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電子デバイス材料のキャリア輸送特性解析

背景及び目的

微細化の限界に近づきつつあるといわれているシリコンに変わる新たな半導体材料(ポストシリコン半導体材料)の検討が活発に行われつつあります。例えば、Andre GeimとKonstantin Novoselovによる2010年ノーベル物理学賞の受賞理由となった単層グラフェンの作成により、グラフェンの電子デバイス応用への可能性が広がりました。

このような原子・分子スケールに特徴を持つ新奇材料の特性解析には、第一原理に基づく量子力学シミュレーションの活用が欠かせません。また、これらの新奇材料がデバイスの実装環境・稼働条件下で期待通りの特性を示すかについて、シミュレーションを活用した検討への期待が高まっています。ここでは例として、グラフェンを対象としたキャリア(電子・ホール)輸送特性解析をご紹介します。

解析対象と計算モデル

グラフェンは、高いキャリア移動度・許容電流密度・熱伝導率を持つこと、微細化に向けた極薄の材料であることがその特徴となっています。特に高いキャリア移動度と薄さを生かした高速動作トランジスタなどの電子デバイスへの応用が期待されます。このグラフェンの実装環境・稼働条件下での特性変化を、第一原理計算である密度汎関数法と非平衡グリーン関数法を用いて検討しました。

計算モデルとして、図1に示す単体の2層グラフェンとそれをSiC基板上に配置したモデルを作成しました。SiC基板上の2層グラフェン(図1右)はSiC表面熱分解法で作製される構造をモデル化しており、SiC基板と2層グラフェンとの間にバッファ層を配しています。

本解析では、図1の2つの計算モデルに対して垂直電場を印加するとともに、計算モデルの左右に電極を付加し、電極間に電位差を与えて計算を実施しました。

図1
図1:2層グラフェン(左)とSiC基板上の2層グラフェン(右)

透過関数

図2は、図1に示したモデル中をキャリアが水平方向に移動する際の透過確率(横軸)をキャリアのエネルギー(縦軸:原点はフェルミ準位)の関数として表したものです。透過関数はキャリアの透過のしやすさを表すものであり、キャリアの伝導特性を決定づける因子です。

図2の左上では、2層グラフェンのバンド構造を反映してギャップのない上下対象の透過関数が得られています(電極間電位差0の場合)。図2右上では、2層グラフェンに垂直電場をかけるとバンドギャップが発生するという既存の理論予測結果(Min, et.al. Physical Review B 75 (15) 2007)を再現しています。

この2層グラフェンをSiC基板上に載せると、フェルミ準位がギャップの上側に位置するようになります(図2左下)。これは基板組成による分極電場が垂直電場印加と同じ効果を示すこと、および、基板からグラフェンに電子が供給されることから説明できます。また、基板上の2層グラフェンに対してさらに上向きの垂直電場をかけると、ギャップはあいまいになりますが、フェルミ準位は2層グラフェン単体と同様のレベルに位置するようになります(図2右下)。これは垂直上向きの電場によりグラフェンに供給されていた電子が基板側に引き戻された結果であると解釈できます。

図2
図2: 2層グラフェン(上段)と基板上の2層グラフェン(下段)の透過関数T(E): 各段の左右は垂直電場off/on: 各プロットには電極間電位差、0.0(赤)、0.2(青)、0.4(緑)Vのケースを記載

電気伝導率・キャリア密度・キャリア移動度

透過関数からは電気伝導度を求めることが可能であり、さらに、状態密度から得られるキャリア密度と併せ、電気伝導率やキャリア移動度を評価することが可能です。2層グラフェンおよび基板上の2層グラフェンに対する2次元系電気伝導率(σ)、キャリア面密度(表1: e = 電子、h = ホール、以下同様)、キャリア移動度(μe、μh)を、それぞれ、表1および表2に示しています。各値は、垂直電場(Ε)および電極間電位差(V)ごとに算出しています。

全体の傾向を見ると、表1の2層グラフェンの場合には、グラフェンのバンド構造の反映として電子、ホールに対する移動特性はほぼ同等となっています。一方、表2の基板上の2層グラフェンの場合にはこの対称性が崩れていることが見て取れます。また、2層グラフェンと基板上の2層グラフェンの双方において、垂直電場をかけた場合には、いずれの場合にもキャリア移動度が小さくなっています。これはバンドギャップの拡大に伴う移動度の減少として理解されます。

図2右上の2層グラフェンに対して垂直電場を与えた場合に見られるように、水平電位を与えた場合には、透過関数に見られるギャップが開く傾向にありますが、水平電位でのギャップ程度以上の電位を与えた場合には、フェルミ準位近傍に透過可能な領域が現れます。この状況は、表1のΕ = 0.5の場合に現れており、V = 0.2ではキャリア移動度が極端に低くなっていますが、V = 0.4では再びキャリア移動度が回復しています。

表1: 2層グラフェンの電気伝導率、キャリア密度、キャリア移動度
表1

表2: 基板上の2層グラフェンの電気伝導率、キャリア密度、キャリア移動度
表2

成果及び展望

本解析結果は、電子デバイス材料の伝導特性に対する、基板、垂直電場の影響が評価可能であることを示しています。本解析で用いた手法はグラフェンに限らず多様な材料に適用することができ、デバイスの主要材料・構造の検討に加え、基板材料・結晶構造、デバイス稼動条件の検討を行うことが可能です。

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担当:サイエンスソリューション部
電話:03-5281-5311

サイエンスソリューション部03-5281-5311

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