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社会動向レポート

中長期的な気候変動対策における国際協力とコ・イノベーション(1/2)

環境エネルギー第1部 地球環境チーム コンサルタント 長島 圭吾 シニアコンサルタント 熊久保 和宏

はじめに

2015年12月、フランス・パリで開かれた気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において新たな地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」が採択され、世界共通の長期削減目標として、「世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力の追及」や「全ての締約国は温室効果ガスについて低排出型の発展のための長期的な戦略を立案、及び提出するよう努力すべき」ことなどが規定された。

このような背景のもと、環境省では、低排出型の発展のための長期的な戦略の立案も見据えて、2018年3月、中長期的な気候変動緩和策における国際協力のあり方を「気候変動緩和策に関する国際協力ビジョン(1)」としてとりまとめ、中長期的な気候変動対策の国際展開の重要な手法として「コ・イノベーション(Co-innovation)」を以下の通り提示した:

コ・イノベーションとは、我が国の技術や制度をパートナー国(2)にそのまま導入・普及させる一方向のものではなく、パートナー国と我が国の協働により、パートナー国に適した脱炭素製品・サービス・技術の市場創出と経済社会システム、ライフスタイルの大きな変革をもたらすイノベーションである。

世界の経済成長と脱炭素化をけん引するべく、次の2点を柱として国際展開を実施していく。

  1. [1]日本の強みである環境技術、質の高いインフラ・製品・サービスを世界に展開。
  2. [2]パートナー国と我が国の協働を通じて、双方に裨益(ひえき)あるイノベーション(コ・イノベーション)を創出。

このように、コ・イノベーションは、環境省において中長期的な気候変動対策に関する国際展開の重要な手法として位置付けられた。一方で、新しい手法であるため、未だその定義の解釈や具体的なイメージが定まっていない状況である。

そこで本稿では、中長期的な気候変動対策の国際展開においてコ・イノベーションが必要とされる背景や、コ・イノベーションと既往手法を整理するとともに、当社がコ・イノベーションをテーマに開催した「みずほビジネスイノベーションフォーラム」での意見も踏まえて、今後のコ・イノベーションの促進に向けて有効となる政策を提示する。

1.コ・イノベーションが必要とされる背景

はじめに、コ・イノベーションが必要とされる背景について、世界のエネルギー起源CO2排出量の見通し、世界のGDP構成の見通し、2050年までのCO2排出量の削減経路の3つの観点から説明する。

(1)世界のエネルギー起源CO2排出量の見通し

はじめに、世界のエネルギー起源CO2排出量の見通しを確認する。IEA (3)の「EnergyTechnology Perspectives(エネルギー技術展望)2017」では、将来のCO2排出量について、参照シナリオ、2℃シナリオ、2℃未満シナリオの3つのシナリオについて分析を行っている。参照シナリオとは各国が既に約束した排出削減や対策を考慮したもので、2℃未満シナリオとは2100年までの世界の平均気温上昇を50%以上の確率で1.75℃に抑制するものであるが、図表1が示すように、この両シナリオを比較すると、OECD加盟国で2050年に80億tCO2、OECD 非加盟国で270億tCO2のCO2を追加的に削減することが必要とされている。OECD 非加盟国が世界全体で2050年に追加的に必要とする削減量の約8割を占めており、世界全体でのパリ協定の目標達成のためには、現在の途上国の取組が鍵となることがわかる。

図表1 世界のエネルギー起源CO2排出量と削減量の内訳
図表1

  1. (資料)IEA「Energy Technology Perspectives 2017」より作成

(2)世界のGDP 構成の見通し

次に、GDP 構成についてみる。図表2の通り、OECD(2012)の見通しでは、世界全体のGDPに占めるOECD 非加盟国の割合は、2011年の35%から2060年に58%に大きく拡大している。一方で、日本は、2011年の7%から2060年には3%に低下すると見込まれている。今後、現在の途上国が世界経済におけるプレゼンスを大きく高め、日本との経済格差は縮小することが予想される。

図表2 世界のGDP 構成の予測
図表2

  1. (資料)OECD (2012)「Looking to 2060: Long-term global growth prospects」より作成

(3)2050年までのCO2排出量の削減経路

最後、3つ目が、2050年までのCO2排出量の削減経路である。図表3の青線にあるように、先進国はこれまで、CO2排出量を増加し続けながら社会・経済を発展させる、いわば、“エネルギー・資源浪費型の発展”を遂げてきた。しかし、パリ協定の目標達成のためには、“経済成長と温室効果ガスの排出削減との両立”を図ることが求められる。一方、現在の途上国は、今後社会・経済の成長が見込まれる中で、先進国がこれまで歩んできた“エネルギー・資源浪費型発展”を追随する形(図表3のオレンジ点線)で発展するのではなく、先進国が歩んできた経路を飛び越えて直接、脱炭素社会へ移行する削減経路(図表3の緑点線)が必要とされる。


以上のように、世界全体でのパリ協定の目標達成のためには、途上国の取組が鍵となり、今後、途上国と日本の経済格差は縮小することが予想される。また、途上国には、先進国が歩んできた経路を飛び越えて直接、脱炭素社会へ移行する削減経路が必要とされる。

先進国・途上国の2050年までに歩むべき経路が異なる中、途上国では、先進国と比べてインフラ整備が遅れている反面、インフラの新規導入の余地が多く、脱炭素技術の短期の導入可能性が高い。一方で日本には、途上国と比べて資金、技術、人材、制度が豊富である。中長期的な気候変動対策における国際協力においては、お互いの強みを活かしつつ、日本と途上国の協働により、脱炭素製品・サービス・技術の市場創出と経済社会システム、ライフスタイルの大きな変革をもたらすイノベーション(「コ・イノベーション」)が重要となると考えられる。

図表3 先進国・途上国のCO2排出量のイメージ
図表3

  1. (資料)みずほ情報総研作成
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