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技術動向レポート

UPACSを活用したターボ機械分野向け流体解析システム開発(1/2)

情報通信研究部 シニアコンサルタント 松村 洋祐

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)が開発した流体解析ソフトウェアUPACSを基に、ターボ機械分野向け、特に遠心圧縮機を対象として、従来は解析が困難であった低流量域を含む広い作動範囲の性能を解析することを目的とした流体解析システムを、JAXAとみずほ情報総研が共同で開発した。

1.背景

機械と流体の間でエネルギーを変換する流体機械のうち、回転する翼列などを用いて連続的にエネルギー変換を行うものをターボ機械という。主なものとして、ジェットエンジン、ガスタービン、蒸気タービン、ファン、ポンプ、水車、風車などが挙げられ、幅広く利用されている。ターボ機械の一種である遠心圧縮機(1)は、コンパクトでありながら空気流量が大きく圧力比が高い。そのバランスの良さや作動範囲の広さから、石油精製プラント、化学プラント、天然ガスプラント、製鉄プラントなどの各種プラントや空気源、小型ガスタービン、ターボチャージャーなど、様々な機械の心臓部として利用されている。

ターボ機械メーカは、遠心圧縮機の設計において流体解析ソフトウェアを用い、一般性能(作動条件に対する出力や効率等)や圧縮機内部の流動パターン等をシミュレーションにより評価している。遠心圧縮機の大流量域の解析に関しては、従来の流体解析方法を用いる市販の流体解析ソフトウェアにより、ある程度良好な解析結果を得られるものの、低流量域で発生する流体振動現象(旋回失速(2)やサージ(3))については、その流動現象の複雑さから設計に充分に資する精度の解析結果を得ることが困難である。低流量域の振動現象は遠心圧縮機本体や管路系の疲労や破壊につながるため、ターボ機械メーカではシミュレーションによる充分な解析結果が得られない中、安全マージンを大きく取って頑丈な構造にする、作動範囲を狭める、などの対応を行っているのが現状である。この課題に対しては、複雑な流動現象を解析できるDES(4)などの最新の流体解析技術を活用することにより、遠心圧縮機性能のより正確な予測と低流量域における振動現象の解明に期待がかけられている。

また、一般的に市販の流体解析ソフトウェアについては、使用する計算機が企業内の小規模なPCクラスタに限定され、解析規模に応じて増大するライセンス費用の制約もあり、大規模解析や多ケース解析が困難である。また、ソフトウェア内部での処理の詳細が明らかではなくブラックボックス化する傾向があり、解析結果の解釈が難しいなどの問題点もある。

これらの課題解決に対する機械産業分野でのニーズを踏まえ、航空機、航空用ジェットエンジン、ロケットの研究開発用にJAXAが開発した流体解析ソフトウェアUPACS(5)を基に、ターボ機械分野向け、特に遠心圧縮機を対象とした流体解析システムをJAXAと共同で開発した。UPACSは、世界でも有数の研究機関であるJAXAが最新・最先端の研究成果を取り込んで開発した、スーパーコンピュータでの大規模解析の実績を有する流体解析ソフトウェアである。 なお、本共同開発は、JAXA産業振興に資する共同研究制度に基づき行った「流体解析ソフトウェアUPACSを活用したターボ機械分野向け流体解析システム開発」(実施年度:2017~2019年度)により、みずほ情報総研とJAXAが共同で実施したものである。

2.開発項目

本開発では、市販流体解析ソフトウェアでは解析が困難な、遠心圧縮機の低流量域を含む広い作動範囲の性能を解析できる流体解析ソフトウェアを開発することを目的とした。

具体的には、UPACSのCFDソルバーに関して、(1)境界条件の改良や(2)遠心圧縮機への適用に際する解析ノウハウの蓄積を行った。さらに、(3)UPACSに含まれる格子生成ツールMBGG(6)、modifyGrid(7)を活用した遠心圧縮機用格子生成の技術課題の解決を行った。また、(4)チュートリアルデータの作成等のパッケージ整備を行った。

開発した流体解析システムを用い、(5)遠心圧縮機の性能予測と(6)並列効率の評価を行った。

3.成果

(1)CFDソルバーの境界条件の改良

ターボ機械内部流れ解析で多用される流量指定境界条件を使用する際、数値的な振動が起きる場合があるため、対策を行った。

流量を物理的境界条件として与え、それと圧縮性流体力学の「特性の方法」を組み合わせて、流出境界面の物理量を求める。ただし、流出境界面では音波が完全に反射されるため、流れ場が振動しやすくなる。そこで、境界面上の流束を、境界面より内部領域の流束で緩和させることで振動を抑制した。

改良した境界条件計算法を単純形状(Bump、単独翼)に適用しその効果を確認した。また、後述するように、遠心圧縮機に対しても適用し、性能曲線の右上がり特性が再現できることを確認した。


図表1 流量指定境界条件の改良の効果
図表1

  1. (資料)みずほ情報総研作成

(2)遠心圧縮機への適用に際する解析ノウハウの蓄積

ターボ機械内部流れ解析において乱流渦による損失を正しく評価するためには、瞬時流れ場で乱流渦を解像できる必要がある。しかし、従来行われていたRANS解析のみならず、Roeスキーム(8)によるDES解析でも、乱流渦を解像することができていなかった。

そこで、SLAUスキーム(9)について回転系への対応を行い、DESによる遠心圧縮機の非定常乱流解析を実施した。これにより、瞬時流れ場での乱流渦を解像できることを確認した。


図表2 解法によるエントロピー分布の解像度の違い
図表2

  1. (資料)みずほ情報総研作成
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