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気候変動関連の情報開示と気候変動適応ビジネスの支援制度

民間企業による気候変動への適応(3/3)

  • *本稿は、『みずほグローバルニュース』 Vol.103 (みずほ銀行、2019年6月発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 グローバルイノベーション&エネルギー部 コンサルタント 西郡 智子

情報開示の取り組みと支援制度の活用に向けて

気候変動関連の情報開示に関する課題として、まずは、一貫した比較可能な気候変動影響の評価手法が開発されていないことがあげられる。気候変動の影響は、気温、降水量や異常気象等の幅広い要因によって異なる。将来のこうした事象の生じるタイミングや規模などの不確実性を踏まえた複数のシナリオ設定も含めた影響評価手法は開発途上となっている。また、気候変動による影響とその財務的インパクトの数量化も容易ではなく、その確立された手法もまだないのが現状である。

このような状況下、TCFDは企業に対し、まずは気候シナリオ分析を行い、気候変動関連のリスクと機会の評価を実施すべきとしている。こうした取り組みを実施する中で、取り組みを支援する方法論、ツールやデータの開発とあいまって、企業内の気候変動影響評価に係る実施能力が強化されるとしている。今後は、こうした企業による取り組みとともに、シナリオ分析や財務的インパクトの評価等に係るツールなどの開発が促進され、気候変動関連の情報開示の質が徐々に向上していくことが期待される。

また、適応ビジネスも支援するGCFに関して、現状においては、緩和分野と比較して適応分野の民間案件が少ない状況にある。上述のとおり、その一因として、収益性の課題があることが想定される。図表5に記載したこれまでのGCFの採択案件の内容を勘案すると、その対応としては、適応だけでなく緩和とセットして案件を形成することなどが考えられる。

以上のような状況を踏まえ、民間企業は、気候変動関連の情報開示の促進を念頭に、まずは気候変動への適応を経営課題として認識し、その対応に向けた戦略の構築が必要になるだろう。また、その戦略の実行に際し、目的に沿った各種資金支援制度を活用することも検討に値すると考えられる。こうした取り組みを継続的に行い、改善していくことで、企業のレジリエンスを強化していくことが重要になるのではないか。

謝辞

本稿を執筆するにあたり、丁寧なご指導と多大なご協力を頂きました国立研究開発法人国立環境研究所社会環境システム研究センター地域環境影響評価研究室の岡和孝主任研究員に感謝の意を表します。


  1. *1気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言(2017年6月)
  2. *2環境省ウェブサイト(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html
  3. *3気候変動による影響に対する強靭性・回復力のこと
  4. *4サイクロンや洪水などの異常気象や降水・気象パターンの極端な変動、平均気温や海面の上昇があげられている
  5. *5「製品とサービス」の中で、気候への適応と保険によるリスクへの対応、R&D(研究開発)とイノベーションを通じた新製品・サービスの開発等が、また「市場」の中で新たな市場へのアクセス等が、そして「レジリエンス」の中でサプライチェーンの信頼性向上等があげられている
  6. *6事業実施者は途上国政府関係機関、AE自身、民間企業やNGO等である
  7. *7NDA: National Designated Authority. NDAは各途上国におけるGCF関連事項の窓口機関のこと
  8. *8AE: Accredited Entity. AEはGCFから認証を受けた機関であり、GCFへ資金申請を行うことや採択された事業の実施・管理などを行う。日本の認証機関は、国際協力機構(JICA)、三菱UFJ銀行の2つであり、その他にアジア開発銀行(ADB)、世界銀行(WB)、国連開発計画(UNDP)、HSBC、インド小規模産業開発銀行などがある
  9. *9NoL: Non-Objection Letter
  10. *10資金供与条件(金利、返済期間、据置期間等)の優遇水準のこと
  11. *11GCFにおける民間案件とは、明確な定義はないが、GCF資金の最終受益者に民間企業・組織が含まれる場合、民間案件となっている
  12. *12最終受益者へ資金が届くまでに2つ以上の金融機関を経由する融資のこと
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