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社会動向レポート

化学物質PFAS の規制の広がりと欧米企業の対応の最前線

グリーン・ケミストリー推進に向けた戦略のあり方(4/5)

環境エネルギー第2部
主任コンサルタント 後藤 嘉孝
コンサルタント 庭野 諒
主任コンサルタント 秋山 雄
コンサルタント 関 理貴
コンサルタント 佐々木 佑真

7.有害物質の代替戦略策定のポイント

米国EPAでは、〈グリーン・ケミストリー12か条〉が公表(図表11)されており、以下の要素を考慮することが重要である。

物質の代替時において、特に③、④、⑩のポイントを意識しながら、よりヒトや環境に有害な物質を選択しないようにする必要がある。以降では、2021年に発効されたOECD ガイダンス「Guidance on Key Considerations for the Identification and Selection of Safer Chemical Alternatives*27」のポイント(図表12、13)に留意しながら、代替物質選択を行う方法について記載する。


図表11 グリーン・ケミストリー12か条
図表11

  1. (資料)米国環境保護庁(EPA)資料より、みずほリサーチ&テクノロジーズが仮訳

図表12 代替物質の選択フロー
図表12

  1. (資料)OECDガイダンスをもとに、みずほリサーチ&テクノロジーズが作成

図表13 代替戦略策定の流れ
図表13

  1. (資料)OECDガイダンスをもとに、みずほリサーチ&テクノロジーズが作成

(1)評価範囲及び戦略の策定

まず海外の事例も参考に企業におけるリスク(5.企業におけるリスクを参照)を考慮し、今後代替品の検討が必要となる自社製品をリストアップする。その上で、今後規制が見込まれる物質(PFAS等)がどの自社製品に含まれているかを確認する。こうした懸念物質の含有状況に加え、対象製品の売り上げやサプライチェーンからの要求等を踏まえた各社の優先度を考慮し、代替すべき製品を決定する。その際、それら製品において当該化学物質を使い続ける必要性(エッセンシャルユース)を考慮する。

例えば、PFASのエッセンシャルユースの例として、衣服に撥水撥油性を付与するためのPFASの使用が挙げられる。撥水性を提供する代替物が利用可能であるが、撥油性に関するPFASと同じ性能を有する代替物質が現時点では存在しない。このためEUでは、一部の労働者の保護衣の機能として撥油性が必要不可欠な可能性があり、適切な代替品が利用可能になるまでPFASを使用することを認めるべきだとしている。

上述したように、どのような製品及び化学物質を評価範囲とするのかを明確にし、その上で評価に使用するための目標(例えばPFASの段階的廃止等)、原則、及び決定ルールを明確に文書化することが必要である。また、評価の範囲を決定する際には、工場、研究開発、環境安全部門等の幅広い社内関係者や、供給者、購入者、行政、研究者、NGO等の外部の利害関係者からのインプットを含めることが重要である。これらの意見を集約した上で、代替計画の検討・実施に必要なコストや調達の可否、サプライチェーン・株主からの要求、さらに市場動向を踏まえ、既存の選択肢に対する重大な懸念や、代替案で起こりうる潜在的なトレードオフを特定し、どのような選択肢が最も実行可能であるかを検討する必要がある。またその際、“残念な代替”(代替をしても人健康や環境へのリスクが変わらない又は逆に高まる代替)をもたらす可能性のある代替品の情報を収集し、そうした代替を防ぐことも重要となる。

(2)代替候補物質の選定

PFASの代替方法は、①同等の機能をもつ化学物質への代替、②同等の機能をもつPFAS不使用製品への代替、が挙げられる。

①同等の機能をもつ化学物質への代替に関して、PFAS代替物質の事例が公表(図表14)されている。

また米国EPAでは、Safer Choiceプログラムの中で、安全な化学成分リスト(Safer Chemical Ingredients List; SCIL)を公表している。リストには、現在約1,000物質がリスト化されており、代替物質の候補を選定することができる。

本プログラムは、2013年まで米国EPAが「Design for the Environment(以下、DfE)」として実施してきた。米国EPAがトップダウン的に実施しているアクションプラン(2009年から)、ワークプラン(2012年から)の中で、代替物質の評価が実施され、代替評価が必要と判断された物質、若しくは懸念される物質を含有する製品について、代替物質又は代替製品の評価・検討するプログラムを通じ評価された。

2013年に米国EPAの監察総監室(Office of Inspector General, OIG)がDfEプログラムに対して、DfE表示使用の管理や適合性評価の強化等を勧告する報告書を公表した。これを受けてEPAは「関連する化学物質の使用を削減し、有効的また効果的に人の健康と環境を保護すること」を達成するべく、有害化学物質の代替に関する促進を目的に「Safer Choice」のプログラムに移行した。この移行に伴い、安全な代替物質に対するラベル表示等もDfEラベルからSafer Choiceラベルへ変更となった(図表15)。

Safer Choiceラベルを取得するには、製品が厳格な基準に合格する必要がある。Safer Choiceのラベル選択基準を満たした製品についてEPAは毎年監査を実施し、基準を引き続き満たしていることを確認することで、ラベルの有効性が担保される仕組みとなっている。

②同等の機能をもつPFAS不使用製品への代替に関して、たとえば現在先進的にPFAS対応が進められている食品包装紙の代替製品例を紹介する。図表16はいずれもPFASの代わりにバイオポリマーコーティングを施した天然耐油紙である。


図表14 PFAS代替物質の例
図表14

  1. (資料)欧州化学物質庁(ECHA)資料*28をもとに、みずほリサーチ&テクノロジーズが作成

図表15 Safer Choiceラベル
図表15

  1. (資料)米国EPAホームページ

図表16 食品包装紙の代替製品例
図表16

  1. (資料)各種資料を参考にみずほリサーチ&テクノロジーズが作成

(3)代替物質の評価

代替物質の評価にあたっては、代替物質の有害性及び暴露の比較評価により、適切な代替物質の評価を行う。評価にあたっては、OECDが「OECD Substitution and AlternativesAssessment Tool Selector」として、代替物質評価に活用可能なツールを整理している。

①有害性比較評価

代替物質の評価にあたっては、代替物質の有害性及び暴露の比較評価により、適切な代替物質の評価を行う。評価にあたっては、OECDが「OECD Substitution and AlternativesAssessment Tool Selector」として、代替物質評価に活用可能なツールを整理している。

  1. 1)信頼できるリストを使用して、完全な危険有害性評価を実施する前に、問題のある代替案を検討から除外する。下記に代表的なリストを紹介するが、その他適切なリストを可能な限り用意することが望ましい。
    • POPs条約における環境残留性有機汚染物質のリスト
    • 世界保健機関国際がん研究機関(IARC)の発がん物質リスト 等
  2. 2)化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)等を使用して、特定の有害性項目を選択し、自社で決定した基準に該当する代替案を除外する。
    • 発がん性
    • 生殖細胞変異原性
    • 生殖発生毒性
    • PBT(難分解性、生態蓄積性、毒性を持つ物質)
    • vPvB(極めて環境残留性や生態蓄積性の高い物質)

      マーク

  3. 3)その他のサステナビリティに関する評価指標も考慮する(カーボンフットプリント、リサイクル等)

1)~3)の判断において、既存のデータに不足や不確実性があると、どの選択肢がより安全であるかについての決定が複雑になる可能性がある。代替案評価における重要な考慮事項は、残念な代替案の可能性を最小限に抑えることである。有害性の重要な証拠がある化学物質を、有害性が十分に理解されていない可能性のある化学物質に代替することを避けるべきである。

②暴露比較評価

ライフサイクルを通して暴露経路と合理的に予測可能な暴露シナリオを特定し、代替品の暴露可能性を比較する。上記の暴露データ又は関連する暴露経路の物理化学的特性を定性的に比較して、代替案がより大きな暴露、又はより少ない暴露をもたらす可能性があるかどうかを確認する。

③安全な代替案を選択するためのトレードオフの評価

危険有害性と暴露の結果を統合するために用いられる戦略を明確に文書化する。その上で、有害性及び暴露の比較結果を考慮して、代替物質候補を特定する。この際に、結果を比較する方法の1つとしてマトリックスによる比較等が用いられている。

トレードオフの評価において参考となる資料として、米国NRCは、適切な代替物質を選定するためのフレームワークとして「A Frameworkto Guide Selection of Chemical Alternatives」を公表している。本フレームワークにおいて、OECD Substitution and Alternatives Assessment Tool Selectorと同様に①有害性の評価、②暴露の評価、③受け入れ可能な代替案の比較というプロセスに基づいて実施することが提案されている。ケーススタディとして、難燃剤のデカブロモジフェニルエーテル(decaBDE)、医薬品グリタゾンの代替評価について評価例を解説している。

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