
*本稿は、『週刊東洋経済』 2024年10月5日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
政府は、本年9月13日に「高齢社会対策大綱」を閣議決定した。高齢社会対策とは、高齢化率が一層高まる社会を前提に、全世代にとって持続可能な社会を築くための取組みをいう。大綱はその指針であり、5年に一度見直しが行われている。
筆者は、大綱策定のための検討会に委員として関与した。ここでは個人的な見解として、大綱の中で注目した点を取り上げる。
それは、高齢者の体力的な若返りなどを踏まえて、「65歳以上を一律に捉えることは現実的ではない。年齢によって『支える側』と『支えられる側』を画することは実態に合わないものとなっており、新たな高齢期像を志向すべき時代が到来しつつある」という指摘だ。
近年の高齢期の就業状況を見ても、65歳以上を一律に「支えられる側」と捉えるのは妥当ではない。しかし、制度面でも意識面でも、年齢による区分が残されている。
具体的に見ると、65歳以上の就業者数は、2023年までの10年間で1.43倍に増えて914万人となった。65歳以上の就業率も、13年の20%から23年には25%に上昇した。特に、60代後半の就業率の上昇は著しく、13年の39%が23年には52%に高まった。60代後半の約半数は就労している状況だ。
ちなみに、13年から23年にかけて「生産年齢(15~64歳)人口」は506万人減少したが、この間、就業者数は逆に420万人増えている。この増加分の7割弱は、65歳以上の就業者の増加によるものだ。高齢就業者の増加が人手不足を緩和してきたといえる。
一方、高齢就業者の持つ経験やスキルを職場で十分活かせているかというと課題がある。高年齢者の雇用については、高年齢者雇用安定法に基づき、13年度に65歳までの雇用確保措置が義務化され、21年度には70歳までの就業確保措置が努力義務となった。両措置とも継続雇用制度の比率が高く、高年齢者に対する給与などの処遇の大幅な引き下げが少なくない。
この点、大綱では今後の高齢期の就業促進に向けて「雇用の質」を高めることを指摘する。つまり、年齢ではなく経験やスキルに基づいて労働者を配置することや、仕事内容や働きぶりに応じた処遇など、仕組みの整備を求めている。
なお、65~74歳人口は今後減少していくため、高齢就業者の量的確保は今より難しくなる。「雇用の質」の向上や柔軟な働き方の導入など、高齢期に能力を発揮しやすい環境を整備することは、企業にとって一層重要になるだろう。
高齢期の就業との関連で、もう1つの重要な課題は、在職老齢年金制度である。この制度は、就労する厚生年金受給者の賃金と年金の合計額が一定水準を上回ると、従前の保険料拠出に見合った年金額を受給できなくなってしまうというものだ。働く高齢者への不合理なペナルティーになっている。大綱が目指す「働き方に中立的な年金制度」とはいえず、早期に撤廃すべきである。
人生100年時代の高齢期には、就労や社会参加しやすい環境整備が不可欠だ。そして多様な高齢期を見据えて、現役期から学び直しの機会を持つことも重要になろう。
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