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社会動向レポート

在宅勤務下で身体運動はどれだけ減るか(3/5)

社会政策コンサルティング部 主任コンサルタント 村井 昂志

5.【分析2】在宅勤務日・出勤日・土日における時間帯ごとの移動状況の把握

(1)分析内容・手法

ここでは、「コロナショック」発生後の期間のうち、比較的感染状況が落ち着いていた③2020年10月のスマートフォンの位置データから、端末所有者の移動の速度と時間を算出し、これを日ごと・時間帯(1時間単位)ごとに集計し、「どのような日・時間帯に、どのような速度で移動しているのか」を把握した。また、これを「A:(平日の)推定在宅勤務の日」「B:(平日の)推定出勤の日」「C:(平日の)その他の日」「D:土曜日・日曜日」に区分して集計することで、集計された移動が、どのような生活行動に紐づいて行われたものなのかを類推する材料とした。

「ポイント型流動人口データ」には、スマートフォンに搭載されたGPSによる測位が行われるごとに記録される、緯度・経度と時刻(1分単位)の情報が含まれている。本稿では、【分析2】に先立って、【分析1】の対象である336人×28日間分のデータから、下記の方法で、「測位から次の測位までの時間と速度」を算出し、そこから「速度帯別の移動の積算時間」を求めた。この積算時間は、【分析2】に加え、【分析3】【分析4】でも使用した。

〈速度帯別の移動時間の積算方法〉

  1. (1)連続する2つの測位間の時刻の差を、測位間の「移動時間」とした。次に、この2つの測位の「緯度・経度から算出される測位間の直線距離」を移動時間で除して、測位間の「移動速度」を算出した。
    • 上記にあたり、測位精度が600mより大きい(精度が低い)測位は無効とした。また、同時刻に複数の測位データがある場合は、測位精度が最も小さい(精度が高い)ものを採用した。
  2. (2)(1)において、60分を超えて有効な測位がない測位間を、「無効時間」として集計から除外した。この結果、336名×7日間×4期間のうち、残った時間帯(以下、「有効時間」と表記)の割合は、図表7の通り。
  3. (3)有効時間における各測位間の移動時間を、速度帯別に積算した。移動速度帯は、【分析3】【分析4】で身体運動と関連付けた分析を行うことを勘案し、2km/h 未満、2~6km/h未満、6~15km/h未満、15km/h以上の4区分とした(図表8)。なお、身体運動の中でも、「スマートフォンを持ち運ばない形での運動」や「施設内で行う運動」は、把握できないことに注意を要する。
  4. (4)各速度帯の移動の積算時間を4つの速度帯の積算時間の合計で除して、当該速度帯の「移動時間割合」を算出した(すなわち、分母には「無効時間」を含まない)。

図表7 有効時間の割合
図表7

株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計


図表8 本稿で設定した移動速度帯の区分
図表8


上記のデータのうち、【分析2】では、下記の条件を満たす176人分の③2020年10月のデータを、集計対象とした。

  • 推定勤務先が板橋区外
  • ③2020年10月において、「平日」および「土曜日・日曜日」の両方の有効時間の割合が70%以上

この集計対象のデータを、「B:推定出勤の日」「C:土曜日・日曜日」に区分し、さらにそれぞれについて0時台、1時台、……、23時台の各時間帯の移動時間割合を算出し、その推移を見た。

なお、毎正時をまたぐ測位間は、前後の時間帯に分割して積算した(例…10時55分~11時03分の移動であれば、10時台に5分、11時台に3分を積算)。

(2)分析結果

上記の集計結果を、図表9に示す。

平日においては、7~8時台と17~19時台をピークとする形で2~6km/h未満、6~15km/h未満、15km/h以上の各速度帯が占める割合が高く(その分、静止(移動速度2km/h未満)が占める割合が低くなる)、二峰性の分布を描く結果となった。これは、朝夕の通勤移動が反映されたものと考えられる。

一方、平日のうち「推定在宅勤務の日」を取り出すと、「推定出勤の日」や「その他の日」に比べ、全時間帯的に2~6km/h未満、6~15km/h未満、15km/h以上の各速度帯での移動時間の割合が低く、静止している時間割合が高くなっている。

土曜日・日曜日においては、7~10時台にかけて、2km/h以上の速度帯が占める割合がなだらかに上昇し、18時台以降になだらかに低下する分布を描く。これは、特定の時間帯に移動が集中するのではなく、それぞれの端末所持者がめいめいの時間帯で外出している実態が反映されたものと考えられる。

以上から、在宅勤務の日においては、主に通勤移動がなくなることに伴い、徒歩・自転車等の身体運動を伴う移動時間時間が減っていると考えられる。


図表9 各時間帯における推定在宅勤務/ 推定出勤/ その他の別、速度帯別の移動時間の割合
図表9

株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計


6.【分析3】出勤日と在宅勤務日の「身体運動を伴う移動量」の違いの把握

(1)分析内容・手法

ここでは、「身体運動を伴う可能性が高い速度帯」である2~6km/h未満、および6~15km/h未満での移動を中心に、1日における移動時間の総量を集計し、「A:推定在宅勤務の日」「B:推定出勤の日」「D:土曜日・日曜日」の間で比較した。

鉄道等の公共交通による通勤者であれば、出勤の日には、鉄道利用の前後を中心に、歩行や自転車による移動が見込まれる。一方、在宅勤務の日には、通勤時間分を、散歩・徒歩による買い物・スポーツ等の他の活動に振り向けることで、出勤に伴う歩行・自転車利用による運動量の減を補う者が現れる可能性もある。本分析は、1日全体を見渡したうえで、「在宅勤務の日」「出勤の日」「土曜日・日曜日」の間で、身体運動を伴う移動時間に、どの程度の差があるのかについて、把握しようとしたものである。

分析に当たっては、下記の条件を満たす155人・延べ3,270日分のデータを、分析に使用した。

  • 推定勤務先が板橋区外
  • 各対象者の7日間×4期間のデータのうち、有効時間が70%(16時間48分)未満である日のデータを除外
  • 残った日に、「推定在宅勤務」「推定出勤」「土曜日・日曜日」の3種類がいずれも1日以上含まれている

分析に使用したデータの概要を、図表10に示す。


図表10 分析3で使用したデータの概要
図表10

*: p<0.05, **: p<0.01, ***: p<0.001
株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計


集計にあたっては、155人ごとに、「A:推定在宅勤務の日」「B:推定出勤の日」「D:土曜日・日曜日」のそれぞれにおける、「ほぼ静止(2km/h未満)」「2~6km/h未満」「6~15km/h未満」「15km/h以上」の移動時間割合をそれぞれ算出し、それぞれの速度帯における移動時間割合の平均値を、A・B・D間で比較するとともに、対応関係のあるt検定を用いた有意差の検定を行った。

なお、移動時間割合の算出にあたっての分母には、無効時間を含めていない。したがって、4つの速度帯の移動時間割合の合計は、100%となる。

(2)分析結果

分析結果を、図表11に示す。

「A:推定在宅勤務の日」「B:推定出勤の日」「D:土曜日・日曜日」のいずれについても、有効時間のうち、ほぼ静止している(移動速度が2km/h未満の)時間割合が90%程度以上であり、1日の大半を占めていた(「2km/h未満」×「割合」の欄)。


図表11 推定在宅勤務/ 推定出勤/ 土曜日・日曜日の別、速度帯別の1日における移動時間割合
図表11

*: p<0.05, **: p<0.01, ***: p<0.001
株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計


一方、各速度帯での移動時間割合を、「A:推定在宅勤務の日」「B:推定出勤の日」「D:土曜日・日曜日」の間で比較すると、ほぼ静止している(移動速度が2km/h未満の)時間割合は、「D:土曜日・日曜日」に比べて、「A:推定在宅勤務の日」において有意に高く、「B:推定出勤の日」において有意に低かった(いずれもp<0.001、「2km/h未満」×「割合」の欄)。すなわち、「B:推定出勤の日」<「D:土曜日・日曜日」<「A:推定在宅勤務の日」とっていた。

逆に、「2~6km/h未満」「6~15km/h未満」「15km/h以上」のそれぞれの移動時間割合は、「D:土曜日・日曜日」に比べて、「A:推定在宅勤務の日」において有意に低く、「B:推定出勤の日」において有意に高かった(いずれもp<0.001)。すなわち、「B:推定出勤の日」>「D:土曜日・日曜日」>「A:推定在宅勤務の日」となっていた(「2-6km/h未満」、「6-15km/h未満」、「15km/h以上」の欄)。

このうち、「A:推定在宅勤務の日」と「B:推定出勤の日」との間で、身体運動を伴う移動である可能性が高い「2~6km/h未満」と「6~15km/h未満」の移動時間を比べると、「A:推定在宅勤務の日」の方が、「2~6km/h未満」での移動時間割合において1.63ポイント(A:1.85%とB:3.48%、1日換算で23.5分相当の差)少なく、「6~15km/h未満」での移動時間割合において1.27ポイント(A:0.83%とB:2.11%、1日換算で18.4分相当の差)少なくなっていた(「2-6km/h未満」、「6-15km/h未満」の欄)。

【分析2】からは、在宅勤務の日において、主に通勤移動がなくなることに伴い、徒歩・自転車等の身体運動を伴う移動時間時間が減っていると考えられるという分析結果を得たが、本分析においても、1日全体を合計した際に、推定在宅勤務の日において、推定出勤の日(および土曜日・日曜日)と比べて、徒歩・自転車等の身体運動を伴う移動時間が減っているとの結果を得た。

スマートフォンの位置データを用いる本分析では、「スマートフォンを自宅等に置いてのジョギング・ランニング」あるいは「体育館・グラウンド等でのスポーツ」等に伴う身体運動は、十分に把握することができないため、実際には、在宅勤務日における身体運動は、必ずしも少なくなっていない可能性もある。そのため、本分析から得られる示唆としては、(板橋区在住の通勤者にとって)在宅勤務日において出勤日と同程度の身体運動量を確保しようとする場合、「20分強の歩行+20分弱のジョギング・自転車」に相当する運動を、意識的に行うことが目安となる、というものであると考えられる。

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