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社会動向レポート

化学物質PFAS の規制の広がりと欧米企業の対応の最前線

グリーン・ケミストリー推進に向けた戦略のあり方(3/5)

環境エネルギー第2部
主任コンサルタント 後藤 嘉孝
コンサルタント 庭野 諒
主任コンサルタント 秋山 雄
コンサルタント 関 理貴
コンサルタント 佐々木 佑真

5.企業におけるリスク

4.で述べた規制強化に加え、今後企業がPFASを扱うことによる経営上のリスクは多数存在する。具体的には、①訴訟、②消費者運動・不買運動、③取引停止である(図表8)。

またPFASの難分解性という特徴から、今後は上記に加え④PFAS含有製品の廃棄も課題になると考えられる。またESG投資の観点で投資家からの関心も高く、今後はPFASへの対処が求められる可能性もある。

ここでは、①訴訟、②消費者運動・不買運動、③取引停止及び④PFAS含有製品の廃棄のリスクについて詳細を説明する(図表9)。


図表8 PFASを取り扱う場合における経営上のリスク
図表8

  1. (資料)みずほリサーチ&テクノロジーズが作成

図表9 PFASによる経営上のリスクが顕在化した例
図表9


(1)訴訟(川上~川下企業)

DuPontや3Mといった主要なPFAS製造業者は近年米国を中心に、多くの集団訴訟を受けている。

2017年には、DuPont及びその元子会社であるChemoursは、米ウェストヴァージニア州の工場から河川に流出したPFASにより健康被害を受けたとする約3,500件の訴訟に対して、約6億7千万ドルの和解金を支払うと発表した*17

また2019年には、3Mは、公共浄水施設におけるPFAS除去費用として、アラバマ州にある水道事業者に約3千5百万ドルを支払うことに合意したと発表した*18

さらに、PFASメーカーだけでなく、PFASを使用した製品メーカーや、それらを販売する小売企業に対する訴訟事例も近年みられる。

例えば、米大手消費財メーカーのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は2019年、自社が製造する歯間フロスに対する集団訴訟を受けた*19。原告の主張は、PFASの健康リスクを前提とした消費者保護法に基づくものである(ただし、本訴訟ではPFASによる健康リスクは証明されず、訴訟は棄却された)。

さらに、訴訟事例は消費者の健康上のリスクに関連するものに留まらない。米通販大手アマゾン(Amazon)は2020年、“compostable(堆肥可能)”というラベルが表示された使い捨て食器を購入した消費者から集団訴訟を受けた。原告はこのラベルに対して、本商品中にはPFASを含有しており、その難分解性から虚偽にあたると主張している*20

このように、製品中へのPFASの使用は、消費者の健康面及び環境面(環境残留性や生態蓄積性)の両面から、企業の訴訟リスクとなっている。

(2)消費者運動・不買運動(川下企業、小売企業)

最終製品メーカーや小売企業において、環境NGO・NPOによる製品中のPFAS含有分析結果の公表をきっかけに消費者運動が発生し、対応に迫られるケースが近年多々みられる。

2020年8月には、米NGO・NPO団体がレポート「Packaged in Pollution: Are food chainsusing PFAS in packaging?」*21において、米マクドナルド(McDonald’s)が使用する食品包装中のPFAS含有可能性を公表した。それ以来、全米70,000人以上の消費者が米マクドナルドCEOに対する食品包装中のPFAS使用禁止を求める請願書に署名し、さらに2020年11月には、米発達障害協会アーク(The Arc)及び20以上の発達障害者の支援団体が食品包装におけるPFAS使用の禁止を呼びかけた。こうした消費者の懸念を踏まえ、投資家は2020年12月、食品包装中の懸念物質への対処行動を開示するよう求める株主決議を提出するに至った。

この消費者運動のきっかけとなったレポート「Packaged in Pollution: Are food chains using PFAS in packaging?」では、米マクドナルドに加え、米大手ファストフードチェーン2社、米大手健康食品チェーン3社の食品包装の分析結果及びPFAS含有可能性が示されており、各社同様に対応に迫られている。

さらに、最終製品メーカーや小売企業への同様の動きは上述以外に複数存在する。レポート「Take out toxics-PFAS chemicals in food packaging-*22」では米大手スーパーマーケットチェーン5社、レポート「Testing Carpet for Toxics: Chemicals affecting human health and hindering the circular economy*23」では米大手カーペットメーカー6社の製品分析結果及びPFAS含有可能性が示されている。

(3)取引停止(川上~川中企業)

上述した流れの中で近年、米国の川下企業及び小売企業の一部は、数年以内に製品中へのPFASの使用及び含有を禁止することを掲げている(詳細は、6.で説明)。今後は、PFASへの対応を実施しない川上~川中企業は、取引停止という形でサプライチェーンから排除される可能性がある。

例えば、米アマゾン(Amazon)は化学物質ポリシーにおいて、食品接触材料制限物質リスト(RSL)にPFAS全てを追加し、Amazon Kitchenブランドに使用される食品包装材料への意図的な使用を禁止している*24。同様に、米アップル(Apple)も規制物質リストにPFASを追加し、サプライヤーへ本リストに記載のある化学物質の使用を削減又は排除するよう要求し、さらに物質ごとに定められたしきい値以上含有する場合は、報告することを義務付けている*25

(4)PFAS含有製品の廃棄上の課題(川上~川下企業)

PFAS はその難分解性から、廃棄上の課題となる可能性がある。

米ニューヨーク州の焼却施設でのPFAS漏洩事故は、PFASの廃棄の難しさがよくわかる例である。2018年及び2019年に、米国国防総省(DoD)から送られたPFASを含有した泡消火剤の未使用在庫の処分が実施された。この際、焼却温度が十分に高温でなかったために多くのPFASが分解されず、自然環境中に放出された。2020年4月に実施された環境サンプリングでは、焼却施設周辺の土壌及び地表水から高濃度のPFASが検出されている*26。このように、PFASを完全に分解することは容易ではない。

2019年5月にEUで採択されたプラスチック製品規制では、消費者が使用したプラスチック製品・容器包装に対する廃棄、回収、リサイクルも生産者が責任を負うという拡大生産者責任の考え方が採用されている。将来的には、PFASをはじめとする懸念物質にも拡大生産者責任が適用される可能性もある。このようにPFASに対する規制や社会的評価が厳しくなった際は、PFASを扱う全ての事業者において、その廃棄が企業経営の大きなコストや負担となる可能性が考えられる。

6.PFAS代替に向けた企業の動き

これまで述べたように、サプライチェーン川上~川下まで全ての企業において、PFASを扱うことは経営上のリスクとなり得る。特に米国ではこのリスクが既に顕在化しており、川下企業、小売企業を中心にPFAS代替を中心とした対応が始まっている。図表10に先進的に取組を進めている企業の動きを紹介する。


図表10 PFAS代替に向けた企業の動き
図表10

  1. (資料)各社プレスリリースより、みずほリサーチ&テクノロジーズが作成
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