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生体親和材料とペプチドの相互作用解析

背景及び目的

ナノ・バイオ境界領域では材料表面と生体分子間の相互作用解明が課題の一つとして挙げられますが、実験を中心とした研究が主流であり、シミュレーションを用いた解析は未だ多くは行われてはいません。これは主として計算対象となる系が巨大である事に起因しています。しかし、フラグメント分子軌道法を適用することで、巨大な系に対する電子状態レベルの解析をクラスタレベルの計算機を用いての実施が可能です。

解析事例

ここでは歯や骨の主成分として知られるハイドロキシアパタイト(HA)に対するFMO解析事例を紹介します。この解析ではHAとタンパク質との親和性の検討のため、HAとタンパク質の一部を切り出したペプチドのとの相互作用解析を行いました。HAに吸着させた生体分子はESQESなるアミノ酸5残基からなるペプチドです。古典分子動力学法を用いた構造サンプリングによって複数の吸着配位を生成し、FMO計算を実施しました。

成果及び今後の展望

FMO計算を実施することで、ペプチド末端のS5(セリン)が吸着に大きく寄与している事が分かりました。下図 (a) にはS5とHAや周辺水分子の間に働く相互作用を可視化しましたが、S5がHAを構成するリン酸イオン(PO43-)と強く相互作用している事が見て取れます。この強い引力相互作用には下図 (b)に示す通りHAとESQESの吸着による電荷移動が重要な役割を果たしている事が分かっています。この電荷移動による強い相互作用は、量子力学に立脚したFMO計算を行う事で新たに得られた知見です。

図1

HAへのペプチド吸着のFMO計算結果。(a) S5との相互作用の強さを濃淡(引力が強いほど赤が濃く、斥力が強いほど青が濃い)で表示(b) 電子の流出入の多さを濃淡で表示(電子の流入が多いほど赤が濃く、流出が多いほど青が濃い。水分子は非表示)。

参考文献

  1. [1]K. Kato, K. Fukuzawa and Y. Mochizuki, Chem. Phys. Lett., 629, 58(2015)
  2. [2]2015年プレスリリース:ナノバイオ界面での相互作用解析のための計算手法の開発
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