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Task12:太陽光発電の持続可能性(1/2)

  • *本稿は、『Journal of Japan Solar Energy Society』Vol.47 No.4(一般社団法人日本太陽エネルギー学会、2021年7月31日発行)に掲載されたものを、同事務局の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ グローバルイノベーション&エネルギー部 河本 桂一

1. Task12活動の目的と参加国

1.1 目的

地球規模のエネルギーの安定供給と環境負荷の低減に向カ、太陽光発電の持続的な成長は不可欠であり、そのためには、太陽光発電の環境持続性と安全性を実現・維持していくための知識の創出と共有が必要である。消費者や政策立案者に向カて、太陽光発電がもたらす環境や健康、安全に対する影響や便益、社会経済的な側面に関する確度の高い情報を発信していかなカればならない。また、これらの情報は太陽光発電を製造、供給する産業界にとっても、持続可能なサプライチェーンの構築につながる。

このような背景のもと、Task12は以下の目的を掲げて活動を展開している。

  • 太陽光発電の環境特性の定量化
    ・エネルギー消費、資源消費および環境負荷排出のライフサイクルの観点による評価
  • 将来、大量に発生する使用済み太陽光発電システムを適正に処理するためのオプションの提示
    ・リサイクルをはじめとするCircular Economy実現のためのパスの描写
  • 環境、健康、安全およびその他の持続可能性につながる事象の明確化
    ・考慮すべきリスクの抽出と評価手法の検討

1.2 参加国

Task12は米国を議長国、オーストラリアを副議長国とし、14カ国、1機関の参加により活動を実施している。Task12に参加している国、および参加メンバーの所属機関を表1に示す。


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表1 Task12参加国と参加機関
機関
オーストラリア University of New South Wales(副議長:Jose Bilbao氏)
オーストリア University of Applied Science, Fachhochschule Technikum Wien
ベルギー PV Cycle Association、VITO
中国 Institute of Electrical Engineering Chinese Academy of Sciences、Zhejiang Jinko Solar Co. Ltd.
フランス CEA-LITEN、EDF、MINES ParisTech
ドイツ LBP Stuttgart University、ZSW
イタリア Ricerca sul Sistema Energetico
日本 みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社(本稿著者)、NEDO
韓国 Korea Institute of Energy Research
オランダ SmartGreenScans、TNO
スペイン CIEMAT、ESC
スウェーデン Swedish Energy Agency
スイス Treeze Ltd.
米国 NREL(議長:Garvin Heath氏)、First Solar
(業界団体) SolarPower Europe

2. Subtaskの概略と主な成果物

Task12活動は三つのSubtaskにより構成されている。これらは前述の三つの目的にそれぞれ対応している。

  • Subtask 1:End of Life Management
  • Subtask 2:Life Cycle Assessment(LCA)
  • Subtask 3:Other Sustainability Topics

以下に、各Subtaskの概略とこれまでに作成された主要な成果物を示す。

2.1 Subtask 1:End of Life Management

製品の使用後処理はライフサイクルの一部であり、サプライチェーンの一部である。太陽光発電の適正な使用後処理については世界各国で様々な議論や取り組みがなされており、太陽光発電システム構成機器のリサイクルが義務化されている場合もある。

Task12では、太陽電池モジュールのリサイクルをはじめとする使用後適正処理について議論を行っている。IRENAとともに作成、2016年に発表したレポート「End-of-Life Management: Solar Photovoltaic Panels」*1は使用済み太陽電池モジュールの発生見通し、主要国におカる取組の現状などを提示し、世界的に注目された。このレポートを契機とし、太陽電池モジュールリサイクル技術の開発動向の取り纏め「End-of-Life Management of Photovoltaic Panels: Trends in PV Module Recycling Technologies」(2018年)*2(本項著者が主著者)、その成果を発展させた学術誌(Nature Energy)への投稿「Research and development priorities for silicon photovoltaic module recycling to support a circular economy」(2020年)*3など、太陽電池モジュールリサイクルに関する情報発信を継続的かつ定期的に行っている。

また、Subtask1とSubtask2に跨る領域の活動として、太陽電池モジュールリサイクルが既に義務化されている欧州を対象とし、現状の太陽電池モジュールリサイクル技術に関するライフサイクルインベントリ分析(2017年)*4、環境影響評価分析(2018年)*5を行ってきている。

図1 結晶Siモジュールのリサイクル処理フロー*2

図表1

図2 薄膜化合物モジュールのリサイクル処理フロー*2

図表2

2.2 Subtask 2:Life Cycle Assessment(LCA)

LCA(Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)は、製品やサービスのライフサイクルを通じた資源・エネルギーのフローや環境への負荷を定量的に評価する手法である。LCAのフレームワークはISO 14040などにより提供されているが、実際の評価の実施に際しては、個々の製品やサービスの特有の事象や条件は、製品やサービスの特徴に応じて設定する必要がある。

太陽光発電のLCAは、Task12の活動初期より議論の中心で、代表的な成果物として以下の二つがある。

  • Methodology Guidelines on Life Cycle Assessment of Photovoltaic Electricity(LCAガイドライン)
  • Life Cycle Inventories and Life Cycle Assessments of Photovoltaic Systems(LCIレポート)

LCAガイドラインは、太陽光発電のLCAの実施に際しての基本的な考え方を取り纏めたものである。第1版は2009年に発行、その後、2011年に第2版、2015年に第3版が発行され、現在の最新版は2020年に発行された第4版である。発行以来、評価項目や評価範囲、前提条件の考え方などについて、LCAを取り巻く議論や情勢、太陽光発電技術の進歩にあわせて更新している。ガイドライン第4版*6は、表2に示す6つの項目(Subchapter)より構成され、各事項について、考え方や例示などを記載している。第3版からの主な更新箇所は、太陽光発電特有の条件の考え方(Life expectancyなど)やライフサイクルインベントリの考え方(Modelling water useなど)の更新、BIPVの評価の考え方の追加である。

LCIレポートは、太陽光発電のLCAに必要となるライフサイクルインベントリデータを収録したレポートである。このレポートは、2011年に第1版が発行され、2015年に第2版、2020年に現在の最新版である第3版が発行された。発行以来、太陽光発電技術の進歩にあわせ、対象とする技術やインベントリデータを更新している。レポート第3版*7では、表3に示す技術について、インベントリデータが収録されている。

なお、これらのデータは、様々な文献や企業へのインタビューなどにより整備されたもので、特定の製品や企業を代表するものではなく、実際には、製品仕様や製造プロセス、製造拠点により変化することに留意が必要である。

これらのFlagshipレポートの他、太陽光発電のWater Footprint分析(2017年)*8、太陽光発電・蓄電池システムのLCA(2020年)*9を取り纏めている。また、太陽光発電のLCAに関する専門家として、欧州で作成された「Product Environmental Footprint Category Rules for Photovoltaic Modules used in Photovoltaic Power Systems for Electricity Generation」(Version 1.0, published 9.11.2018, validity: 31.12.2020)、米国で作成された「ANSI standard: NSF 457 - Sustainability Leadership Standard for PV Modules and Inverters」(2019)の監修なども行ってきている。


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表2 IEA PVPS Task12:LCAガイドラインの構成*6
Photovoltaics-specific aspects
(太陽光発電特有の条件の考え方)
Life expectancy
Irradiation
Performance ratio
Degradation
Curtailing and DC:AC ratio
Back-up Systems
Life cycle inventory modelling aspects
(ライフサイクルインベントリの考え方)
System models
Functional unit and reference flow
System boundaries
Modelling water use
Modelling allocation and recycling
Databases
Building-integrated PV systems
(BIPVの評価の考え方)
Goal and scope
General recommendations
BIPV electricity
Life cycle impact assessment (LCIA)(環境影響評価の考え方)
Interpretation
(評価結果の解釈)
Introduction
Energy Payback Time (EPBT) and Non-Renewable Energy Payback Time (NREPBT)
Environmental impact mitigation potentials (IMP)
Reporting and communication(評価結果の取り纏め、公表)

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表3 IEA PVPS Tasl12:LCIレポートにインベントリデータが
収録されている太陽光発電技術*7
モジュール製造 結晶シリコン
CdTe
CIGS
ペロブスカイト/シリコン(理論値)
モジュールリサイクル 結晶シリコン
CdTe
BOS 屋根設置架台
地上設置架台
インバータ+配線ケーブル(屋根設置)
インバータ+変圧器(地上設置)
リチウムイオン蓄電池
設置工事
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