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単身世帯の増加と求められる社会政策の強化(1/2)

  • *本稿は、『月刊DIO』 2019年9月号(発行:公益財団法人連合総合生活開発研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

はじめに

単身世帯(一人暮らし)が増加しており、今後も増えていくことが予想されている。特に今後、中年層や高齢者の単身世帯が急増していくとみられている。

これまで日本は、様々な生活上のリスクに対して、家族の役割が大きいと言われてきた。しかし、単身世帯は、少なくとも同居家族がいないので、世帯内の支え合い機能は従来よりも低下していることが考えられる。

単身世帯は、これまで家族が対応してきた様々な生活上のリスクに対して、どのように対応し、どのような課題を抱えているのだろうか。さらに、社会としてどのような対策が求められているのであろうか。

そこで本稿では、まず単身世帯の現状と今後の増加状況を概観した上で、増加要因を探る。次に、単身世帯と二人以上世帯を比較しながら、貧困リスクや、社会的に孤立するリスク、要介護の状態となった場合のリスクを考察する。そして最後に、求められる対策について考える。

なお、本稿では、世帯としてみるか、個人としてみるかによって、「単身世帯」「単身者」「一人ぐらし」という3つの用語を使うが、同一の対象を示している。

1. 単身世帯の現状と将来

まず、2015年の単身世帯数の実績値と、2030年の単身世帯数の将来推計をみていこう。2015年現在、日本には1842万世帯の単身世帯がおり、総人口の14.5%が一人暮らしをしている。そして国立社会保障・人口問題研究所(以下、「社人研」と略す)の将来推計によると、2030年には、単身世帯数は約1割増加して 2025万世帯となり、総人口の17.0%を占めるとみられている。

注目すべきは、2015年から2030年にかけて、中年層や高齢者で単身世帯が増加していく点である。具体的には、2015年現在、男性で最も多くの単身世帯を抱えているのは 20代である(図表1)。20代で単身世帯が多いのは、進学や就職などを機に親元を離れて一人暮らしを始める人が多いためである。そして30代以降、年齢階層があがるにつれて単身世帯数は減少するが、これは結婚をして二人以上世帯となるためと考えられる。

一方、2015年の女性の単身世帯数をみると、20代のみならず70 代で単身世帯が多く、二つのコブができている。70代女性で一人暮らしが多いのは、女性の平均寿命が男性よりも長いので、夫と死別して一人暮らしをする女性が多いためである。

ところが2030年になると、年齢階層別の単身世帯数は一変する。20代の単身世帯は、少子化の影響を受けて男女共に減少するとみられている。その一方で、2030年に男性で最も多くの単身世帯を抱える年齢階層は50代となり、15年の1.3倍になる。また、80歳以上の男性でも単身世帯は大きく増加し、2030年は2015年の約2倍になる。

他方、女性で単身世帯が最も多いのは80歳以上となり、258万世帯にのぼると推計されている。これは 2015年の80歳以上の単身女性数の1.6倍である。また、50代女性においても、単身世帯は15年の1.5倍になるとみられている。


図表1 男女別・年齢階層別の単身世帯数―2015年と2030年の比較
図1

  1. (注1)2015年は、実績値。2030年は、国立社会保障・人口問題研究所による2015年基準による将来推計。
  2. (注2)2015年の数値は、総務省『平成27年国勢調査』に基づき、筆者が年齢不詳分を按分。このため、『国勢調査』の数値と一致しない。
  3. (資料)総務省『平成27年国勢調査』及び国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』(2018年推計)により、筆者作成。

2. なぜ単身世帯は増加していくのか

では、なぜ50代や80歳以上で単身世帯が増加していくのか。50代で単身世帯が増加していく最大の要因は、未婚化の進展である。50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合を「生涯未婚率」と呼ぶが、生涯未婚率は男女ともに1985年まで5%以下で推移したが、1990年以降、急激に上昇し、男性の生涯未婚率は2015年に23.4%となった。そして社人研の将来推計によれば、2030年の男性の生涯未婚率は28.0%になる。女性の生涯未婚率は、男性ほど高い水準ではないが、2015年の14.1%が2030年には18.5%になるとみられている。

また、80歳以上で単身世帯が増加していくのは、人口規模の大きい「団塊の世代」が80歳以上になることと、高齢者が子供と同居しない傾向が考えられる。さらに、今後、未婚の高齢者が増加することが推計されており、これも高齢単身世帯の大きな増加要因となるであろう。なぜなら、未婚の高齢者は、配偶者だけでなく、子どももいないことが考えられ、単身世帯になりやすいためである。この点、社人研の将来推計によれば、65歳以上の未婚者は、2015年から2030年にかけて約1.8倍増えていく。特に高齢男性で未婚率の上昇が著しく、2015年の5.9%が2030年には10.8%になると推計されている。

3. 単身世帯が抱える生活上のリスク

以上のように、今後、中年層や高齢者における単身世帯の増加が推計されている。では、単身世帯は、二人以上世帯と比べて、どのような生活上のリスクを抱えているのであろうか。以下では、貧困リスク、社会的に孤立するリスク、要介護となった場合のリスク、を取り上げていく。

(1)貧困リスク

第一に、単身世帯は、二人以上世帯と比べて、貧困に陥るリスクが高い。ここでは、世帯類型別に「相対的貧困率」を比べていこう。「相対的貧困率」とは、世帯可処分所得(世帯内のすべての世帯員の所得を合算)を世帯人数で調整した値(等価世帯所得)を算出して、その中央値の50%を貧困線として、これを下回る世帯可処分所得の世帯に属する人の割合をいう。厚生労働省『平成28年国民生活基礎調査』に基づく2015年の貧困線は、年収122万円である。

2015年の世帯類型別の相対的貧困率をみると、勤労世代(20-64歳)では、単身世帯の相対的貧困率は、男性21.1%、女性29.0%となっていて、男女ともに「ひとり親と未婚の子のみ世帯」に次いで高い水準にある(図表2)。また、高齢世代(65歳以上)の相対的貧困率は、男女ともに単身世帯がどの世帯類型よりも高い水準にある。特に、高齢単身女性の貧困率は46.2%と高い水準にある。

では、なぜ単身世帯は、相対的貧困率が高いのであろうか。以下、勤労世代と高齢世代に分けて、その要因をみていこう。


図表2 世帯類型別にみた相対的貧困率(2015年)

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  勤労世代(20-64歳) 高齢世代(65歳以上)
男性 女性 男性 女性
単身世帯 21.1 29.0 29.2 46.2
夫婦のみ世帯 8.9 10.3 15.3 15.4
ひとり親と未婚の子のみ世帯 25.2 31.5 21.5 24.8
夫婦と未婚の子のみ世帯 10.3 10.0 13.5 12.8
三世代世帯 8.9 10.9 8.5 10.6
その他世帯 17.8 20.9 14.7 15.6

(資料)阿部彩(2018)「日本の相対的貧困率の動態:2012から2015年」貧困統計HPより転載。引用元は、阿部彩(2018)「日本の相対的貧困率の動態:2012から2015年」科学研究費助成事業(科学研究費補助金)(基盤研究(B)「「貧困学」のフロンティアを構築する研究」報告書。

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