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雇用区分の違いによる不合理な処遇差の見直しに向けて 「同一労働同一賃金」への対応策を探る 第3回

企業は多様な人材をどのように処遇しているのか?―[2]年収からみる―(2/2)

  • *本稿は、月刊『人事実務』2019年1月号(発行:産労総合研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 社会政策コンサルティング部 雇用政策チーム シニアコンサルタント 小曽根 由実

本連載のまとめ

1 社員タイプ間の処遇差の実態のまとめ

これまで、基本給、賞与・寸志等、年収の観点から、社員タイプ間の処遇差の実態について説明してきました。その概要を無限定正社員と比較しながらまとめると、図表3のようになります。以下では図表3に基づいて、各社員タイプの特徴を整理していきます。

[1]限定正社員について

限定正社員とは「無限定正社員と比べて『労働時間』『勤務地』『仕事の範囲』の1つあるいは複数に限定がある社員タイプ」であり、社員の働き方に対するニーズの多様化に応え、優秀な人材の確保・定着を図るために導入された従来型の正社員とは異なる正社員タイプです。そのため、一般職レベルでは基本給、賞与・寸志等、年収のいずれにおいても無限定正社員との差はほとんどないあるいは小さく、他の社員タイプ(=非正社員)とは大きく異なります。ただし、役職レベルでは同じ仕事レベルであっても無限定正社員との基本給差があるため、賞与・寸志等の支給水準は同程度であるものの、結果として無限定正社員との間に年収差が生じます。

ここで問題になるのは、限定正社員の処遇の決め方です。「仕事レベルが同じであっても、限定の度合いに応じて無限定正社員との間に処遇差を設けること」は企業にとって合理的な対応と考えられますし、今回紹介した調査結果からは、実際にそのような対応を取る企業が少なくないと推察されますが、具体的には以下の2点への留意が求められます。

第1に、「限定の度合いに応じた処遇差」をどの程度に設定するかです。第2回連載時に指摘したフルタイム非正社員とパートタイム非正社員の基本給の決め方と同様に、無限定正社員と限定正社員の処遇差についても、地域の賃金相場を参考にしながら、社内の事情を鑑みつつ設定することが望ましいといえます。第2に、役職レベルでの処遇差が大きくなる理由は何かです。「限定の度合い」では十分に説明できない差であれば、それ以外にどのような事情があるかを改めて点検する必要があります。

[2]フルタイム非正社員と嘱託社員について

フルタイム非正社員と嘱託社員は非正社員ですが、限定正社員に近い社員タイプです。というのも、フルタイム非正社員は「フルタイム勤務であり、多くの場合で勤務地が限定されている」、嘱託社員は「元正社員であり、第1回連載で紹介したように嘱託社員の仕事レベルは限定正社員とかなりの程度重なっている」という働き方の実態があるためです。

このことからすると、フルタイム非正社員と嘱託社員の処遇は、限定正社員並みに設定されるべきということになり、実際、一般職レベルの基本給はそうなっています。しかしながら、賞与・寸志等に差があり、年収でみると差が出ます。ではなぜ、賞与に差を設けるのでしょうか。今回の調査では明らかにできていない「限定の度合いの違い」、「企業が期待するキャリアの違い」等の理由が考えられますが、企業はこの差に合理性があるかを点検しなければなりません。

もう1つ気になることがあります。役職レベルにあるフルタイム非正社員と嘱託社員の基本給は限定正社員と同様に無限定正社員を下回りますが、嘱託社員では役職レベルが上がってもそれほど昇給しません。定年後の再雇用者であるという特殊事情を勘案する必要もありますが、差をどの程度にするかについては対応の難しい問題です。

[3]パートタイム非正社員について

パートタイム非正社員の処遇は、基本給、賞与・寸志等、年収のいずれにおいても無限定正社員、さらにはフルタイム非正社員、嘱託社員と比較しても目立って低くなっています。

この背景として、以下に示す2つの理由から、企業がパートタイム非正社員の基本給、賞与・寸志等を他の社員タイプとの関係を考慮せずに決めていることがうかがえます。1点目は、第1回連載で紹介したように、パートタイム非正社員の仕事レベルは無限定正社員とほぼ重ならず、「高卒初任~その少し上のレベル」にとどまっていることです。2点目は、基本給決定にあたっては、社内における他の社員タイプとのバランスより地域の賃金相場を重視していることです。本調査では、基本給決定にあたり重視する要素を尋ねていますが、「地域の賃金相場」を選択した企業は、限定正社員で2.7%、フルタイム非正社員で17.0%、嘱託社員で5.2%であるのに対して、パートタイム非正社員では24.6%に上ります。

このように、パートタイム非正社員の処遇は仕事レベルの違いと地域の賃金相場の影響が大きいと考えられますが、それでも無限定正社員との差は大きく、その差に合理的な理由があるかを改めて点検する必要がありそうです。

図表3 無限定正社員と比較した、各社員タイプの処遇
図表3

2 おわりに―「同一労働同一賃金」の実現に向けて―

これで3回にわたる連載が終わります。今回の連載ではアンケート調査結果に基づいて、「社員タイプの組み合わせパターン」と「各社員タイプに担当させている仕事レベル」の面から企業は多様な人材をどのように活用しているのか、「基本給」と「年収」の面から企業は多様な人材をどのように処遇しているのかを紹介してきました。そのなかで明らかになった正社員と非正社員の処遇の差は、同一労働同一賃金の実現(正社員と非正社員の間の不合理と認められる待遇の相違の解消等)が求められるなかで合理的な差であるのかが問題となります。

同一労働同一賃金の考え方では、同じ企業で働く正社員と非正社員の間の不合理と認められる待遇の相違を禁じているものであり、「[1]職務の内容」「[2]職務の内容及び配置の変更の範囲」が同じでない場合は、両者の待遇を同じにしなければならないというスタンスは取っておらず、[1][2]と「[3]その他の事情」の違いに応じて均衡が取れた待遇を確保する必要がある、としている点を改めて強調しておきます。したがって、「基本給や年収に差(相違)がある」ことが即アウトであるかというと、必ずしもそうではありません。その相違が、働き方(労働時間、勤務地、仕事の範囲等)や、役割(本調査では仕事レベルでこれを表しました)等に応じた違いであることを十分に説明できればよいのです。

たとえば、本調査では待遇の1つとして賞与を取り上げました。賞与はどういう目的で支給するものなのか(業績貢献、生活保障の意味合い等)、賞与額はどのように決定しているのか、正社員と非正社員で賞与の支給状況について違いがある場合はその違いを設けている理由は何か、等を説明できるようにしておく必要があります。

働き方改革関連法のうち、同一労働同一賃金を求めるパートタイム・有期雇用労働法の施行日は2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)です。それほど時間が残されているわけではありません。各社の人事担当者の皆さんが、今回の連載を参考にし、自社の社員タイプ、基本給・賞与・手当・福利厚生・教育訓練・安全管理といった待遇の現状を点検し、社員タイプ間の公正・公平性の確保に向けた見直しなどに取り組んでいただければ幸いです。

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本アンケート調査の実施概要
調査対象 全国10,000社
⇒ 製造業、小売業、金融・保険業、サービス業を対象とし、業種ごとに正社員規模が大きい企業から順に2,500社を抽出
調査方法 郵送配布・郵送回収方式
調査期間 2017年12月11日~12月28日
調査時点 とくに断りがないかぎり、2017年12月1日時 点の状況を回答
回収状況 有効回答数581社

【参考】社員タイプ別年収の分析の考え方・手順

〈分析の考え方・手順〉

  • 雇用している社員タイプ別に、「仕事レベルに沿った基本給の給与カーブ(連載第2回目参照)」が描け、かつ「賞与・寸志等の支給状況」に回答があった企業のみを抽出。
  • 各社員タイプについて、各企業の「無限定正社員の給与カーブ」と「当該社員タイプの給与カーブ」の距離が“近い”か“遠い”かに基づき、企業を「無限定正社員の給与カーブに相対的に近い群」「無限定正社員の給与カーブに相対的に遠い群」に2等分。…A (※たとえば限定正社員であれば、各仕事レベル別に「無限定正社員と限定正社員の基本給水準の差の二乗」を求め、それらの和を「無限定正社員と限定正社員の双方が担当している(両者が重なっている)仕事レベルの個数」で除す。各企業のこの「二乗和平均」に基づき、当該企業を「中央値未満=“近い”」「中央値以上=“遠い”」に2等分。)
  • ただし、「無限定正社員の給与カーブに相対的に遠い群」については、「当該社員タイプの給与カーブ」が「無限定正社員の給与カーブ」の“上側に位置する傾向”のケース/“下側に位置する傾向”のケースが想定されることから、さらに2分割。…B (※たとえば限定正社員であれば、各仕事レベル別に「無限定正社員と限定正社員の基本給水準の差」を求め、それらの差の和を「重なっている仕事レベルの個数」で除す。その値がプラスかマイナスかに基づき、当該企業を「無限定正社員の給与カーブの上側に位置する傾向にある群」「無限定正社員の給与カーブの下側に位置する傾向にある群」に2分割。)
  • AおよびBから、分析対象となる企業を次の2つの群、すなわち「給与カーブGood 群」「給与カーブBad 群」に再分類。…C
    1. 給与カーブGood 群=「無限定正社員の給与カーブに相対的に近い群」+「無限定正社員の給与カーブに相対的に遠い群のうち、無限定正社員の給与カーブの上側に位置する傾向にある群」
    2. 給与カーブBad 群=「無限定正社員の給与カーブに相対的に遠い群のうち、無限定正社員の給与カーブの下側に位置する傾向にある群」
  • 次いで、賞与・寸志等の支給状況の回答(図表1)に基づき、「(無限定正社員と比較して)同じ、やや異なる」「(無限定正社員と比較して)異なる、支給していない」の2カテゴリーに分類。 …D
  • CとDに基づき、“社員タイプ別年収水準の企業分布”を把握。

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