多死社会における家族機能の社会化

2024年3月13日

みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席研究員

藤森 克彦

*本稿は、『週刊東洋経済』 2024年2月3日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

日本は、高齢化に伴って死亡者が増加する「多死社会」の途上にある。2020年の65歳以上の死亡者数は125万人となり、20年前比で65%増となった。そして国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、40年の同死亡者数は26%増加して、157万人になるという。

人生の最終段階では、病院への同行などの「日常生活支援」や、病院や介護施設に入る際の「身元保証」、葬儀や家財の片付けなどの「死後対応」が必要になる。従来こうした支援は家族などが担ってきた。しかし現在、高齢者の約2割は独居であり、身寄りのない人も増えている。多死社会の中で、家族に頼れない高齢者は、これまで家族が提供してきた支援をいかに確保するかが課題となる。

こうした中、近年、高齢者との契約に基づいて先の3つのサービスを有償で提供する民間事業者が増えている。正確な事業者数は不明だが、総務省の調査によれば、全国に400団体ほどあるようだ。

この背景には、独居高齢者の増加に加えて、民間事業者の提供するサービスの使い勝手のよさもある。具体的には、多くの民間事業者では、料金さえ支払えば、身元保証のみならず生活支援や死後対応といったサービスもワンストップで受けられる。また、公的制度のような利用者の制限もなく、柔軟にサービスを享受できる。

一方で、民間事業者が提供するサービスには、課題が指摘されている。まず、信頼性の担保が乏しい点だ。例えば、身寄りのない高齢者の場合、本人死亡後の契約履行についてチェックする人がいない。また、事業者には、身寄りのない高齢者と長期的につながり続けながら、必要な支援をコーディネートする機能が求められる。しかし、十分な経験や知見のない事業者も少なくない。

さらに、低所得者のサービス利用が難しい点も課題である。料金は事業者によって異なるが、総務省が4事業者について利用開始時に必要な費用を調べたところ、100万円以上になるという。

筆者は、身寄りがなくても安心して人生の最終段階を送るには、行政が関与して、官民が協働する新たな仕組みが必要と考える。なぜなら、身元保証、生活支援・死後対応は、身寄りのない高齢者にとって基盤となる不可欠なサービスであるからだ。

具体的な行政の関与としては、事業を監督するとともに、サービスの質について一定の基準を定めて、基準を満たす事業者を特定することなどが求められる。

また、低所得者であってもサービスを受けられるように、経済的支援も必要となる。一方、身寄りのない高齢者にとって不可欠な支援という点から、事業の継続性の確保や料金抑制のために、事業者への補助金も検討したらどうか。

さらに、「地域で支える」という視点も重要だ。すでにいくつかの地域では、自治体が中心となって福祉団体、医療機関、民間企業などが連携し、支援のネットワークを構築している。身寄りがなくても尊厳のある人生を送れるように、家族機能の社会化に向けた仕組み作りが求められる。

(CONTACT)

会社へのお問い合わせ

当社サービスに関するお問い合わせはこちらから

MORE INFORMATION

採用情報について

みずほリサーチ&テクノロジーズの採用情報はこちらから

MORE INFORMATION