ページの先頭です

技術動向レポート

液状化パラメータの最適化と洋上風力への適用へ向けて

液状化解析の現状とこれから(2/2)

サイエンスソリューション部 コンサルタント 室井 謙吾

4.今後の展望について

前節で液状化解析の現状について整理し、当該分野が液状化被害の実事例の再現解析により適用性が検証され、発展してきたこと、また液状化層の設定や適切なパラメータ設定などが液状化解析を難しくしていることを述べた。近年では、着床式洋上風力においても地盤の液状化検討は重要な課題であるが、具体的なモデル化手法や検討方法などは示されていない。以上を踏まえ、ここでは液状化パラメータの最適化や洋上風力への適用を例にとって今後の技術展望について考察してみる。

(1)液状化パラメータの最適化について

液状化解析の現状の節で述べたように、現在実務で広く用いられている解析ソフトでは技術者判断で液状化層を事前に設定しなければならず、あらかじめ想定した現象しか解析することができない(液状化パラメータを設定しなければ、液状化の挙動は解析できない)。さらに、FLIPのカクテルグラスモデルに代表されるように設定する液状化パラメータが非常に多く(17個)、パラメータとして物理的な意味を持たないものも存在する。一方、GEOASIAでは土の特性を踏まえて、構成モデルを統一的に表現することから、事前に地盤に何が起こるのかを想定する必要がないことは大きな利点である。FLIPやLIQCAなどで解析する場合においても、液状化層および液状化パラメータの設定が初めて有効応力法を実施してみる際の技術的な障壁である。また、パラメータについても液状化曲線のみをフィッティングさせるような解析モデルの設定をしていることから、既存の解析ケースのデータから機械学習により、液状化層の設定とパラメータ設定を行えないか検討することは非常に有益であると思われる。一方で、カクテルグラスモデルを利用した解析事例が少なく、適切な液状化パラメータを設定するための学習データを準備するのが課題であるなど問題点も残る。

(2)洋上風力への適用

洋上風力については欧米が先行しており、解析コードとしてFAST(Fatigue,Aerodynamics,Structures, and Turbulence;米国)やBladed(英国)などが挙げられる。これら欧米発の解析コードでは地震動(地盤の液状化などの非線形性)について考慮することができないが、「洋上風力発電設備に関する技術基準の統一的解説*9」などの国内の技術指針においては、地盤の液状化について検討することが記載されており、地震時の地盤応答解析を実施する際の手法としてFLIPを挙げている。しかし、具体的なモデル化手法については示されておらず、また着床式洋上風力の被災事例はほとんどないことから、模型実験を活用する以外で解析結果の妥当性を検証する手段がないという課題もある。着床式洋上風力の3つの構造形式としては、モノパイル・ジャケット・重力式がある(図表4)。FLIPでは、それぞれの構造形式ごとにモノパイルの大口径杭、ジャケット式のトラス構造や重力式の下部構造・基礎をモデル化した地盤-構造連成モデルへの適用の妥当性などの課題点はあるが、理論上は波浪荷重、風荷重、地震動など検討すべきすべての荷重について取り扱い可能であり、連成解析コードとしての応用も期待される。


図表4 着床式洋上風車の3つの構造形式
図表4

  1. (資料)国土交通省港湾局・環境省地球環境局「港湾における風力発電について―港湾の管理運営との共生のためのマニュアルver1」*10より引用

5.おわりに

本稿では、液状化の検討事項、液状化解析の現状を整理したうえで、液状化パラメータの最適化や洋上風力への適用を例にとって今後の展望について考察した。液状化解析は液状化が想定される層を土質試験の結果などから事前に想定しておく必要があり、解析結果として地盤に生じる現象そのものを求めるわけではなく、液状化の程度を求めることを目的とするなど種々の数値解析の中でも特異的であり、また適切な液状化パラメータの設定には非常に高度な技術が必要とされる。当社としても液状化解析の知見を増やしていくとともに、着床式洋上風力への風、波浪などとの連成解析の適用など、より高度な解析技術の発展に貢献していきたいと考えている。

参考文献

  1. 吉田望「液状化現象 メカニズムから数値解析まで」森北出版株式会社(2020年)
  2. Schnabel, P. B., Lysmer, J. and Seed, H. B.“SHAKE-A Computer Program for Earthquake Response Analysis of Horizontally Layered Sites”Report No.EERC72-12, University of California,Berkeley, 1972
  3. 一般社団法人FLIPコンソーシアムホームページ
  4. 公益社団法人日本港湾協会「港湾の施設の技術上の基準・同解説(上・中・下巻)平成30年5月」
  5. 森田年一、井合進ほか「液状化による構造物被害予測プログラムFLIPにおいて必要な各種パラメタの簡易設定法」港湾空港技術研究所 資料 0869、1997年
  6. 一般社団法人LIQCA液状化地盤研究所ホームページ
  7. 一般社団法人GEOASIA研究会ホームページ
  8. 野田利弘「地盤の変形・破壊に伴う加速度発生・伝播シミュレーション」第4回計算科学ユニット研究交流会「工学における計算科学の展開」(2012年)
  9. 洋上風力発電施設検討委員会「洋上風力発電設備に関する技術基準の統一的解説 令和2年3月版」(PDF/9.200KB)
  10. 国土交通省港湾局・環境省地球環境局「港湾における風力発電について―港湾の管理運営との共生のためのマニュアル―ver.1平成24年6月」(PDF/2.018KB)
  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
ページの先頭へ