定が成立し、温室効果ガス排出量をネットゼロとすることが世界共通目標とされてから約8年。各国政府はもちろんのこと、多くの企業がネットゼロ宣言を行うも、その内容は未だ統一されておらず、達成手段や対象範囲は各社各様であるのが現状だ。昨今、効果の乏しい環境取り組みをアピールする「グリーンウォッシュ」の増加も問題視され、統一された定義のない企業のネットゼロ宣言にも同様に疑問の目が向けられ始めている。かかる中、グリーンウォッシュにつながる安易なネットゼロ宣言を防ぐべく、国連は2022年11月のCOP27期間中にネットゼロの定義に関する報告書を公表した。国連は、信頼性と説明責任を備えたネットゼロ宣言を可能にするため、一体どのような定義や基準を設けたのか。他イニシアチブとも関連性の深い3点から本報告書の見解を紐解いてみたい。

1点目は、削減範囲への言及だ。国連は、自社の排出量にあたるスコープ1・2のみならバリューチェーン排出量に相当するスコープ3までを含む全てのGHG排出量を削減対象とした。スコープ3排出量は他社のスコープ1・2排出量に相当し、自社の責任の範囲外との意見もある。しかし、全ての企業がスコープ1・2を算定できていない以上、多くの企業がスコープ3を含めた削減目標を設定することが望ましい。国連は、スコープ3を排除した排出量削減への取り組みがグリーンウォッシュにつながると考えたのだろう。また、国連はスコープ3を算定していない場合でも、企業にデータ取得や推定を行うことを求めた。これはスコープ3を重要視する姿勢の表れといえる。

2点目は、炭素クレジットへの言及だ。これまで、炭素クレジットについては品質や要件に関しさまざまな議論がなされてきた。炭素クレジットには、植林やCO2回収技術を利用した大気中からのCO2除去および貯留に基づく除去型クレジットと、石炭火力発電所を天然ガス火力発電所にリプレースするなどして得られた排出回避効果を削減とみなす排出回避型クレジットの2種類が存在する。国連は、このうち除去型クレジットのみをネットゼロの達成手段として認める姿勢を示したものの、自社の削減とクレジット使用のバランスにも言及した。クレジットの使用を際限なくネットゼロ達成手段として認めてしまえば、自社で削減努力をせずに、クレジット購入のみに頼るケースが発生しかねない。しかし、過度の除去型クレジット依存は、森林を始めとした生態系保護の観点からも問題がある。国連は、自社の削減努力の結果、それでも残った「残余排出量」に対してのみクレジットの適用を認めるとし、クレジットへの過度な依存を防ぐ考え方を示している。

3点目は、移行計画の必要性への言及だ。日本でも企業がネットゼロ宣言を表明しても、目標と実際の取り組みが整合していないことについて、NGOなどによりしばしば指摘されてきた。こうしたケースを問題視し、国連はネットゼロ移行計画の公開に加え、5年ごとの更新、毎年の進捗報告を求めた。移行計画の内容としては、設備投資計画や研究開発計画、投資と目標との整合性や、役員報酬と中長期目標の関連性について記載することも要求している。具体的な行動への落とし込みを促す仕掛けといえるだろう。

ネットゼロ目標の定義を作成した取り組みとしてSBTiが有名だ。SBTiのネットゼロ水準と本報告書を比較してみると、その内容に類似点は多く、上述の1点目と2点目は、SBTiと同様の見解だ。SBTiのネットゼロ水準が発表された当初は、あまりに野心的であり、実際にコミットする企業数は未知数とされていたが、今回改めて、国連も同じ水準を示したことになる。また、3点目に関しては、SBTiのネットゼロ水準では移行計画の提示までは求められていなかったが、国連は目標宣言とセットで移行計画の開示を要求した。ネットゼロ目標の達成に向けて、企業が具体的にどのような計画で進めていくのか、今後は宣言の内容そのものが問われていくだろう。

現在表明されている各国の排出削減目標を積み上げても世界全体では1.5℃目標の達成、すなわち2050年ネットゼロに向けたシナリオの実現は困難である。COP27においても1.5℃目標に向け「スピードアップ」「スケール拡大」といったキーワードが大きく取り上げられた。今後は各国政府だけでなく、企業レベルにおいても目標宣言に加え、具体的にどのような時間軸および行動で結果を出していくのかが問われようとしている。この次なるステージにおいて、国連が提示するネットゼロ宣言の望ましい姿が、企業にとって重要な指針の一つになることは間違いないだろう。

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