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再エネ電力調達に係る3つの論点

GHGプロトコル Scope2ガイダンス改訂

2024年1月11日 サステナビリティコンサルティング第2部 大友 かな子

GHGプロトコルがScope 1・2・3の概念を導入し約20年。今やScope 1・2・3はGHG排出量算定・報告におけるデファクトスタンダードとなり、多くの企業により算定・開示が進められている。かかる中、GHGプロトコルはこの枠組みを定める既存3文書全ての改訂を検討している。

検討にあたっては、昨年11月から約5カ月にわたりGHGプロトコルに対する意見募集が実施された。1400を超える回答が集められたことからも、企業における改訂内容への高い関心がうかがえる。今回の改訂次第では、GHG排出量の算定・削減に取り組む日本企業への影響も甚大だろう。来年に改訂版の草案公開を控えた今、中でもScope2ガイダンス改訂のキー論点として注目される「マーケット基準の品質要件」について、ポイントを3つに絞り解説する。

1点目は、新ルールとして検討されるHourly matchingの導入だ。Hourly matchingとは、再エネ電力の1時間以内での需給マッチングのことである。電力システムにおいては、電力の需要量と供給量を常に一致させる同時同量が求められる。しかし、証書が介在する再エネ電力調達ではこうした同時同量を求めない考え方が一般的であり、GHGプロトコルも同様であった。たとえば、電力需要側の企業は、非化石証書等を利用することで、別途調達した電力を再エネ電力として扱うことが可能であるが、この時、証書発行の元となる再エネ設備での発電と電力消費のタイミングを、1時間単位で一致させる必要はない。年度単位で設定された利用期限の範囲内であれば証書活用が許容されているのだ。

だが、GHGプロトコルが証書を介した再エネ調達にもHourly matchingを導入するとなれば、状況は大きく変化する。需要家企業は、自社の電力使用のタイミングから1時間以内に発電された再エネ電力に由来する証書を購入することが求められる。小売電気事業者が提供する再エネ電力メニューも非化石証書等を活用している場合は、販売する電力と利用する証書の発行元となる再エネ設備での発電のタイミングを合わせなくてはならなくなる。証書と実際に供給する電力のタイミングを合わせることに要する手間は大きな課題となるだろう。また、夜間に発電できない太陽光発電の価値が水力発電や地熱発電などと比べ相対的に低下し、蓄電池の注目もさらに高まる可能性がある。

2点目の論点は、再エネ電力の追加性に関する議論だ。追加性の定義はさまざまあるが、ここでは「新たに送電網に追加される再エネ発電設備からの調達」を「追加性がある」とみなす考え方が採用されている。すなわち「従来から存在する再エネ発電設備からの調達」は「追加性がない」とされる。すでにRE100やCDP等の国際イニシアチブは、このような追加性を重視する姿勢を示しているが、GHGプロトコルは再エネ電力の調達に追加性を求める要件を導入していない。仮に追加性の要件が導入されれば、企業の再エネ調達手法にも大きな影響が予想される。PPAや再エネ自家発電はこれまでも推奨されてきたが、今後は追加性が保証される調達手法として一層重視されることになる。小売電気事業者による再エネ電力メニューも、追加性の有無に応じて類型化され、大きな価格差が生じるのではないだろうか。一方で、追加性のない再エネ発電設備の取り扱いについても慎重な議論が必要となるだろう。

3点目に、再エネ証書の活用に関する議論についても触れておきたい。現在、Scope2のマーケット基準において証書活用を認めないことについて検討する動きがあるが、仮にそうなった場合、企業への影響は計り知れない。再エネ価値の多くは証書を介してやり取りされているため、証書が利用不可となった場合、電力需要家の再エネ調達は難しくなる恐れもある。1点目および2点目の論点と比較すると、現実的でないという声も大きいだろう。

今回3つのポイントに絞りScope2ガイダンスの改訂論点を解説したが、現時点ではあくまで検討にとどまっており、新しい要件が確定したわけではない。ただし、今回の改訂内容によっては再エネ調達手法に大きな変化が訪れることになる。特に、再エネ価値を評価する上でHourly matchingや追加性が考慮されるか否かは注目すべきポイントと考えられる。

予定通り検討が進めば、来年には改訂版の草案が公開され、2025年以降に最終的な基準およびガイダンスが発表される。また、ISSB基準を踏まえ、日本基準での有価証券報告書の開示内容をSSBJが検討しているが、GHGプロトコルの改訂が有価証券報告書の開示内容に影響する可能性があることも忘れてはならない。日本企業としても、国際的なESG評価向上や、新たなルール導入によって生じる成長機会の獲得を実現するには、GHGプロトコル改訂の動向に注目し、変化に柔軟に対応できるよう備えていくことが重要となるだろう。

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