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生成AIは日本の起爆剤となるか

世界に見る日本のDX動向

  • *本稿は、『みずほグローバルニュース』 Vol.123 (みずほ銀行、2023年12月発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ デジタルコンサルティング部
上席主任コンサルタント 桂本 真由

DXが企業の経営課題になって久しい。しかし、日本企業のDXには課題が多く、変革が得意な海外諸国と比べて、なかなか進まないと言われることも多い。本稿では、このような日本のDXの現状を改めて確認するとともに、約1年前から大きな注目を集めている生成AIが、日本のDXを飛躍させる力となり得るか、という観点から考察を行う。

世界における日本のDXの現状

各国のDXの進展度を国際的に比較する際に用いられる指標として、スイスのビジネススクール「国際経営開発研究所」(IMD:International Institute for Management Development)が5年前から公表している「世界デジタル競争力ランキング」が知られている。最新版である2023年11月末公開のランキングを見ると、調査対象となった64カ国・地域のうち、日本は中央の「32位」となっている(図表1左)。

図表1中央のG7各国の順位を見ても、日本は7カ国中「6位」となっており、先進諸国の中での順位もそれほど高くはない。また、図表1右のアジア・太平洋地域の順位を見ても、シンガポール、韓国、台湾、香港、オーストラリア、中国、ニュージーランドに続き、ようやく日本(8位)となっており、アジア・太平洋の諸国・地域と比べても、日本はデジタル競争力という面での先進国とは言えない状況にある。

このランキングは、計54の指標による評価結果から算出されている。日本は、これらの項目のうち、「高等教育での教員一人当たりの学生数」「無線ブロードバンド普及率」「ソフトウエア著作権侵害」「世界での産業ロボット供給」等では世界でもトップクラスの評価を得ているものの、「機会と脅威に対する企業の対応」や「企業の俊敏性」「ビッグデータとアナリティクスの活用」「上級管理職の国際経験」「デジタル/技術的スキルの可用性」等の項目では、調査対象国・地域中、下位10カ国(一部の項目は最下位付近)という評価となっている。特に評価が低かったこれらの項目は、国際的な水準で見た場合の日本のDXの課題と言えるだろう。

2018年に初めて発表された同ランキングにおいて、日本の順位は「22位」であった。その後、2023年までの6年間で日本は徐々に順位を落とし、今回ついに過去最低の「32位」となった。日本でも、2017年頃からDXの機運が高まり、様々な取り組みが進んではいるものの、世界各国の変化の速度と比べると、日本の変化はやや緩やかと言わざるを得ない。2020年以降のコロナ禍を機に、日本でもワークススタイルを含む様々な変革が起こり、経済・社会のデジタル化は以前より進んではいるものの、海外諸国のデジタル化は、日本をはるかに上回るスピードで進んでいる。これまでに日本企業が強みとしてきた堅実性や安定性が、迅速な変化が評価されるデジタルの世界においては、「俊敏性(Agility)を欠く」という弱みになってしまっているようにも見える。


図表1 世界デジタル競争力ランキング2023(IMD)*1
図表1

競争を大きく変える可能性を秘めた生成AI

今から約1年前となる2022年11月末、米OpenAIが開発した対話型生成AI 「ChatGPT3.5」が公開された。これまでのAIを上回る機能に世界中が衝撃を受け、生成AIは世界的に非常に大きな注目を集めることとなった。その主役となったChatGPTは、公開からわずか1週間で約100万人、2カ月で約1億人ものユーザーを獲得し、史上最速での成長を遂げる。

2000年代以降、深層学習の発展に伴ってAIが脚光を浴びるようになり、「第3次AIブーム」と呼ばれてきたが、生成AIの登場によって、AIはもはや一時的なブームではなくなり、“着実に我々の社会・産業を変える*2”存在になったと、有識者は指摘する。今後、世界各国の企業にとっては、生成AIを効果的に活用することが、競争優位の確立や差別化の大きなポイントになることは間違いない。将来的には当たり前に活用されるようになるであろう生成AIを、他に先駆けていち早く活用し、成果につなげることが、今後のDXの推進における非常に重要な課題になると考えられる。

こうした観点から、日本における生成AIの活用状況を確認すると、最近発表された調査結果から、興味深い傾向を見ることができる。

2023年10月下旬には、IDCJapanから、企業における生成AIの導入率に関する国際比較調査の結果が公表された。この調査結果(図表2)によれば、2023年3月と7月の結果を比較すると、日本では「生成AIに投資する/している」「生成AIの適用について検討を始めた」という回答が急激に伸びており、7月時点では世界の回答を上回る結果となっている。IDCからも、「国内と世界の比較において、日本が優勢となる状況は珍しい状況」というコメントが発表されているが、これは、今後、日本企業において、生成AI活用が世界に先駆けて進んでいく前兆を示しているとも考えられる。


図表2 世界と日本の生成AIの導入率の比較(IDC Japan)*3
図表1


また、MITテクノロジーレビュー・インサイトとDatabricksは、2023年10月上旬に、「データとAIの活用による成長基盤の構築」を発行したが、このレポートにも、海外諸国と比較して日本では生成AI導入の動きが速いことが示されている。図表3の調査結果を見ると、日本では、生成AIについて「投資・採用している」と回答した割合が、シンガポールに続く全体の2番目となっており、他の主要諸国を上回る状況にある。


図表3 各国別の組織における生成AIの導入状況 (MIT テクノロジーレビュー・インサイト)*4
図表1


このように、最新の調査結果からは、日本が生成AI活用に関して、世界各国に先駆けて取り組み始めた兆しがうかがえる。今後、この流れがより一段と加速すれば、遅れがちと言われてきた日本のDXが、世界に追いつき、追い越せるチャンスはまだ充分にあると筆者は見る。

2023年5月に内閣府の「AI戦略会議」から示された「AIに関する暫定的な論点整理*5」では、「生成AIの可能性」という項の次に「生成AIと日本の親和性」という項が設けられ、日本の技術水準の高さのほか、AI領域における研究開発や社会実装の豊富な実績などから、生成AIと日本の親和性は高く、日本は「自信を持って正面から堂々と競争に臨めば、充分に世界で活躍できる力はある」と、力強く記載されている。

日本の強みをいかした生成AI活用は、日本がデジタル先進国へと飛躍するための起爆剤となり得る。生成AIの急速な活用の兆しが見えた2023年後半以降、わが国のDXはどのように進展するのか。新たなフェーズを迎えた日本のDXは、ここからがまさに正念場であると言える。

  1. *1 https://www.imd.org/news/world_digital_competitiveness_ranking_202311/に基づき作成
  2. *2東京大学大学院工学系研究科 松尾豊教授「生成AI時代の人材育成」(PDF/3,370KB)
    経済産業省 第8回デジタル時代の人材政策に関する検討会 資料5(2023年6月)
  3. *3IDC Japan株式会社「2023年 生成AIに関する企業ユーザー動向調査(国内と世界の比較)分析結果を発表」(2023年10月26日)に基づき作成
  4. *4 MIT テクノロジーレビュー・インサイト「データとAIの活用による成長基盤の構築」
    データブリックス・ジャパン株式会社(2023年10月)に基づき作成
    (※調査は、各国企業の技術部門のシニアエグゼクティブ計600名を対象に、MITテクノロジーレビュー・インサイトが2023年6月から8月にかけて実施)
  5. *5内閣府 AI戦略会議「AIに関する暫定的な論点整理」(2023年5月)(PDF/488KB)

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