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技術動向レポート

次世代・革新型蓄電池技術の現状と課題

蓄電池技術はどこに向かうのか?(1/6)

サイエンスソリューション部 チーフコンサルタント 茂木 春樹
グローバルイノベーション&エネルギー部 コンサルタント 佐藤 貴文
環境エネルギー第1部 チーフコンサルタント 吉田 郁哉

2019年のノーベル化学賞は、リチウムイオン電池開発に貢献した吉野彰旭化成名誉フェローら3名が受賞した。リチウムイオン電池は既に、スマートフォンやパソコンをはじめとする電子機器、通信などの産業機器を中心に世界的に普及しており、このような世界的な貢献が評価されたものである。これまでもノーベル賞受賞候補として期待されてはいたが、改めて心より祝福したい。

蓄電池はその高性能化、低コスト化により、いままでの小型機器への搭載からモビリティを含む大型機器への展開が急速に進みつつあり、近年改めて多くの関心を集めている。一方で蓄電池は技術に難しい点が多く、将来的な技術進展も見通しにくい。また、用途毎に要求される仕様や特性が大きく異なることも、蓄電池技術を理解するにあたっての障壁となっている。

そこで本稿では、改めてリチウムイオン電池を含む現状の蓄電池技術の適用先に関する技術動向、および次世代・革新型蓄電池の研究開発動向についてまとめ、それらが実用化されるにあたって必要となる共通の技術的課題について考察した。

1.はじめに

電気エネルギーを化学エネルギーとして貯蔵する技術を電池と呼び、電池のなかでも充電により電気を蓄えることができ、繰り返し使用可能な電池を蓄電池(1)と呼ぶ。現在、リチウムイオン電池を筆頭とする小型の蓄電池は、スマートフォンやノートPCをはじめとする情報端末に多く搭載されており、現代人の多くが日常的にその恩恵を受けている。ほとんどの人は、外出中に情報端末の電池残量を気にかけたり、充電可能な店舗を探したり、持ち歩いている予備の蓄電池を活用する、といった思考や行動を日常的に行っているのではないだろうか。また、近年蓄電池を搭載した自動車であるハイブリッド自動車(Hybrid Electric Vehicle;HEV)や電気自動車(Electric Vehicle;EV)を街中で見かけることが多くなった。一昔前と比較しても、蓄電池は私たちの生活になくてはならない身近な存在になったと言える。

また最近、蓄電池に関係する報道を目にする機会が増え、様々な新しいタイプの蓄電池が登場するとともに、従来の蓄電池と何が違うのか、どのような用途に使えるものなのか、などといった疑問も増えていることだろう。一言に「蓄電池」といっても、様々な仕組みのものがあるうえに、同じ種類の蓄電池であっても構成材料が変わるだけで特性がまったく変化してしまうものもあるなど、非専門家にとっては難しい点も多い。また、報道によっては読者に誤解を与えかねない表現がみられることもある。たとえば、最近では自動車の電動化、特にEVへの関心が高いことから、新しい蓄電池が出るとEVに結び付けた報道がされていることも多いが、必ずしもすべての蓄電池がEVをはじめとした自動車に向いている訳ではない。

蓄電池は種類によってそれぞれ作動原理、特徴、課題が異なるため、技術進展の仕方は蓄電池の種類毎に異なる。蓄電池の種類を限定したとしても、構成する材料やその組み合わせにその特性が大きく左右されることから、個別の技術進展について見通しを立てることも難しい。半導体の集積率向上を予測したムーアの法則のような経験則が、蓄電池技術について存在しないことも、蓄電池技術の進展が見通しにくいことを示している。

蓄電池技術の進展について見通しを立てることが難しくても、自動車の電動化、電力自由化、再生可能エネルギー(再エネ)やスマートコミュニティ(スマコミ)(2)の社会実装拡大などを背景として、今後蓄電池の役割と需要が大幅に拡大することはほぼ間違いないだろう。しかしながら、すべての用途に使える万能な蓄電池は現時点では存在せず、用途に合わせた蓄電池の更なる性能向上が不可欠であり、各国が産学官の総力を挙げて研究開発や実証事業に取り組んでいる状況にある。

本稿では、技術進展の見通しが困難な蓄電池技術について、蓄電池の適用先に関する技術動向、および次世代・革新型蓄電池を主な対象とした研究開発の動向について述べる。また、次世代・革新型蓄電池が実用化されるにあたって解決が必要となる共通の技術的課題について考察した。

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。

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