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雇用区分の違いによる不合理な処遇差の見直しに向けて 「同一労働同一賃金」への対応策を探る 第2回

企業は多様な人材をどのように処遇しているのか?―[1]基本給からみる―(2/2)

  • *本稿は、月刊『人事実務』2018年12月号(発行:産労総合研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 社会政策コンサルティング部 雇用政策チーム シニアコンサルタント 小曽根 由実

4 正社員と非正社員間の比較 ―同一労働同一賃金はどの程度実現しているのか―

まず、正社員と非正社員間の比較です。これにより、現在、同一労働同一賃金がどの程度実現しているのかが確認できます。

前述の「3 社員タイプ別にみた基本給の現状」では、2点の事実を指摘しました。1点目の指摘は、おおよそ担当Iまで、言い換えれば役職に就かない一般職の間は、仕事レベルが同じであれば、「限定正社員」「フルタイム非正社員」「嘱託社員」の基本給水準が「無限定正社員」を上回っている、あるいは、ほぼ同水準である点です。なお、ここでの基本給水準は推定値であり(前掲の図表1参照)、一定の誤差があること等を考慮すると、少なくとも「限定正社員」「フルタイム非正社員」「嘱託社員」の基本給は、一般職の間は仕事レベルが同じであれば「無限定正社員」に比べて低く設定されていることはないと考えられます。

この事実は、2つの重要なことを示唆しています。すなわち「正社員と『フルタイム非正社員』『嘱託社員』という非正社員の間では、[1]役職という条件を外せば同一労働同一賃金に近い状況にあること、そして、[2]係長以上の役職では、同一労働同一賃金から離れた状況にあり、その傾向は仕事レベルが上がるほど顕著なこと」です。

2点目の指摘は、パートタイム非正社員の基本給は、ほぼすべての仕事レベルで無限定正社員を下回る点です。たしかにパターンBでは、パートタイム非正社員の基本給は無限定正社員とほぼ同水準でしたが、限定正社員に比べると低い水準にあります。ここからは、「パートタイム非正社員の基本給は、フルタイム非正社員や嘱託社員と異なり、正社員に比べて低い水準に設定されており、同一労働同一賃金から離れた状況にある」ことが推察されます。

上記からは、基本給水準からみると、一般職レベルのフルタイムで働く非正社員(フルタイム非正社員と嘱託社員)はすでに同一労働同一賃金に近い状況にあるため、同一労働同一賃金に関連して集中的に検討すべきは、「役職レベルにある非正社員」と「パートタイム労働者」の基本給体系といえるでしょう。

5 課題が大きい嘱託社員

続いて、嘱託社員の基本給について取り上げます。おおよそ担当IIまでは無限定正社員の基本給水準を上回っていますが、担当Iでこれが逆転し、その後は仕事レベルが高くなるほど両者間の差が大きくなります。その背景には、課長相当以上では仕事レベルが上がってもそれほど昇給しない、ということがあります。

それではなぜ、嘱託社員の給与カーブがこのような形状を描くのでしょうか。その理由としてはたとえば、「企業が在職老齢年金等とのバランスを考慮しながら、嘱託社員の基本給を定年前に比べて大幅に引き下げている」「正社員の基本給には年功的に決定している部分があり、役職者である無限定正社員にはもともと仕事レベルに比べて高めの基本給を支給している。そのため、定年前後で基本給水準が大きく引き下げられている」といったいくつかの理由が考えられます。

しかしながら、明確な理由を特定することはできず、なぜそうなるのかについては今後いっそうの検討が必要です。それにもかかわらず、仕事レベルと基本給の乖離が大きく、同一労働同一賃金の観点からみても最も課題が大きい社員タイプは嘱託社員である、という事実は残ります。嘱託社員の基本給体系の改革は、今後の重要なテーマといえます。

6 非正社員の社員タイプ間の比較

社員の多様化に応じた基本給体系を構築するためには、正社員と非正社員間にとどまらず、非正社員の社員タイプ間でのバランスも考える必要があります。

パートタイム非正社員に担当させる仕事レベルは一般職レベルであること、フルタイム非正社員と嘱託社員は一般職レベルでは基本給がほぼ同水準であることを踏まえると、非正社員の社員タイプ間のうちとくに検討すべきは、「一般職のパートタイム非正社員と一般職のフルタイム非正社員の間」の関係といえます。

前掲の図表2~4からは、パートタイム非正社員の基本給は、すべての仕事レベルでフルタイム非正社員を下回る傾向があることを指摘できます。ここで、同じ仕事レベルにある両者間の働き方にかかる主な違いは、労働時間の制約度です。したがって、企業は労働時間に制約があるパートタイム非正社員の基本給水準を、フルタイム非正社員より一定程度低く設定し、両者間のバランスを取っているものと推察されます。働き方の制約度を考慮して基本給に差を設けることは、企業にとって合理的な対応と考えられます。そのため、企業からしてみれば「一般職のパートタイム非正社員と一般職のフルタイム非正社員の間でも、同一労働同一賃金は相応に実現している」とみなせるでしょう。

ただし、両者間の働き方の制約度の違いに応じた基本給水準の差をどの程度とすることが不合理でないかは、難しい問題です。図表2の「全体」を用いて両者間の水準差の現状をみると、パートタイム非正社員の基本給はフルタイム非正社員と比較して、担当IIIまでは10%程度、担当II以上では20~30%程度低い水準にあります。これが労働時間の制約度の違いを反映した基本給水準の差の市場相場と考えられます。企業はこの市場相場を参考にしながら、社内の諸事情を鑑みつつ、両者間の給与水準差を設定することが望ましいということになります。

連載第2回目となる今回は、多様な人材の処遇実態として、各社員タイプの仕事レベル別基本給水準について給与カーブを用いながら紹介しました。「1 はじめに」でみたように、政府が実現をめざす同一労働同一賃金では、基本給のみならず、賞与、手当、福利厚生、教育訓練、安全管理のそれぞれの待遇について不合理と認められる相違および差別的な取扱いを解消する旨が掲げられています。連載最終回となる次回は、基本給に賞与を加味した年収水準で、「無限定正社員」と「限定正社員」「フルタイム非正社員」「パートタイム非正社員」「嘱託社員」を比較することにします。

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本アンケート調査の実施概要
調査対象 全国10,000社
⇒ 製造業、小売業、金融・保険業、サービス業を対象とし、業種ごとに正社員規模が大きい企業から順に2,500社を抽出
調査方法 郵送配布・郵送回収方式
調査期間 2017年12月11日~12月28日
調査時点 とくに断りがないかぎり、2017年12月1日時 点の状況を回答
回収状況 有効回答数581社

本アンケート調査における社員タイプの定義
図表6

  1. (注)「全体」「パターンA」「パターンB」について
    ・「全体」… 調査回答企業全体の集計
    ・「パターンA」…上記社員タイプのうち、[1]-[3]-[4]-[5]の4タイプを雇用する企業の集計
    ・「パターンB」…上記社員タイプのうち、[1]-[2]-[3]-[4]-[5]の5タイプを雇用する企業の集計

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