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社会動向レポート

「人生百年時代」を検証する(2/3)

社会政策コンサルティング部 主席コンサルタント 仁科 幸一

3.長寿化はどこまで進んだのか

(1)高齢者をどうとらえるか

[1]高齢期の定義

長寿化を「老後の期間が長くなること」ととらえる場合、高齢期を何歳で区切るかということが重要な問題となる。

一般に高齢期とは65歳以降をさすが、この定義は「1965年に世界保健機関(WHO)が、65歳以上の人口が全人口の7%を超えると高齢化社会とする、という見解を発表したことが契機」であり、「医学・生物学的な根拠はなく、当時の欧米諸国の平均寿命が男性66歳前後、女性72歳前後であったことからそのまま使われるようになった」ものだという(5)。必ずしも合理的根拠があるというわけではない。しかし、医学・生物学的知見を基礎とするにせよ、社会的な地位や役割を基礎とするにせよ、長期にわたるデータが得にくく、また、妥当性の解釈余地が大きい。

こうしたことから、本稿では、高齢期の始期を65歳とし、一部、参考値として55歳と75歳を始期とするデータを示すこととする。ちなみに55歳とは1955年当時の厚生年金の支給開始年齢、75歳は後期高齢期の起点にあたる。

[2]どれくらいの人が高齢期に到達できたのか

図表4は0歳を起点とする年齢別生存率を示している。65歳に到達する者の率は、1891~98では男性31.5%、女性35.4%、1955年では男性61.8%、女性70.6%、2015年では男性88.8%、女性94.2%となっている。明治期は若年早世者が多いため、高齢期に到達すること自体が「狭き門」であったのに対して、現代では9割前後の者が高齢期を迎えることができる。


図表4 年齢別生存率
図表4

  1. (資料)厚生労働省「完全生命表」より作成

(2)高齢者の平均余命の変化

図表5は、55歳、65歳、75歳の平均余命のおよそ60年ごと(1891~98年、1955年、2015年)の変化を示している。


図表5 高齢者の平均余命の変化
図表5

  1. (資料)厚生労働省「完全生命表」より作成

[1]1891~98年

55歳に到達した者の平均余命は男性では15.7年(70.7歳)、女性では17.4年(72.4歳)。

65歳に到達した者の平均余命は男性で10.2年(75.2歳)、女性で11.4年(76.4歳)。

75歳まで到達した者は男性で6.2年(81.2歳)、女性で6.7年(81.7歳)となっている。

図表4で示したように、高齢期に到達できる者の割合は現代と比べて小さいが、高齢期を迎えることができた者については、男女ともに70歳を超えている。寿命は意外に長かったというのが率直な感想である。当然、40歳を超えたら老人というわけではなかったと思われる。

[2]1955年

およそ60年間を経た1955年、55歳の平均余命は男性18.5年(73.5歳・2.8年の伸び)、女性21.6年(76.6歳・4.2年の伸び)に伸びている。65歳の平均余命は男性11.8年(76.8歳・1.6年の伸び)、女性14.1年(79.1歳・2.7年の伸び)となっている。75歳では男性7.0年(82.0歳・0.8年の伸び)女性8.3年(83.3歳・1.6年の伸び)となっている。

いずれの年齢の平均余命も伸びているが、図表1に示した平均寿命と比べると、その伸びは小さい。この間の平均寿命の伸びは、若年者(特に子ども)の死亡率の低下の影響が大きかったことがうかがえる。

[3]2015年

1955年からの60年間に、65歳の平均余命は男19.4年(84.4歳・7.6年の伸び)、女性24.2年(89.2歳・10.1年の伸び)、75歳では男12.0年(87.0歳・5.0年の伸び)女15.6年(90.6歳・7.3年の伸び)となっている。1891~98年から1955年の60年間と比べ伸びが大きい。特に75歳に到達した者は、男女いずれも「人生およそ90年」が現実のものとなっていることがわかる。

[4]1955年以降の65歳平均余命の推移

1955年から2015年までの65歳平均余命の推移(図表6)をみると、1960年以降、多少の波はあるが今日までほぼ一貫して伸びている。平均余命の変動に影響を与える要因(6)は多岐にわたるが、国民の医療サービスへのアクセシビリティを大きく改善した国民皆保険のスタートが1961年であることを勘案すれば、これが長寿化に一定の影響を与えたものと考えられる。

図表6 65歳平均余命の推移
図表6

  1. (資料)厚生労働省「完全生命表」より作成

(3)65歳の寿命中位数年齢(図表7)

65歳の人口が半減する年齢は、1891~98年は男性74.4歳、女性75.7歳となっている。60年後の1955年では、男性は76.2歳(1.9年の伸び)、女性は78.9歳(3.3年の伸び)である。さらに60年後の2015年では、男性85.2歳(9.0年の伸び)、女性は90.4歳(11.5年の伸び)である。

この指標からも、1955年以降の伸びが顕著であることがわかる。


図表7 65歳の寿命中位数年齢の変化
図表7

  1. (資料)厚生労働省「完全生命表」より作成
  2. ※ 棒グラフは寿命中位数年齢、折れ線グラフは寿命中位数年齢の延伸年数

(4)どれくらいの人が100歳に到達できるのか

図表8に示す100歳の生存率(100歳に到達することができる者の割合)をみると、明治期も1955年も男女共に0に近い。一方、2015年では男性の1.6%、女性の6.7%が100歳に到達している。過去と比較すれば100歳に到達することのできる確率は飛躍的に高くなっている。しかし、男性の約63人に1人、女性の15人に1人という水準で「人生百年時代」と言い切るには躊躇が残る。


図表8 年齢別生存率
図表8

  1. (資料)厚生労働省「完全生命表」より作成

(5)わが国の長寿化は突出しているのか

G7参加国の65歳時点の平均余命を比較すると(図表9)、男性についてはカナダ、フランスがわが国よりわずかながら長く、女性についてはわが国が最も長くフランス、カナダがこれに続いている。男性では最も長いフランスと短いアメリカ・ドイツの差は1.9年、女性では最も長い日本と短いアメリカとの差は3.7年となっている。

多少の差はあるが、長寿化は先進国に共通してみられる現象であり、わが国はフランス、カナダ、イタリアとともに平均余命が長いグループにはあるが、特に突出した存在とはいえない。長寿化は先進国共通の現象なのである。


図表9 65歳時点の平均余命の国際比較(2016年)
図表9

  1. (資料)Global Health Observatory data repository(WHO)(2019年8月1日閲覧)より作成
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