
*本稿は、『週刊東洋経済』 2025年6月21日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
政府は今年4月、2024年に発生した「孤立死」が2万1856人になるという推計結果を発表した。孤立死に一律の定義はないが、ここでは「誰にも看取られず、自宅で亡くなった一人暮らしの方のうち、死後8日以上経過して発見された人」をいう。
一人暮らしをしていれば、突然死したときに誰もいない状況は考えられる。注目すべきは、死後8日以上経過して発見された点であり、生前に他者とのつながりが乏しいことが推察される。
孤立死の約7割は65歳以上だが、男性が全体の8割を占める点が特徴だ。今後の単身高齢男性の増加により、孤立死も増えることが懸念される。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、単身高齢男性は20年から50年にかけて1,76倍に増えて451万人になる。また、同男性の配偶関係を見ると、未婚者比率が20年の34%から50年には60%に高まる見通しだ。
単身高齢者かつ未婚であれば、配偶者だけでなく、子どももいないことが想定される。そのため、身寄りがなく、他とのつながりがなければ、孤立しやすい。
孤立死は個人の問題にとどまらず、社会的課題を生じさせている。例えば、単身高齢者が借家を確保できないという問題がある。孤立死は物件価値の下落を招くとともに、特殊清掃や残置物処理のコストが大家の負担となるため、大家が貸し渋りすることが少なくない。
また、孤立死が生じた自治体では、戸籍から親族探しを行うが、見つけ出すのが困難な事例が多い。持ち家に住む単身高齢者が孤立死となった場合、空き家が長期に放置されて朽ちれば、自治体が公金を使って処分することにもなる。
では、孤立死や孤立状態について、どのような対策が必要か。
1つは、孤立者に定期訪問するなどの伴走だ。孤立者への必要な支援に気づいて社会サービスにつなぐ機能である(手段的支援)。家族は一緒に暮らすことでこの機能を果たしてきたが、身寄りのない人は福祉団体などと契約して支援を受けられる仕組みが必要だ。
もう1つ重要なのは、孤立を生まない地域づくりである。契約関係ではなく、地域の人々とインフォーマルな関係を築ける居場所を作る(情緒的支援)。対話を楽しみ、互いを見守る場にしていく。
例えば愛知県知多地域では、NPO法人知多地域権利擁護支援センターが中心となり、この2つの支援を始めた。筆者を含む大学の研究者や地域の福祉関係者もこの活動に関与している。
手段的支援は、同センターが身寄りのない高齢者などを対象に、見守りや安否確認、入退院時等支援、死後事務支援を提供する。低所得者も利用できるように、料金を低く抑えている。
一方、情緒的支援としては、身寄りのない人同士が定期的に集まって、緩やかにつながる「互助会」を創設した。互助会では、対話しながらエンディングノートを作成し、死後の持ち家対応などもみんなで一緒に考える。
まだ試行錯誤の段階だが、このような手段的支援と情緒的支援の両方の取り組みが広がっていくことを期待したい。
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