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フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.32

American Finance Association 2019 Annual Meeting 参加報告

2019年5月
みずほ情報総研 マーケッツデジタルテクノロジー部 三本 貴裕

本年も当部よりAllied Social Science Associations主催の年次ミーティングに参加した。アメリカ・アトランタのダウンタウンに位置するMarriott Marquisを大会本部として、周辺の会場で様々な分野に渡る大会が開催された。中でも、金融・経済に的を絞ったAmerican Economic Association(AEA)、American Finance Association(AFA)はHiltonにて開催され、筆者はAFAのセッションを聴講したため、その参加記録をレポートする。

1. カンファレンス概要

大会名: American Finance Association 2019 Annual Meeting(AFA)
主催者: American Finance Association
開催地: アメリカ合衆国 ジョージア州 アトランタ
期間: 2019年1月4日~2019年1月6日

カンファレンスは1セッションが2時間で行われ、1日あたり3セッションが行われた。セッション内では3~4程度の論文について15~20分程度発表が行われ、それぞれの発表の後に、直前の発表に対して第三者によるディスカッションやコメント、改善点などが同様に15~20分で発表される形式である。

1つの時間帯では7~8程度のセッションが設けられ、大会期間の3日間で72のセッションで240の論文について発表が行われた。

2. セッション概要

2.1.The Role of Media in Finance

本セッションでは、金融においてメディアが果たす役割や、メディアの情報発信によってマーケットに引き起こされる変化等が論じられた。ここでは、その中から以下のペーパーについて紹介する

■News-Driven Trading: Who Reads the News and When?

ここ数十年のネットワークの進化により、多くの投資家が情報に瞬時にアクセスできるようになった。これに伴い、重要なニュースが発表されたタイミングにおける取引ボリュームの増大が確認されている。本論文では、公開されたニュースに対して、どのような投資家がどのようなタイミングで反応するかをモデル化し、取引ボリュームにどのような影響をもたらすかを考察している。

公開されているニュースへのアクセス情報を利用して分析を実施した結果、アクセスされるタイミングの情報が、取引ボリュームの増大の強い予兆となることが確認された。一方で、どのような投資家がアクセスしたかという情報については、取引ボリューム増大の予兆としてはやや弱い結果となった。ただし、公開されたニュースがあいまいな場合はより重要な役割を果たすことが分かった。

■Home-Country Media Slant and Equity Prices

自国の企業に関連するニュースについて、全国紙が自国偏重の報道をしているかどうか、またもしそうであれば、国ごとの投資家の行動にどのような影響を与えるかを問う研究。アメリカ・ドイツ・日本の自動車製造業に関連したメディアの報道を分析し、偏重の有無を論じている。自動車製造業を選択した理由としては、国の経済に大きな影響を与えるために偏重が発生しやすいと考えられること、国際的な競争が起きている業界であること、グローバルに株式が取引されていることが挙げられた。

2007年から2016年の19万におよぶ新聞記事を分析した結果、各国の全国紙は、自国のニュースをより好意的に報道していることが明らかになった。とりわけ、将来の出来事のようにニュースの内容検証が困難な場合、次いで、リコールなどの重大なスキャンダル、企業の市場評価が低いタイミングでその傾向は顕著になった。

このように国ごとに報道のトーンが異なることから、株式投資家の行動への影響が考えられる。「母国のメディア報道の反対に投資」する戦略によって、月あたり2%超という大きなリターンが得られることが示唆された。

2.2.Information and Competition in Banking

本セッションでは、銀行における情報と競争による効果等についてディスカッションが行われた。ここでは、近年益々強化される当局規制による透明性の増加の影響が論じられた以下のペーパーについて紹介する

■Bank Transparency and Deposit Flows

2008年の金融危機以降、バーゼルIIIの規制は更に強化されており、銀行に対しては更なる透明性が求められるようになった。本論文では、増加する銀行の透明性に対して、銀行がどのような影響を受けるかが考察された。銀行の透明性についてasset transparency、market transparency、depositor sophisticationの3つの指標を定義し、分析を行った。その結果、より透明性の高い銀行ほど、預金保険対象外の預金のフローが銀行のパフォーマンスにより影響することが示された。

これは、規制強化による透明性が銀行の規律を保つことに寄与しているとも考えられる一方で、銀行が本来持つべき流動性変換や、安定した債権の形成という機能を阻害していることも示唆された。

2.3.Hedge Funds

本セッションでは、市場におけるヘッジファンドの振る舞いや、マネージャーの特徴によるヘッジファンドのパフォーマンス分析など、ヘッジファンドに係る広範な議論が行われた。本レポートでは、以下のペーパーについて紹介する

■Do Alpha Males Deliver Alpha? Testosterone and Hedge Funds

顔の横幅と縦幅の比率(facial Width-to-Height Ratio: fWHR)は、男性のテストステロン値と関係していることが生態学の研究において示唆されており、経済の分野においては、男性の個人トレーダーや経営者はfWHR値が高い、すなわちテストステロン値が高いと考えられる人の方がより成功するということが論じられている。

ヘッジファンドについては、個人トレーダー、経営者とは求められる能力が異なることから、fWHR値が高いヘッジファンドマネージャーも高いパフォーマンスを上げるかどうかを検証したユニークな研究。

結論としてはこれまでの研究とは異なり、fWHR値の高いヘッジファンドマネージャーは、そうでないヘッジファンドマネージャーと比較して大きくアンダーパフォームすることが分かった。加えて、そのようなヘッジファンドマネージャーは、博打のようなハイリスクハイリターンの株式を取り入れる傾向にあることや、含み損を出している株式を売却できない(損切りできない)傾向にあることが示され、結果的にファンドを閉じたり、より高い運用リスクを取ったりしていることが示唆された。

■Prime (Information) Brokerage

銀行などの機関投資家を通じて、プライムブローカレッジサービスを提供しているヘッジファンドが一般企業の情報に関するアドバンテージを得ているか否かを問う研究。ヘッジファンドは、彼らがプライムブローカーとなっている銀行から融資を得た企業の株についてInformed Tradeを行っていると示唆された。それらの企業が融資を得たことの報道に先立ち、ヘッジファンドが普通ではない大量のオーダーを出しており、そしてこれらのオーダーは他のオーダーよりもアウトパフォームする結果が示された。

プライムブローカーの高い収益性を持ったヘッジファンドのトレードや、資金を調達した企業について情報の非対称性が強い場合のトレードについて、この傾向はより顕著になったことが示された。

3. 所見

大会期間の3日間で200を超えるペーパーセッションが行われ、会場は多くの参加者で賑わっていた。

研究発表としては、本報告でも紹介したメディアやヘッジファンドに係るもの等に加え、金融規制や金融機関に関する研究など、非常に多岐にわたるものであった。なかでも、大きなホールで実施されたパネルディスカッションでは、ブロックチェーン、暗号通貨、フィンテック、イノベーション、ビッグデータなど、ファイナンスの業界を取り巻くIT技術に関する議論が多く開かれており、金融とIT技術がもはや切り離せない関係になっていることが伺える。これからは、両技術を共にフォローしていくことが求められよう。

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