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社会動向レポート

職場における化学物質管理に関する国内外の動向(1/3)

環境エネルギー第2部 コンサルタント 後藤 嘉孝

近年、国内外では職場における化学物質管理のためのさまざまな制度や支援ツールが展開されている。本稿では、国内外の職場における化学物質のリスクアセスメントの支援ツールの現状や特徴を概観するとともに、欧州おける緊急時(中毒等)における化学物質の取扱い方法等に関する新たな届出制度(緊急の健康対応に関係する調和化された情報に関する付属書VIIIの追加)の概要と今後を展望する。

はじめに

我が国において、2016年7月1日より改正労働安全衛生法(以下、「安衛法」という。)が施行され、一定のリスクがある化学物質について、事業者に危険性又は有害性等の調査(以下、「リスクアセスメント」という。)が義務付けられた。

事業者は、一定の危険有害性を持つ化学物質(ラベル・SDS*1交付義務対象673物質)について、業種や規模、取扱い状況を問わず、リスクアセスメントを実施しなければならない。そのため、各事業場はそれぞれ工夫をしながらリスクアセスメントを進めつつある状況にある。一方で、厚生労働省はリスクアセスメントの普及・促進のために、より効率的・効果的にリスクアセスメントが実施できる支援ツールを順次提供している。

また、欧州においては、欧州における化学物質の総合的な制度であるREACH(化学品の登録、評価、認可及び制限に関する規則)におけるリスクアセスメント実施のために、各種リスクアセスメント支援ツールが開発・改良されているほか、欧州における化学品の分類、ラベル表示、包装・梱包に関する規則(CLP規則)*2において、化学物質の取扱いにおける緊急時の対応に向けた製品(混合物)の新たな届出制度が2021年より開始される。

本稿では、厚生労働省委託事業において当社で開発した化学物質のリスクアセスメントツールを中心に、各種リスクアセスメントツールの特徴及び使い方について述べるほか、CLP規則に基づき取組みが進められている中毒センター*3への届出制度の概要を紹介する。

1. 国内外における化学物質のリスクアセスメント支援ツールの状況

厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成27年9月18日付け公示第3号)(以下、「指針」という。)」においては、様々な化学物質のリスクアセスメントの方法が示されており、化学物質の実際の気中濃度を測定し、リスクを見積もる実測法やソフトウェアによってリスクを見積もる推定法が挙げられている。

このうち、推定法のツールの一つとして、新たに2017年3月に登場したのが「CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)」である。

また、諸外国においては、REACH登録の標準ツールとしてREACH CSAガイダンスに記載されている、ECETOC TRA、STOFFENMANAGERなどがよく用いられている。

それぞれの特徴の比較は図表1の通りであり、いずれのツールもほぼ同様の入力項目が網羅されているため、事業者の状況に併せて適切なツールを選択できる。特にCREATE-SIMPLEでは化学物質の有害性情報・性状等の自動入力機能が備わっており、事業者の情報収集の負荷を軽減する機能が備わっている。

一方、事業者がこれらの推定ツールを用いる場合、その「精度」がどの程度あるのかが重要となる。そこで、実測値データがある図表2の条件でばく露の推定を行い、実測値と比較を行った。比較結果は図表3の通り。

図表3の結果より、実測値は同じ作業であっても「いつ測定をするか」、「誰を測定をするか」によって最大約3倍程度の濃度のばらつきが出る可能性*4があるため、いずれのツールについても推定値は、実測値の濃度のばらつきの範囲に含まれている(=実測値に近い結果)と解釈できる。よって、これらの推定ツールを用いることによって、簡単かつ精度よく、ばく露の情報を得ることができると言える。


図表1 国内外における化学物質のリスクアセスメント支援ツールの特徴比較
図表1

  1. (資料)みずほ情報総研作成

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07_3.htm
http://www.ecetoc.org/tools/targeted-risk-assessment-tra/
https://stoffenmanager.com/


図表2 実測を行った作業条件
図表2

  1. (資料)村井政志、馬場左起子「実験室等の有害物少量取扱い作業場におけるばく露評価のための各種気中濃度測定方法の活用─自律的管理のためのばく露濃度の推定─」労働安全衛生研究、Vol. 3, No.2, pp.129-136(2010年)における「表1各作業場のばく露作業の整理」より、作業条件を一部抜粋。

図表3 各ツールにおけるばく露の推定値及び実測値の比較結果
図表3

  1. (資料)村井政志、馬場左起子「実験室等の有害物少量取扱い作業場におけるばく露評価のための各種気中濃度測定方法の活用─自律的管理のためのばく露濃度の推定─」労働安全衛生研究、Vol. 3, No.2, pp.129-136(2010年)における「表2」及び「表3-1」におけるn─ヘキサンの個人サンプラーによる測定値。推定法の結果は、みずほ情報総研が各ツールを用いてばく露濃度を推定。実験条件の入力にあたって判断が必要な場合には、条件等に記載の条件で各ツールに入力した。

図表4 CREATE-SIMPLE のリスク判定の方法
図表4

  1. (資料)「CREATE-SIMPLE マニュアル」より抜粋
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