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社会的孤立の実態とその問題点についての考察(1/3)

  • *本稿は、『個人金融』2022年冬号(一般財団法人ゆうちょ財団、2022年2月発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席研究員 藤森 克彦

【要旨】

本稿では、みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)『社会的孤立の実態・要因等に関する調査分析等研究事業報告書』(厚生労働省令和2年度社会福祉推進事業)を活用して、社会的孤立の実態とその問題点を実証的に考察した。

まず、社会的孤立の実態をみると、主な特徴として、60歳以上の未婚者や離別者で、社会的孤立に陥る人の比率が高いことがあげられる。また、高齢期と現役期の単身男性や、ひとり親世帯で社会的孤立に陥る人の比率が高い。

次に、社会的孤立の問題点として、孤立者は非孤立者に比べて、経済的困窮に陥る人の比率が高いことや、生きる意欲や自己肯定感が低いこと、さらに健康状態がよくない人の比率が高いことがあげられる。

社会的孤立への対応として、新たな相談支援の在り方として、支援者が孤立者とつながり続けることを目的とする「伴走型支援」の有用性などが指摘されている。今後、新たな支え合いに向けた取り組みの強化が求められる。

はじめに

コロナ禍が長期化する中で、人と人とのつながりを保つことが難しくなり、「社会的孤立」が大きな課題となっている。しかし、社会的孤立は、コロナ禍の前から指摘されてきた問題である。コロナ禍で、社会的孤立が一層深刻になり、社会問題として認識され始めている。

ところで、「社会的孤立」の研究は、これまで高齢者を対象にした研究が多かった。現役世代を含めて幅広い年齢階層を対象にした社会的孤立の実証研究はまだ乏しい状況である。また、社会的孤立は何が問題なのかという点についても考察していく必要がある。

そこで本稿では、みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)『社会的孤立の実態・要因等に関する調査分析等研究事業報告書』(厚生労働省令和2年度社会福祉推進事業)に示された社会的孤立の実証分析を参考に、社会的孤立の実態やその問題点を考察していく。

そして最後に、社会的孤立の対策として、「伴走型支援」を紹介する。伴走型支援は、生活困窮者を支援する現場で生み出された支援の概念である。社会的に孤立した人々への支援として有効なことが報告されている(奥田・原田、2021)。

本章の構成としては、まず、先行研究から社会的孤立についての概念整理を行った上で、本稿における孤立指標を示す。次に、孤立指標を用いて社会的孤立の実態について考察する。さらに、社会的孤立は何が問題なのか、という点について考察する。最後に、社会的孤立に対する対応として「伴走型支援」の意義を示す。

なお、本稿で示した考察は筆者の個人的な見解である。

1. 「社会的孤立」の定義と孤立指標

(1)「社会的孤立」とは何か

「社会的孤立(social isolation)」について一律な定義があるわけではないが、英国の社会学者ピーター・タウンゼントは「家族や地域とほとんど接触がないという客観的状態」と定義している。つまり、「社会的孤立」は他者との関係性が乏しいという客観的状態を意味する。

ちなみに、孤立と似て非なる概念として「孤独(loneliness)」がある。孤独は、「仲間がいなかったり、失ったというありがたくない感じをもっていること」であり、主観面を捉えた概念である(服部・一番ケ瀬、1974、219)。客観面を捉えた「孤立」とは区別される。本稿では、「社会的孤立」について考察する。

(2)先行研究における「社会的孤立」の操作的定義

先行研究では、社会的孤立の測定について、様々な操作的定義が用いられてきた。例えば、阿部(2014)は、「社会的孤立」について、①社会的参加(組織・活動への参加の欠如)、②社会的交流(会話の頻度、家族・親族・友人等との接触の欠如)、③社会的サポート(道具的サポートや情緒的サポートの欠如)、に分類している。

また、内閣府(2014)では、「孤立者」の操作的定義として、(1)「コミュニケーションの希薄」、(2)「社会的サポートの受領」、(3)「社会的サポートの提供」といった3つの点から定義している。コミュニケーションの度合いが低いことや、頼れる人がいないという社会的サポートの欠如のみならず、頼ってくれる人がいないという社会的サポートの欠如を孤立概念に含んでいることがひとつの特徴と考えられる。

その他、社会的孤立について、情緒的サポートを取り上げた調査や高齢者の社会的交流を取り上げた調査など特定のテーマに絞った研究も多い。

こうした先行研究から「社会的孤立」の操作的定義を広く捉えて整理すると、概ね、①社会的交流の欠如(会話頻度などが少ないこと)、②受領的サポートの欠如(「頼れる人」がいないこと)、③提供的サポートの欠如(「手助けをする相手」がいないこと)、④社会参加の欠如(社会活動に参加しないこと)、に整理できると考えられる(藤森、2016)。

(3)本稿における使用するデータと社会的孤立の操作的定義

みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)は、国立社会保障・人口問題研究所(2017)『2017年生活と支え合い調査』の二次利用分析を行ったワーキングペーパーの付表をもとにまとめたものである*1。『2017年生活と支え合い調査』は、2017年7月に実施した調査で、日本の世帯構成と家計の実態、家族や地域の人々とのつながりや支え合いの実態、個人の社会・経済的な活動の実態、生活や居住の状況、社会保障制度が果たしている役割などについて調査をしている。同調査は世帯票と個人票の2種類の調査票を用いており、有効票数は、世帯票が10,359(有効回収率63.5%)、個人票が19,800(有効回収率75.0%)にのぼる大規模な全国調査である。

そして、みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)では、「会話の欠如型孤立(以下、会話欠如型)」「受領的サポートの欠如型孤立(以下、受領的サポート欠如型)」「提供的サポートの欠如型孤立(以下、提供的サポート欠如型)」「社会参加の欠如型孤立(以下、(社会参加欠如型)」の4つの孤立指標について、以下の調査項目から操作的定義を設定している。

<会話欠如型孤立>
まず、「会話欠如型」については、「あなたはふだんどの程度、人と会話や世間話をしますか」との設問に、「毎日」「2~3日に1回」「4~7日(1週間)に1回」「2週間に1回」「1ヶ月に1回」「ほとんど話をしない」の選択肢を置いている。このうち、「2週間に1回」「1ヶ月に1回」「ほとんど話をしない」のいずれかを選択すれば「会話欠如型の孤立者」とした。つまり、「会話欠如型」の孤立に陥る人は、2週間に1回以下しか会話をしない人である。

<受領的サポート欠如型孤立>
「受領的サポート欠如型」は、「(1)子どもの世話や看病」「(2)(子ども以外の)介護や看病」「(3)重要な事柄の相談」「(4)愚痴を聞いてくれること」「(5)喜びや悲しみを分かち合うこと」「(6)いざという時のお金の援助」「(7)日頃のちょっとしたことの手助け」「(8)家を借りる時の保証人を頼むこと」「(9)成年後見人・保佐人を頼むこと」の9項目について、頼れる人の有無を尋ねている。回答の選択肢としては、各項目について「頼れる人がいる」「頼れる人はいない」「そのことで人には頼らない」の中から1つを選択する。そして、9項目の全ての設問について「頼れる人はいない」を選択すれば、「受領的サポート欠如型の孤立者」とした。

<提供的サポート欠如型孤立>
「提供的サポート欠如型」については、「①家族・親族」「②友人・知人」「③近所の人」「④職場の人」の各人が、受領的サポートで設定した(1)~(7)の事柄について助けを必要とするとき、「その事柄について手助けをするかどうか」を尋ねている。①~④の全てについて「7つ全ての事柄に関して手助けをしない」を選択すれば、「提供的サポート欠如型の孤立者」とした。

<社会参加欠如型孤立>
「社会参加欠如型」については「(1)自治体や町内会」「(2)ボランティアやNPO」[(3)宗教団体]「(4)PTA や保護者会」「(5)趣味の会やスポーツクラブ」「(6)職場内の会やグループ」「(7)同じ学校出身者の会やグループ」の7項目について、「1年以上前から参加している」「この1年以内に新たに参加するようになった」「参加したいができない」「参加する予定はない」を尋ねている。7項目全てについて「参加したいができない」を選択した場合、「社会参加欠如型の孤立者」とした。

なお、みずほリサーチ&テクノロジーズ(2021)は、「受領的サポート欠如型」と「社会参加欠如型」について、「狭義」と「広義」の二つの定義を設けている*2。本稿で用いる「受領的サポート欠如型」と「社会参加欠如型」の定義は、「狭義」の定義である。

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