ページの先頭です

雇用区分の違いによる不合理な処遇差の見直しに向けて 「同一労働同一賃金」への対応策を探る 第1回

多様な人材の活用実態 ―社員タイプと仕事レベル―(1/2)

  • *本稿は、月刊『人事実務』2018年11月号(発行:産労総合研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 社会政策コンサルティング部 雇用政策チーム シニアコンサルタント 小曽根 由実

1 はじめに
「同一労働同一賃金」の実現が求められるなかで

2016年12月に政府が「同一労働同一賃金ガイドライン案」を発表してから、2年が経とうとしています。現在、厚生労働省の労働政策審議会(職業安定分科会・雇用環境・均等分科会同一労働同一賃金部会)では、“案”を外した正式な「同一労働同一賃金ガイドライン」確定に向けた議論が重ねられています。本連載は3回を予定していますので、最終回の2019年1月号が発刊されるころには、ガイドラインが発表されている可能性があります。

このガイドラインは、2018年6月に成立した「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」に則ったものです。同法の施行日は2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)であり、現在、各社の人事担当者の皆さんは、いかにガイドライン案に沿った対応をすべきか検討されているかもしれません。あるいは、すでに「ガイドライン案のとおり、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間には、不合理な待遇差はない」という企業もあるかもしれません。

今回紹介する企業アンケート調査結果をみると、ガイドライン案を機とする非正社員の賃金等への対応は、「すでに見直した・見直し中である(「不合理な待遇差の解消はすでに実現している」場合を含む)」が20.7%、「見直すことを予定している」が11.2%、「見直すかどうか検討している」が36.8%、「見直す予定はない」が23.4%という現状にあり、多くの企業が見直す方向で動いています。

2 正社員と非正社員の間に処遇差はあるのか?
調査目的、実施概要

そもそも正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間には、どの程度の待遇差があるのでしょうか。たとえば、2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」では、「パートタイム労働者の賃金水準は、欧州諸国においては正規労働者に比べ2割低い状況であるが、わが国では4割低くなっている」とされています。

労働力不足が大きな課題となるであろうわが国においては、今後、高齢者、女性、外国人等の多様な人材を活用していかなければなりません。多様な人材は働き方に対するニーズが多様です。企業は、この多様化するニーズに合わせていくつかの雇用区分(以降、本連載では「社員タイプ」といいます)を設定し、異なる社員タイプ間の公正・公平な処遇を実現する必要があります。ガイドライン案で述べられている正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の均等・均衡待遇への対応は、その取組みの一環であるとの視点をもつことが重要です。

上記を踏まえ、みずほ情報総研株式会社では、企業における多様な人材の活用と処遇の実態を明らかにするため、「多様な人材が活躍できる働き方改革に関する研究会(座長:今野浩一郎・学習院大学名誉教授)」を立ち上げ、「多様な人材の活用戦略に関するアンケート調査」を実施しました(実施概要は図表1参照)。

具体的には、図表2にみる5つの社員タイプを設定のうえ、社員タイプごとに「主に担当している仕事」、「仕事レベル(注)ごとの基本給水準」、「基本給の決定要素」、「賞与、退職金等の支給状況」等の実態を把握し、「無限定正社員」と「限定正社員」「フルタイム非正社員」「パートタイム非正社員」「嘱託社員」の間に処遇水準にどの程度の差があるかを分析しました。

今回の連載では分析結果に基づいて、「社員タイプの組合せパターン」と「各社員タイプに担当させている仕事レベル」の面から企業は多様な人材をどのように活用しているのか、「基本給水準」と「年収水準」の面から企業は多様な人材をどのように処遇しているのかを紹介していきます。

(注)「仕事レベル」について、詳しくは図表6注1参照。

左右スクロールで表全体を閲覧できます

図表1 本アンケート調査の実施概要
調査対象 全国10,000社
⇒ 製造業、小売業、金融・保険業、サービス業を対象とし、業種ごとに正社員規模が大きい企業から順に2,500社を抽出
調査方法 郵送配布・郵送回収方式
調査期間 2017年12月11日~12月28日
調査時点 とくに断りがないかぎり、2017年12月1日時点の状況を回答
回収状況 有効回答数581社

図表2 本アンケート調査における社員タイプの定義
図表2

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています

2019年1月
働きやすく、働きがいのある職場づくり
―「多様な働き方」と「公正・公平な処遇制度」をセットで考える―
ページの先頭へ