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社会動向レポート

今後拡大が見込まれるエリアエネルギーマネジメントビジネス(1/2)

コンサルティング第2部 上席主任コンサルタント 小林 賢司

再生可能エネルギー大量導入を前提に、電力ネットワークの再構築が想定される。本論では、その方向性と、今後拡大が見込まれるエリアエネルギーマネジメントビジネスのビジネスモデルの在り方について検討した。

1.再生可能エネルギー大量導入時代に向けて電力ネットワークは「分散型」に

日本のエネルギー政策は、安全性(Safety)を前提としながら、自給率(Energy Security)・経済効率性(Economic Efficiency)・環境適合(Environment)を同時に達成することが基本方針となっており(3E+S)、この方針のもと火力発電や原子力発電をベースに、大規模な集中型電源から需要地に向けて電力を送る「大規模集中型」の電力ネットワークを構築・維持してきた。しかし、現在この電源構成や電力ネットワークを抜本的に見直す必要に迫られている。その理由は大きく3つある。

第1は、原子力発電の取扱である。これまでベースロード電源として活用されていた原子力については、東日本大震災における福島第一原子力発電所事故を踏まえ、大多数の電源が長期間停止しており、その利活用について様々な観点から見直しを迫られている。

第2は、サステナビリティ対応である。2020年10月に菅首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、実現に向けた動きが官民問わず本格化しているが、カーボンニュートラルの観点での一番の課題は、国内最大のCO2排出源で全体の40%以上を占める火力発電の問題である。

火力発電は化石燃料を利用するため、CO2排出量が多い。この問題を抜本的に解決するには、CO2排出量を抑えられる代替電源に切り替えるしかなく、2021年7月のエネルギー基本計画(素案)では、再生可能エネルギー由来の電力の割合を36~38%にする(2030年度目標値、2018年度は17%)こと*1が示された。CO2排出量が多い火力発電や、一部原子力発電の代替電源として再生可能エネルギーを活用する方針で、今後再生可能エネルギー大量導入時代の到来が予想される。

第3は、送配電インフラ・電力系統の問題である。電気は、需要=電力利用量と供給=発電量のバランスが崩れると、周波数に乱れが生じ、最悪の場合は大規模停電につながるため、需給バランスの調整が非常に重要である。現在の電力ネットワークは、その観点で効率性と安定性を追求した結果、需給管理は地方エリア(北海道、東北、東京、北陸、中部、関西、中国、四国、九州、沖縄)単位で行い、需要地から離れた場所に大規模電源を設置して電力を送る仕組みとして最適化されている。再生可能エネルギーは、天候等に応じて短期的に出力が変動する電源のため、現在の電力ネットワークに接続される再生可能エネルギー電源が増えると、地方エリア内での需給調整が難しくなり、現在の電力供給の仕組みに様々な課題(系統制約)が生じる。例えば、地方エリア内で需要を超過した電力をネットワークの構造上他エリアに送れない等もあるが、非常に大きな課題は、電力供給量に対する送電キャパシティ不足と、再生可能エネルギーの変動調整対応である。その解決策として集中型電源から需要地に向けて託送する「大規模集中型」電力ネットワーク中心の送配電インフラから、地方エリアよりも小さいエリア単位で需要地の近くに必要な発電設備を用意する「分散型」電力ネットワークを併用する議論が活発化し、実証等も進んでいる*2

2.電力ネットワーク以外の地域のインフラやサービスも再構築される気運

再生可能エネルギー大量導入時代に備え、電力ネットワークで「分散型」併用に向けた動きが進む中、今回の新型コロナショックにより社会・経済活動に様々な変化が生じている。

具体的には、新型コロナウイルス感染拡大を受けてリモートワークが広く浸透し始めた結果、都心オフィスへの通勤圏内に居住する必要性が薄れ、普段は都心郊外や地方でリモートワークをし、必要な時に都心のオフィスに出社するといった二拠点居住への関心の高まり*3や具体的な動きがみられるようになった。また、新型コロナショックを受けて業務の見直し等を行った企業では、本社機能を地方へ移転させる動きも現れている。

こうした新型コロナショックによる変化は、これまで大都市に居住していた人々を郊外・地方へ向かわせる「分散化」を生じさせており、今後はこの動きを前提としたまちづくりが進み、地域のインフラやサービスも再構築される可能性が高い。

前述の電力ネットワークで「分散型」併用に向けた動きは、奇しくもこの動きと親和性が高く、「分散化」を踏まえた地域のインフラやサービスの再構築として位置付けられることで、その動きは加速されるだろう。


図表1 将来の電力ネットワークのイメージ
図表1

  1. (資料)各種資料よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

3.「分散型」電力ネットワークの拡大が、新たな電力供給のあり方の礎に

「分散型」電力ネットワークを導入する最大の効用は、再生可能エネルギー電源をより小さなエリアで無駄なく活用し、「大規模集中型」電力ネットワークの需給調整から切り離すことで、地方エリア全体での需給調整を容易にすることである。「分散型」電力ネットワークが活用されれば、非常時のリスク分散、エネルギーの地産地消による送電ロスの抑制、経済合理的なエネルギー需給システムの構築、地域での雇用創出等メリットも多く享受できるだろう。

一方、大前提として従来よりも小規模なネットワークの中で、不安定な再生可能エネルギー電源を十分にコントロールできる仕組みが重要であることは言うまでもない。地域内の家庭・ビル・工場・病院等にある「再生可能エネルギー電源」や余剰電力を蓄える「蓄電池」、当該エリア内の需給調整を担う「需給調整システム」等、エリアで面的に行われるエネルギーマネジメントが重要となろう。

このエネルギーマネジメントの核となるのが、地域の「再生可能エネルギー電源」や「蓄電池」を遠隔制御し、エリア内の電力需給をマッチングさせる「需給調整システム」である。

「需給調整システム」は、①エリアでのエネルギーマネジメントに先行して普及が進むBEMS(Building Energy Management System)やFEMS(Factory Energy Management System)、HEMS(House Energy Management System)のような個別需要家単位で需給調整を行うシステム、②一定エリアで個別需要家間の需給調整を担うシステム、③系統連携も踏まえてエリア全体の需給調整を担うシステムの3種類に分類される。

このうち、エリアエネルギーマネジメントで特に重要となる②のシステムを扱う事業者を「リソースアグリゲーター」(以下、「RA」)、③のシステムを扱う事業者を「アグリゲーションコーディネーター」(以下、「AC」)と呼ぶが、例えば、資源エネルギー庁「令和2年度バーチャルパワープラント構築実証事業」の「VPPアグリゲーション事業」では、既存の電力事業者や周辺事業者のほか、新規参入事業者を含めた多くの企業がRA(68社)、AC(13社)として参画しており、企業の関心の高さがうかがえる。

「蓄電池」は、ネットワーク内で電力が余ったときには蓄電し、不足したときには放電することで、ネットワーク内での電力の調整弁としての役割を担う。近年は、従来の固定型蓄電池に加え、電気自動車(EV)活用にも注目が集まっている。電気自動車(EV)は、家庭で接続して固定型蓄電池と同様に利用するほか、動く蓄電池としての利用も想定される。例えば、自宅に太陽光パネルを持つ電気自動車(EV)オーナーが、余剰電力を電気自動車(EV)に蓄電し、離れた大口需要家まで移動して電気自動車(EV)から直接給電するという利用方法が考えられる*4。これにより、ネットワーク内の新たな電力線投資を抑制する効果も期待される。

このように「需給調整システム」について多くの企業が関心を示している。前掲実証の事業費補助金の採択結果から「需給調整システム」の運用を担うプレイヤーを示すと図表2のとおりであるが、その他蓄電池メーカーやシステムインテグレーターの参入も見込まれるだろう。再生可能エネルギー大量導入に必要な「分散型」電力ネットワークでは、これを適切にマネジメントするエリアエネルギーマネジメントが重要であり、既存電力会社系のほか、新電力やガス事業者、大手商社や通信事業者、小売事業者等、多くの新規参入が見られる。エリアエネルギーマネジメントビジネスは、「分散型」電力ネットワークの拡大に合わせて成長が見込まれる今後注目の分野と言えよう。


図表2 「需給調整システム」の運用を担うプレイヤー例
図表2

  1. (資料)一般社団法人環境共創イニシアチブ「令和2年度需要家側エネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラント構築実証事業費補助金採択結果について」(2020年6月12日)よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成
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