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水中の構造揺らぎを考慮したタンパク質の相互作用解析

背景

フラグメント分子軌道法(FMO)を用いることで、タンパク質とタンパク質との間、タンパク質と医薬品との間の相互作用を量子力学的に解析することができます。その際、生体内でのタンパク質はその構造が時間とともに揺らぎながら機能を発揮しているため、タンパク質の構造の揺らぎを考慮して解析する必要があります。しかし、数nsの長時間に渡るタンパク質の構造の揺らぎを量子力学的に計算することは困難です。そこで、古典分子動力学(MD)計算によって水中のタンパク質の構造の揺らぎのダイナミクスを計算し、その結果から得られる構造に対して量子力学的な計算を行うハイブリッドな方法で解析を行いました。

目的

水中におけるタンパク質の構造の揺らぎを古典分子動力学(MD)計算でシミュレーションし、各時間の構造(スナップショット)においてタンパク質内のアミノ酸間の相互作用エネルギー(フラグメント間相互作用エネルギー(IFIE))を計算して、その揺らぎを解析しました。

解析事例

水中における小規模タンパク質TrpCageの50nsに渡る時間での構造の揺らぎを古典分子動力学(MD)計算プログラムで計算しました。1nsごとのスナップショットでタンパク質内部のアミノ酸間の相互作用エネルギー(IFIE)をフラグメント分子軌道法(FMO)計算プログラムABINIT-MPを用いて量子力学的に計算しました(計算レベル:FMO-MP2/6-31G)。図1は各時間におけるタンパク質の構造の初期構造(実験構造)からの差(平均二乗偏差; Root-mean-square deviation (RMSD))を表します。図2はTrp6と周囲のアミノ酸間のIFIEの時間変化を表します。


図1(上図) RMSDの時間変化。緑丸と青丸で示した時刻でRMSDが有意に異なります。
(下左図) 上図の緑丸の時刻での分子構造(緑線)、実験で測定された構造(赤線)。
(下右図) 上図の青丸の時刻での分子構造(青線)、実験で測定された構造(赤線)。



図2.TRP6と周囲のアミノ酸間の相互作用エネルギー(IFIE)の時間発展での変化(緑線)とその平均(青線)、実験で測定された構造のIFIE(赤線)との比較

成果及び展望

タンパク質内のアミノ酸間の相互作用エネルギー(IFIE)が構造の揺らぎに依存して大きく変化する(TYR3-TRP6間では±5 kcal/molの変化)ことがわかりました。これは1つの構造のみではタンパク質-タンパク質、タンパク質-リガンド間などの相互作用を正しく理解できないことを示しています。一方で、複数のスナップショット構造のIFIEを平均することで、実験構造のIFIEを1 kcal/mol未満の誤差で再現できました。この結果から、実験で構造が測定されていないタンパク質-リガンド複合体等においても、古典分子動力学(MD)計算とフラグメント分子軌道法(FMO)計算を組み合わせることで妥当なIFIE解析ができると期待されます。

学会発表

本解析の成果を以下の学会で発表しました。

  1. "Classical molecular dynamics and fragment molecular orbital study on the structures and electronic properties of small protein TrpCage", T. Tsukamoto, K. Fukuzawa, Y. Mochizuki, T. Nakano, CBI2010, Tokyo, 2010

お問い合わせ

担当:サイエンスソリューション部
電話:03-5281-5311

サイエンスソリューション部03-5281-5311

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