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外国人技能実習生が地域とつながることによりもたらされる効果とは

外国人技能実習制度と地域共生

2023年3月17日 社会政策コンサルティング部 後藤 智洋

外国人技能実習制度が創設されて今年で30年、現行の制度となってから早5年が経過し、技能実習制度は岐路に立たされている。

これまで同制度については、安価な労働力として機能しているのではないか、人権侵害の温床となっているのではないかなどの議論が交わされてきた。2022年11月には「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が設置され、技能実習制度の在り方について議論が重ねられている*1。また、前述の通り一部の監理団体や実習実施者における技能実習生への問題行為などが取り上げられ、同制度に対する批判的な主張も目にすることがある。他方、多くの監理団体、実習実施者は「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転」という本来の目的に沿って制度を運用している。さらに実習生を受け入れることによる好影響、すなわち制度上、実習生が一定期間地域に継続して居住することによって生まれる効果も相応にあると考えられ、本稿ではその効果について概観する。

技能実習に限らず外国人材を受け入れることは企業側だけでなく、地域社会にとっても利点が大きい。たとえば株式会社パーソル総合研究所が2021年に行った多文化共生に関する調査*2によると、地域社会に外国人が増えるとどのような影響があるかという質問に対し「社会に多様性が生まれる」と回答した人が53.3%と最も高い結果となり、「地域性が損なわれる」といった否定的な回答は2割程度に過ぎなかった。人々の社会の多様性への関心が高いことが見て取れる。

「技能実習」の在留資格で入国した場合、期間中は基本的に同一事業所内で就業することになる。実習実施者にとっては、実習指導員、生活指導員を配置し腰を据えて実習生を教育できるという利点があり、また、地域社会にとっては多言語や多文化学習、国際感覚の醸成といった実習生によってもたらされる好影響があるだろう。実習生にとっては、一定期間同一の地域で暮らすことになることから、地域住民との関わりがより深いものとなる可能性や、他国からの実習生や日本人の友人ができ、地域で暮らすことへの喜びを見出したり、地域の文化・資源への理解が深まったりするなどの効果が考えられる。

しかしながら実習生の側から積極的に地域住民と関わりを持つことは容易ではないだろう。実習生が地域社会に受け入れられるためには実習生自身のコミュニケーション力も重要だが、地域側の受け入れ姿勢も重要である。2022年に公益財団法人日本国際交流センターが行ったアンケート*3では、総合計画に部分的に含めることを超えて、単独で多文化共生の指針・計画を策定している自治体は13.8%と、地域側の受け入れ支援体制が整っていないと考えられる。

技能実習制度の特徴を活かして地域との交流を促進する好事例として愛知県高浜市の取り組み例を挙げたい。高浜市では、監理団体でもある公益社団法人トレイディングケアと連携し、実習生が日本で円滑に生活することができるよう、「バディ」「バディファミリー」制度を導入している*4。「バディ」とは仲間、相棒を意味する語で外国人材の支援を行いたい地域住民がボランティアで活動に関わり、日本語や和食の作り方、薬の購入方法を教えたり、ごみ出しの支援、地域行事の紹介を行うなど、日本の生活を伝えるサポーターとして機能している。実際に同市に住むベトナム人実習生は、カレーパーティやバーベキュー大会などへの参加を通じて、インドネシア人実習生や日本人と友達になれたことに喜びを感じ、今後も同市に暮らしていきたいと感じているそうである。また、バディファミリーを務めている家庭では、自分たちから話しかけることのなかった小学4年生と1年生の子どもが、普段の親たちの交流の様子を見て、実習生に嬉しそうに折り紙を教えるようになったりと、子どもたちの成長にもつながっているという。同市ではこうした取り組みにより、外国人住民の増加が続いており、総人口に占める外国人住民の割合は愛知県内でもトップクラスとなっている。地域住民の多文化理解が進み、外国人住民からも住みやすい地域であると認識されている結果といえるのではないか。

技能実習はアジア諸国への技術移転を目的とした制度だが、日本の技術だけでなく実習生が学んだ日本文化をアジア諸国に広める役割の一端も担っていると考えられる。職場内での人間関係の構築にとどまらず、お祭りなど地域の行事への参加、地域住民によるおもてなしの文化など、地域社会との交流により、地域文化の理解促進が図れるだろう。

実習生を受け入れることは監理団体・実習実施者にとって、職場の活性化や新たなビジネスアイデアが生まれるきっかけとなり得るだけでなく、地域側にとっては、地域住民の国際感覚の醸成や多文化共生の意識向上にもつながる。他方、実習生側にとっては地域社会との交流により実習期間中の生活を円滑に進めることができることに加え、地域の文化に触れる機会にもなり、実りある実習生活のきっかけになるだろう。今後の技能実習制度を効果的に活用していくためには、問題点の是正はもとより、これら三者にとっての利点を活かす視点も加えて議論を重ねていくことが求められているのではないだろうか。


地域社会における外国人増加の影響について
図1

出所:パーソル総合研究所「多文化共生意識に関する定量調査」



  1. *1技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(出入国在留管理庁)
  2. *2パーソル総合研究所「多文化共生意識に関する定量調査 調査結果」(PDF/4,100KB)
  3. *3日本国際交流センター「自治体における外国人住民関連施策に関するアンケート調査結果報告(概要版)」(PDF/1,934KB)
  4. *4https://tradingcare.or.jp/buddy/
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