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社会動向レポート

国内企業における人事関連情報分析の実態と推進のための示唆

ピープルアナリティクスの"いま"と"これから"(1/2)

経営・IT コンサルティング部 チーフコンサルタント 岡松 さやか

近年、国内外を問わず、企業内の人事関連情報を詳細に分析し、人事戦略や経営戦略の策定、業務効率化等に活用する動きが見られる。メディアで取り上げられる先行事例の他にも、導入を検討している企業や興味を持ちながらも未着手の企業等、潜在的に人事関連情報の活用を志向する企業は多いと考えられる。しかしながら、こうした企業群の実態は現状では十分に把握されていない。本稿では、弊社の自主研究プロジェクトとして実施した「国内企業人事部におけるピープルアナリティクス実態調査」の結果から、人事関連情報活用の実態を把握し、今後の課題を考察する。

1.人事・経営戦略を変える可能性のあるピープルアナリティクス

昨今、多くの企業では、新しい製品・サービスの創出のため、あるいは社内の業務改善・業務効率化のために、AIやIoTを利用し取得・分析したデータを活用している。この動きは、採用情報や人事評価情報等の機微なデータを取り扱う人事部門も例外ではない。

「ピープルアナリティクス」とは、企業に蓄積されたさまざまな人事関連情報を分析し、人事・経営戦略の策定、業務効率化に活かす取組のことである。従来業務では、担当者の属人的な経験や勘に頼っていたが、ピープルアナリティクスにより、データに基づいた人事・経営戦略の策定等ができる。米国のGoogle、Facebook等は、いち早くピープルアナリティクス専門の部署を立ち上げ、活発に取り組んでいる。米国は多くの企業で人材の流動性の高い「ジョブ型雇用(1)」を採用しているため、人事部門にデータ分析専門人材を配置しやすく、専門組織を立ち上げやすいことも、ピープルアナリティクスの浸透に繋がっていると考えられる。

わが国においても、一部の先進企業では、人事部門にデータサイエンティスト、データアナリストと呼ばれるデータ分析専門人材を育成・配置し、専門組織を設置して取り組んでいる。また、PoC(Proof of Concept)として試験的に実施している企業もある(2)。従来型の人事情報システム(就業管理、人事評価等)にダッシュボート(3)等でデータを自動でグラフ化したり、簡単に分析できる機能が追加されるようになったことも、多くの企業がピープルアナリティクスを始めるきっかけとなっている。

本稿では、「国内企業人事部におけるピープルアナリティクス実態調査」(以下、実態調査という)の結果を用いて、国内における実態を明らかにし、今後の課題と展望を整理する。

2.国内企業人事部におけるピープルアナリティクス実態調査の結果から

(1)実施概要

実態調査は、2019年12月に国内企業の人事部門に所属する方を対象に実施した(図表1)。回答者の所属企業は、外資系は3.7%であり大半が国内企業である。

実態調査における「ピープルアナリティクスの実施状況」の結果を図表2に示す。この結果によると、ピープルアナリティクスを実施している企業(以下、実施企業という)は11.8%、過去に実施していたが現在は実施していない企業は4.9%、実施していないが、今後の実施を検討している企業(以下、検討中企業という)は10.9%、実施していないが、興味・関心がある企業(以下、興味あり企業という)が25.4%、実施しておらず、興味・関心が無い企業が47.0%となった。実施企業と潜在的にピープルアナリティクスを志向する検討中企業、興味あり企業を合わせると約半数を占める。

図表1 実態調査の概要
図表1

  1. (資料)みずほ情報総研「国内企業人事部におけるピープルアナリティクス実態調査」(2019年12月)

図表2 ピープルアナリティクスの実施状況
図表2

  1. (資料)みずほ情報総研「国内企業人事部におけるピープルアナリティクス実態調査」(2019年12月)

(2)ピープルアナリティクスの実施状況

[1]企業属性

実施企業の業種を見ると、製造業が21.3%、サービス業(他に分類されないもの)が14.8%と多く、金融業・保険業が14.8%、情報通信業が9.8%と続く結果となった。また、従業員数でみると1,000人以上の企業が62.3%を占め、現状では大規模な企業で、ピープルアナリティクスが実施されている。

[2]人事関連情報のデジタル化の状況

「電子データとして人事関連情報を保有しているか」に関する結果を見ると、実施企業では、勤怠情報、採用情報、評価情報、育成研修情報等について、何らかの電子データとして保有している企業が8割程度となった(「全てデジタル化して保有している」「概ねデジタル化して保有している」「一部をデジタル化して保有している」の合計値)(図表3上段)。

また、検討中企業の結果を見ると、実施企業と同程度で、各種情報を何らかの電子データとして保有している。しかしながら、「全てデジタル化して保有している」の割合に着目すると、実施企業と比較して低い(図表3中段)。検討中企業は、各種情報のデジタル化が進みつつあるものの、完全にはデジタル化しきれていない。

この他、興味あり企業の結果を見ると、勤怠情報は「全てデジタル化している」が、実施企業や検討中企業と比較して高い。その一方で、勤怠情報を除いた人事関連情報のデジタル化は進んでいない(図表3下段)。1種類の情報を完璧にデジタル化するよりも、幅広い情報をある程度の水準でデジタル化する方が、長時間労働や退職等の各種事象の要因を把握する際に有用性が高く、ピープルアナリティクスを推進するためのポイントと言えよう。

[3]人材、組織体制の状況

ピープルアナリティクスは、人事部門等にデータを分析したり、分析を企画する「データアナリスト(4)」を配置して、推進するケースが多い。実施企業のデータアナリストの配置・育成状況(複数回答)を見ると、部署内で育成したデータアナリストを配置している(5)企業は55.7%であった。他部署でデータ分析経験を積み、現在は部署内に着任したデータアナリストがいる企業は42.6%である。部署内に社外から中途採用等を経て着任したデータアナリストがいる企業は36.1%となっている。データアナリストには、高度な統計分析スキルが必要であり、今後、各社においてピープルアナリティクスが推進されると、社内の他部署で分析経験を積んだ者や中途採用者の活用も進むものと考えられる。

なお、ピープルアナリティクスを積極的に推進している企業の中には、データ分析の専門組織を設置しているケースがある。実態調査において、実施企業のうち68.9%で人事部門に専門組織を設置している結果となった。

[4]デジタルデータの閲覧・分析に用いるツールの整備状況

ピープルアナリティクスに必要となる「データ閲覧・分析ツール」の活用状況を見ると、実施企業では、人事情報システムのダッシュボード機能等を62.3%、エクセル等の表計算ツールを55.7%が利用している。検討中企業、興味あり企業も人事情報システムのダッシュボード機能や計算ツールを同程度の水準で利用している。実施企業の方が、統計分析ソフトやBI(BusinessIntelligence)ソフトを整備する割合が高い傾向が見られた。


図表3 人事関連情報のデジタル化の状況
図表1

  1. (資料)みずほ情報総研「国内企業人事部におけるピープルアナリティクス実態調査」(2019年12月)
  2. (備考)職務経歴情報とは、部署名、職務内容の変遷、異動情報等。個人意向情報とは、社員満足度、エンゲージメント調 査の結果等。健康情報とは、健康診断やストレスチェックの結果等。コミュニケーションに関わる情報とは、メー ルや社内SNS のログ等。私生活とは、趣味・嗜好・特技等。
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