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社会動向レポート

在宅勤務下で身体運動はどれだけ減るか(4/5)

社会政策コンサルティング部 主任コンサルタント 村井 昂志

7.【分析4】 1週間を通じた「身体運動を伴う移動量」の変化の把握

(1)分析の内容・手法

ここでは、「身体運動を伴う移動である可能性が高い速度帯」である2~6km/h未満、および6~15km/h未満での移動について、①2019年10月・②2020年7月・③10月・④12月の4期間における、1週間全体の移動時間の変化をみた。

【分析3】では、在宅勤務の日には、出勤の日(および土曜日・日曜日)と比べて、2~6km/h未満や6~15km/h未満の移動時間が減っているとの結果を得た。一方で、1週間全体を見渡した場合、「コロナショック」後に在宅勤務の日数を増やした勤労者が、出勤日や土曜日・日曜日に、「コロナショック」以前よりも(鉄道を手前の駅で降車して徒歩を増やす、休日に運動時間をとる等の取組によって)身体運動を伴う移動を増やすことで、在宅勤務日の運動量の減を補う者がいる可能性が残されている。

本分析は、「コロナショック」前後で、1週間全体の身体運動を伴う移動時間が、「在宅勤務日が増えた者」「そうでない者」のそれぞれについて、どの程度の変化が生じたかや、両者に変化の違いがあるかについて、把握しようとしたものである。

分析に当たっては、下記の条件を満たす173人・延べ4,414日分のデータを、分析に使用した。

  • 各対象者の7日間×4期間のデータのうち、有効時間が70%(16時間48分)未満である日のデータを除外
  • 残った日に、①2019年10月・②2020年7月・③10月・④12月の4期間の全てにおいて、「平日」と「土曜日・日曜日」の両方が1日以上含まれている

さらに、「在宅勤務日が増えた者」「そうでない者」を区分するために、この173人のうち、推定勤務地が板橋区以外である153人を、「①2019年10月」の推定在宅勤務の日数と比べて、「②2020年7月・③10月・④12月の3期間」の推定在宅勤務の平均日数が、「α:変化なし又は減少した者」「β:2.0日/週以下の増加があった者」「γ:2.0日/週を超える増加があった者」の3群に分割した。

分析に使用したデータの概要を、図表12に示す。


図表12 分析4で使用したデータの概要
図表12

株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計


集計にあたっては、173人ごとに、①~④の4期間それぞれの「平日」および「土曜日・日曜日」における、「ほぼ静止(2km/h未満)」「2~6km/h未満」「6~15km/h未満」「15km/h以上」の移動時間割合をそれぞれ算出し、次いで、各速度帯の1週間全体の移動時間割合を、

図表c

とした。

さらに、これらの各速度帯のうち、2~6km/h未満および6~15km/h未満の速度帯について、1週間全体の移動時間割合の各対象者群の平均値を算出し、これを①~④の4期間どうしで比較するとともに、対応関係のあるt検定を用いた有意差の検定を行った。

また、①2019年10月をベースラインとした②2020年7月・③10月・④12月の移動時間割合の変化幅について、ウェルチのt検定によって、α群・β群・γ群の間の比較を行った。

なお、移動時間割合の算出にあたっての分母には、無効時間を含めていない。したがって、4つの速度帯の移動時間割合の合計は、100%となる。

(2)分析結果

①1週間全体の移動時間割合の期間変化

γ群(=①2019年10月に比べ、②2020年7月・③10月・④12月の推定在宅勤務の3期平均日数が、2.0日/週を超えて増加した群)では、②2020年7月・③10月・④12月における2~6km/h未満および6~15km/h未満での移動時間割合が、いずれも①2019年10月を有意に下回った(いずれもp<0.001)(図表13、14、15)。

また、β群(=①2019年10月に比べ、②2020年7月・③10月・④12月の推定在宅勤務の3期平均日数の増加幅が2.0日/週以下の増加であった群)では、②2020年7月・③10月・④12月における6~15km/hでの移動時間割合が、いずれも①2019年10月を有意に下回るとともに(いずれもp<0.001)、③2020年10月・④12月における2~6km/h未満での移動時間割合も、①2019年10月を有意に下回った(p=0.047とp=0.033)(図表13、14、15)。

すなわち、「コロナショック」後に推定在宅勤務の日数が増えた群では、「コロナショック」前と比べて、「身体運動を伴う移動である可能性が高い速度帯」である「2~6km/h 未満」や「6~15km/h 未満」の移動時間割合が1週間全体でも減少しており、特に推定在宅勤務の日数の増え幅が大きいγ群において、それが顕著(7日間換算の移動時間が、2~6km/h 未満では2時間強の減、6~15km/h 未満では1時間強の減)であった(図表14および15の下段中、「γ:2.0日/ 週を超える増加」の欄)。


図表13 推定在宅勤務の日数の変化状況別 1週間全体の移動時間割合の推移
図表13

株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計


図表14 推定在宅勤務の日数の変化状況別 1週間全体の2~6km/h 未満の移動時間割合の変化
図表14

*: p<0.05, **: p<0.01, ***: p<0.001
株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計


図表15 推定在宅勤務の日数の変化状況別 1週間全体の6~15km/h 未満の移動時間割合の変化
図表15

*: p<0.05, **: p<0.01, ***: p<0.001
株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計


②在宅勤務の日数の増加状況による移動時間割合の変化幅の違い

「身体運動を伴う移動である可能性が高い速度帯」である2~6km/h未満、および6~15km/h未満での移動について、①2019年10月をベースラインとした際の、②2020年7月・③10月・④12月の移動時間割合の変化幅を、α群・β群・γ群の間で比較したものを、図表16、17に示す。

すると、γ群(=①2019年10月に比べ、②2020年7月・③10月・④12月の推定在宅勤務の3期平均日数が、2.0日/週を超えて増加した群)では、②・③・④の3期間全てについて、2~6km/h未満と6~15km/h未満の両方の速度帯の①2019年10月からの移動時間割合の減少幅が、α群(=①2019年10月に比べ、②2020年7月・③10月・④12月の推定在宅勤務の3期平均日数が、変わらないか減少した群)よりも有意に大きかった(図表16、17)。

また、β群(=①2019年10月に比べ、②2020年7月・③10月・④12月の推定在宅勤務の3期平均日数の増加幅が2.0日/週以下の増加であった群)では、②・③・④の3期間全てについて、6~15km/h未満の速度帯の①2019年10月からの移動時間割合の減少幅が、α群よりも有意に大きかった(図表17)。

【分析3】からは、1日全体を合計した際に、在宅勤務の日において、出勤の日(および土曜日・日曜日)と比べて、徒歩・自転車等の身体運動を伴う移動時間が減っているとの結果を得たが、本分析では、1週間全体をみても、「コロナショック」後に在宅勤務の日数が増えた勤労者は、身体運動を伴う移動である可能性の高い速度帯での移動時間が減る傾向にあることが確認された。

以上の結果から、新型コロナウイルス感染拡大後に在宅勤務の日数が増加した勤労者は、出勤日の減により、通勤移動等の日常生活に伴う身体運動量が減っている人が多く、また出勤日や土曜日・日曜日に、身体運動を伴う移動を増やして在宅勤務日の運動量の減を補う、といったことはできていないことが推察される。

本分析から得られる示唆としては、多くの在宅勤務者にとって、生活行動とは別に意識的な身体運動の時間をとらない限り、運動の量は顕著に減る恐れが高いこと、および(板橋区在住の通勤者にとって)在宅勤務日が週に2日以上増えた勤労者が、これまでと同程度の身体運動量を確保しようとする場合、1週間に、「2時間強の歩行+1時間強のジョギング・自転車」に相当する運動を、意識的に行うことが目安となることであると考えられる。


図表16 ①2019年10月を基準とした1週間全体における2~6km/h 未満の移動時間割合の変化幅
図表16

*: p<0.05, **: p<0.01, ***: p<0.001
株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計


図表17 ①2019年10月を基準とした1週間全体における6~15km/h 未満の移動時間割合の変化幅
図表17

*: p<0.05, **: p<0.01, ***: p<0.001
株式会社Agoop「Agoop 流動人口データ」より集計

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