ページの先頭です

社会動向レポート

社会生活基本調査にみる30年の余暇活動の変化

国民の余暇生活はどう変化したか(1/4)

社会政策コンサルティング部 主席コンサルタント 仁科 幸一

平成の30年間は、敗戦と高度経済成長を経験した昭和と比べれば平穏な時代だったといえるかもしれない。しかし、2度にわたる未曽有の災害、バブル経済とその崩壊によってもたらされた長期の経済的停滞を経験したという点では、必ずしも平穏なだけの時代ではなかった。

30年という期間はおおむね親子の年齢差に近く、この間に一世代が交代したことになる。国民の生活変化をつかむのにふさわしい期間である。本稿では、総務省が定期的に実施している「社会生活基本調査」の結果から、平成の30年間の国民の余暇活動の変化を探る。

1. 社会生活基本調査の概要

(1)社会生活基本調査とは

社会生活基本調査は、「国民の生活時間の配分及び自由時間における主な活動について調査し、仕事や家庭生活に費やされる時間、地域活動等への関わりなどの実態を明らかに」することを目的として、1976(昭和51)年から5年おきに総務省統計局が実施している大規模調査である。2016(平成28)年調査では、調査対象は77,843世帯に属する10歳以上(1)の世帯員179,297人であり、定期的に実施されている同種の調査(2)をはるかに上回る規模で行われている。

本稿の執筆時点で得られる最新の集計結果は、2016(平成28)年10月に実施された調査である。ここを起点に30年間遡ると、1986(昭和61)年になる。この年は昭和に属するが、これを平成の初期として見立て、1986年と2016年の調査結果を比較する。なお、1991(平成2)年調査までは調査対象者を15歳以上としていたため、本稿では15歳以上のデータを分析対象とする。

(2)生活行動調査と生活時間調査

社会生活基本調査の調査内容は、生活時間調査と生活行動調査に大別される。

生活行動調査は、前述の調査目的の「自由時間における主な活動」、すなわち余暇として行われた活動(3)を調査対象としている。2016年調査では、自由時間に行った活動(余暇活動)5ジャンル・80種類(図表1)に関して、この1年間での活動経験の有無、行動頻度などを調査している。これをもとに、年齢・性別などの属性別に、行動者率(この1年に活動した者の率)や行動者数(4)を集計している。活動種類は社会の変化に応じて調査のたびごとに見直しが加えられており、経年的な比較が困難な項目も少なくない。本稿では1986年と2016年で比較可能な項目のみを分析対象とした。

生活時間調査は、「国民の生活時間の配分」を調査するものである。睡眠、仕事、家事、趣味活動など20種(5)の活動種類別にこれを行った時間帯と時間量を調査している。たとえば、睡眠の時間量や時間帯の変化をみることによって生活の24時間化の進展、家事や育児の時間量をみることで家庭内の男女の役割分担の変化をとらえることができる。興味深いデータであり、他の機会にその分析に取り組んでみたいと考える。


図表1 生活行動調査の活動種類
図表1

  1. (資料)総務省統計局「社会生活基本調査」より作成
  2. (注1)1986年と2016年が比較可能な項目のみを示した。
  3. (注2)いずれの項目も個人の自由時間に行ったもの。

図表2 行動者数の変化(15歳以上全体)
図表2

  1. (資料)総務省統計局「社会生活基本調査」より作成

(3)1986年とはどんな年だったのか

[1] 1986年はまだバブル期ではなかった

具体的な分析を行うにあたり、比較の中心となる1986(昭和61)年について振り返っておく。

前年の1985年9月のプラザ合意(6)によって、急激に円高・ドル安が進行した(7)。このような急激な円高によって輸出産業を起点とする不況が懸念され、1986年に日銀は公定歩合の引き下げに動き、名目金利が低下したことがいわゆるバブル経済の引き金となったといわれている。

このような動きからすれば、調査が行われた1986年10月は、後のバブル経済の兆候が現れ始めた時期(8)であったとはいえるが、当時は急激な円高による先行きへの不安感が濃く、好況を実感し、これが広く国民の余暇活動に影響を与えるようになったのはもう少し後だったといえる。

[2] 男性高齢者は軍隊経験者だった

30年を経過すればすべての人は30歳分歳をとるのは自明のことだが、少していねいに確認しておきたい。

1986(昭和61)年時点の高齢者(65歳以上)の生年は、おおむね1921(大正10)年以前。1921年生まれといえば、太平洋戦争が始まった年に徴兵された世代であり、高齢男性のほぼすべてが軍隊経験者であり、小学校で教育勅語を暗唱した世代でもある。一方、2016年時点の高齢者の生年は1951(昭和26)年以前であり、戦後民主主義の価値観の下で教育を受けた世代が含まれる。いまや、深夜放送でビートルズを聞き、ギターでフォークソングを歌った世代が高齢期に到達しているのである。

同様に、当時の10代後半の世代の生年はおおむね1967~71年であり、2016年時点では40歳代後半、サラリーマンであれば中間管理職世代。同様に20歳代の世代の生年はおおむね1957~66年であり、2016年時点では50歳代、孫がいる者もめずらしくはない年代になっている。

30年間の変化をみる際に、即物的な年齢で区切った年代が比較の有力な指標になることはいうまでもないが、特定の年代が生きてきた歴史、社会環境、それに基づく価値観の相違、すなわち世代の相違にも配意する必要がある所以である。

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています

ページの先頭へ