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社会動向レポート

「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」から読む国民のメディア利用(1/4)

社会政策コンサルティング部 仁科 幸一


1990年代以降の情報環境の変化は劇的なものである。インターネットの普及、モバイル機器の普及と進化などこれらを細かく紹介すればきりがない。一方で、新聞、放送などの旧来メディアの苦戦を耳にする機会が多い。さらに、急速な技術革新が年代間のメディア利用の相違を拡大している。

これらの出来事に関するエピソードは豊富だが、意外なほど定量的に語られることは少ない。そこで本稿では、総務省情報通信政策研究所が毎年度実施している「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」をもとに、国民のメディアの利用や意識の変化を定量的に概観する。

1.はじめに

90年代以降の急速な情報環境の変化は国民のメディア利用に大きな影響を与えた。

筆者が就職した当時の最先端IT機器はワードプロセッサーとファクシミリ。官庁統計データを扱うときは集計用紙と電卓が必須アイテムであり、資料を探すときは図書館にこもるのが当たり前だった。現在では、インターネットに接続されたパソコンがなくては仕事にならず、コロナ禍によってリモート会議の打ち合わせも日常のこととなった。仕事以外でも、モバイル端末で連絡をとり動画を閲覧するのは日常のこと。一方で、電話での通話は公私ともにめっきり減った。文字通り、隔世の感がある。

米寿を迎えようとする筆者の母親は、「シルバーフォン」での通話がやっと。情報入手源は地上波テレビと新聞。’80年代で時はとまったままだ。大正生まれの高校の恩師は存命中、パソコンを使いこなしてインターネット検索、旧制高校の学友たちとのeメール交換を日常的に行っていた。現役高校生の筆者の娘は、目にもとまらぬ早業でスマートフォンをフリック入力で使いこなす。聞いたところでは、友人の中にパソコンを日常的に使う高校生は少数派で、キーボード入力ができない者も少なくないという。

高齢者は情報機器の技術革新や新しいソフトウェアにうとい傾向があるのは事実だが、筆者の恩師の様な例もある。高校生の多くがスマートフォンを体の一部のように使いこなすが、パソコンはほとんど使わない者が多い。メディア利用の変化に関するエピソードは身の回りにたくさんあるが、世の中全体ではどのような状況にあるのか。これらを定量的に概観することが本稿の目的である。

2.「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」の概要

「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」は、総務省情報通信政策研究所が2012(平成24)年度以降、毎年実施している調査。調査時期は年度によって多少異なるが、2017年度までは第3四半期、2018年度以降は第4四半期に実施されている。

調査事項は、①テレビ、新聞、ネットメディアの利用時間、②パソコン、スマートフォンなどの情報機器の保有・利用状況、主なウェブサイトやアプリケーションの利用状況、③従来型メディア(テレビや新聞など)やインターネット上のメディアに対する情報源としての信頼度や重要度に大別される。

調査対象者は全国の13~69歳の男女1,500人。年齢や地域分布を加味した対象者の無作為抽出がなされているので、一定の精度は確保されているとみていいだろう。ただし、クロス集計によって得られた人数が少ないカテゴリーでは特異値の影響が極端に出やすくなるので、結果の解釈には注意が必要である*1。また、調査事項はメディア環境の変化に応じて改訂が加えられているため、比較できる事項には制約がある。

これらの点をふまえて本稿では、カテゴリーの対象者数に注意しながら、「利用者率」を中心に経年比較が可能な事項に焦点をあてて分析する。

3.インターネット利用はどこまで普及したのか

(1)主要メディアの利用者率:意外に高い60歳代のインターネット利用者率

2020年度(最新調査結果)の主要メディアの利用者率をみてみよう。利用者率とは、調査日(平日)に当該メディアを利用した人数の割合である。(図表1)

全体(全年代)の利用者率をみると、インターネットは88%、テレビリアルタイム(テレビ放送をリアルタイムで視聴)(以下「テレビ」と表記)は82%、紙メディアの代表ともいえる新聞購読は26%。すでに現時点で、インターネットがテレビを上回っている。さらに、報道メディアの王者ともいうべき新聞は4分の1程度にとどまっている。この数字をどう受け止めるかはそれぞれだろうが、想像以上にインターネット利用が普及していることに筆者はおどろきを感じる。

これを年代別にみると、高年代になるにつれてインターネットの利用者率は下がり、テレビと新聞が上昇する。ここまでは常識どおりであるが、筆者が意外と感じたのは以下の3点である。

第1は、リタイアメントが多い60歳代でもインターネットの利用者率が7割を超えていることである。利用目的がeメールやラインなどシンプルなものだとしても、意外に普及しているといっていいだろう。

第2は、若年層のテレビ利用者率が想像以上に低いことである。40歳代以下ではインターネット利用者率を下回っており、10~20歳代にいたっては6割台にとどまっているのは、テレビはマスメディアの王者というイメージをもつ世代の筆者としては意外と感じる。

第3は新聞の利用者率の低さである。10歳代から30歳代は1割に届かず、40歳代以降は2割を超えるものの60歳代でも半数をわずかに超える水準にとどまっている。新聞は報道機関の王者というイメージをもつ世代の筆者にとっては、これも意外な結果である。


図表1 主要メディアの年代別利用者率(平日・2020年度)
図表1

  1. (注)「テレビリアルタイム」とは録画やネット配信によらないテレビ番組の視聴。
  1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成

(2)主要メディアの平均利用時間:30歳代以下ではテレビよりもインターネットの方が長い

次に2020年度(最新調査結果)の主要メディアの平均利用時間をみてみよう。ここでいう平均利用時間は、調査日(平日)に実際に当該メディアを利用した者の1日あたりの平均である。(図表2)

全体(全年代)の平均利用時間をみると、テレビ(テレビ放送をリアルタイムで視聴)は200分、僅差でインターネット192分、新聞は33分となっている。

年代別にみると、10~20歳代ではインターネットがテレビより長く、30~40歳代では両者の利用時間がほぼ均衡、50歳代以上でテレビ利用時間がインターネットを上回る。新聞は年代による差はそれほど大きくはない*2。60歳代でもインターネットの平均利用時間が2時間を超える点は注目していいだろう。


図表2 主要メディアの年代別平均利用時間(平日・2020年度)
図表2

  1. (注1)「テレビリアルタイム」とは録画やネット配信によらないテレビ番組の視聴。
  1. (注2)利用時間は、実際に当該メディアを利用した者の平均利用時間。
  1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成

(3)主要メディアの利用者率の推移:低下が顕著な新聞

次に主要メディアの利用者率の推移をみてみよう。(図表3)

2012年度に最も利用者率が高かったテレビは、徐々に下落し2020年度には82%と6ポイントの減になっている。これに対してインターネットは、2012年度の71%が2020年度に88%と17ポイントの上昇を示している。

ここで目を引くのが新聞の動向である。多少の浮き沈みはあるものの2012年度の40%が2020年度には26%と14ポイントも下落している。もちろん、ここでいう利用者率がリニアに販売部数に直結するわけではないが、コンスタントな下落傾向が新聞社経営に与える影響は小さくないだろう。


図表3 主要メディアの利用者率の推移(平日・全体)
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  • (注)「テレビリアルタイム」とは録画やネット配信によらないテレビ番組の視聴。
    1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成

    (4)主要メディアの平均利用時間の推移:テレビに迫るインターネット

    次に主要メディアの平均利用時間の推移をみてみよう。(図表4)

    テレビも新聞も変化はない一方で、インターネットは上昇基調にある。特に2020年度は前年度と比べて44分と過去のトレンドと比べて大幅な伸びをみせている。


    図表4 主要メディアの平均利用時間の推移(平日・全体)
    図表4

    1. (注1)「テレビリアルタイム」とは録画やネット配信によらないテレビ番組の視聴。
    2. (注2)利用時間は、実際に当該メディアを利用した者の平均利用時間。
    1. (資料)「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」総務省情報通信政策研究所より作成
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