*本稿は、『自治体法務研究』 2025年春号(発行:株式会社ぎょうせい)に掲載されたものを、同社出版事業部の承諾のもと掲載しております。
4. 身寄りのない単身高齢者への支援の現状
自治体や地域包括支援センターによる支援の現状と課題
身寄りのない単身高齢者が必要とする身元保証、日常生活支援、死後対応をいかに提供するかという課題は、既に顕在化している。例えば、身元保証では、判断能力が不十分な場合は成年後見人がついて入院や入所が可能になる。しかし、身寄りがなく判断能力が低下していない場合には入院や入所を拒絶されることが少なくない。法的には、身元保証人がいないという理由だけで、病院や介護施設は入院・入所を拒めないことになっている。しかし、債務保証や遺体の引取りなどの必要性から、病院や介護施設は依然として身元保証を求めることが多い。一方、公的機関は身元保証人になることはできないが、自治体によっては職員などが緊急連絡先に名前を記入することなどがあると聞く。
また、家族の果たしてきた日常生活支援の範囲は多様で幅広い。例えば入院した高齢者がアパートに入れ歯を忘れた場合、家族がいれば簡単に対応できる。一方、身寄りのない場合、公的機関の支援者などが、本人不在のアパートで大家から鍵を借りて入れ歯を探すのは、業務の範囲内かどうか曖昧で、事前手続きなどに時間を要する。とはいえ、入れ歯がなければ食事ができないため、最終的に支援者自らの判断で対応することも多いようだ。
(2)高齢者等終身サポート事業者
こうした中、身元保証をビジネスとする高齢者等終身サポート事業者(以下、サポート事業者)が近年増えている。総務省の調査によれば全国に400ほどある。増加の背景には、サポート事業者を活用しなければ、身寄りのない単身高齢者の入院・入所が難しいという現実と、サポート事業者のサービスの使い勝手の良さがある。例えば多くのサポート事業者では、料金さえ支払えば、身元保証のみならず、死後対応や日常生活支援といったサービスも受けられる。また公的制度のような利用者の制限もない。
一方で、サポート事業者が提供するサービスには問題点も指摘されている。
第一に、信頼性が乏しい点が挙げられる。例えば身寄りのない単身高齢者の場合、本人死亡後の契約履行についてチェックする人がいない。また参入障壁が低く、十分な経験や知見のない事業者もあるようだ。さらに契約内容が複雑で料金体系が不明確なため、消費者被害が発生している。
こうした状況を受け、政府は、消費者保護の必要性が高いとして、2024年6月に9省庁が集まって「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を発表した。しかし、所管官庁が定まらない状況は継続している。また、サポート事業者の信頼性を担保するため、許認可制度や優良事業者を見極める仕組みを求める声がある。
第二に、料金が高額で、低所得者のサービス利用が難しい。料金は事業者により異なるが、総務省が4事業者について利用開始時に必要な費用を調べたところ、100万円以上になるという。サービス提供は、基本的に採算のとれる地域で行われ、どの地域でも利用できるわけではない。
5. 孤立する単身高齢者にどのような対策が求められているのか
では、身寄りのない単身高齢者に対して、どのような対応が必要なのだろうか。筆者は、家族が担ってきた機能を、社会で担っていける体制や環境が必要と考える。具体的には、下記の3点が重要と考える。
(1)コーディネート機能
第一に、身寄りのない単身高齢者に伴走して、必要な支援に気付いて福祉サービスなどにつなぐコーディネート機能である。これは、伴走型支援と呼ぶことができよう。家族がいれば、一緒に暮らすことで、体調などを見ながら、必要な支援に気付いて、地域にある様々なサービスにつないでいける。また、家族は、電球の交換など、高齢者が必要とする簡単な作業なども担ってきた。
しかし、孤立している高齢者は、こうした支援を受けることが難しい。そこで、家族機能の社会化として、身寄りのない単身高齢者に伴走して、必要な支援に気付いて、つなぐことが必要になる。具体的には、身寄りのない単身高齢者に定期訪問をして声を掛けたり、安否を気遣ったり、何かあったときに相談に乗り、対応していくことである。
この点、現在、政府のいくつかの取組では、コーディネーター等の設置が検討されている。例えば、厚生労働省では、権利擁護の分野において2024年度から「身寄りのない単身高齢者が抱える生活上の課題に対応するモデル事業」が実施されている。事業の概要を見ると、「包括的な相談・調整窓口の整備」として身寄りのない単身高齢者の相談を受けるコーディネーターが置かれている*2。また、住宅セーフティネットの分野でも、2024年度に新たに「居住サポート住宅」が検討されている。見守りなどを行うサポーターの設置が想定されている*3。サポーターも、コーディネート機能を果たすものと推察される。
どのような機関が中心になって伴走するかは地域の状況により異なるだろう。ただし、信頼性を確保するためにも、国や自治体が関与して基盤を整備することが重要だ。
(2)地域における支援のネットワークの構築
第二に、身寄りのない単身高齢者が必要とする支援を提供できるように、地域で支援のネットワークを構築していく点である。これは、つなぎ先となるサービス提供者のネットワークである。
先述のとおり、人生の最終段階では、日常生活支援、身元保証、死後対応など多様な課題がある。地域で円滑なサービスが提供できるように、自治体、福祉団体、医療機関、介護事業者、司法関係、自治体、民間企業など様々な団体が、あらかじめ支援のネットワークを築いていく。
既に、いくつかの地域では「支援のガイドライン」を作成している*4。ガイドラインの目的としては、①身寄りのない単身高齢者が円滑に医療や介護・福祉サービスを受ける権利を保障することと、②身寄りのない単身高齢者への支援をする機関の負担を軽減すること、などが挙げられる。今後、こうした動きを広げる必要がある。
(3)居場所づくり
第三に、地域で居場所を確保することである。今後、未婚化などによって身寄りのない単身高齢者が増えていくが、居場所は孤立を防ぐ場となり得る。何かの活動目的のために集まるというよりも、居場所に行けば顔見知りがいるという関係性が重要だ。それが、高齢期の単身者を見守り、互いのケアにつながっていく。家族や親族との関係がなくても、友人・知人や近所の人とのインフォーマルな関係を構築できれば、孤立を防ぐことができる。
今後、孤立する高齢者が増加していく。例えば、単身高齢者で会話欠如型孤立に陥る人の人数を試算すると、2020年の63.4万人が、2050年には100.6万人へと約1.6倍になる。このため、伴走する専門職が不足することも考えられるので、居場所を作って孤立を予防することが重要になる。換言すれば、専門職による伴走型支援は、孤立しやすいハイリスク層を主な対象にする。
なお、伴走型支援についても、当初は支援者が孤立する高齢者とつながる必要がある。しかし、そのうち居場所などにいる地域の人々につなげて、支援者は緩やかに見守る段階に移行する。身寄りのない単身高齢者の困りごとに住民が関わり、関係性を広げていくことが、住民が互いにケアをし、孤立を防ぐ地域づくりになる。例えば、先述した「入院した際、入れ歯をアパートに忘れた事例」についても、頼れる友人や近所に依頼することができるであろう。
6. おわりに
今後の課題としては、第一に、身寄り問題に対応していくための財源確保である。身寄りのない単身高齢者に伴走するには、当然、人件費が掛かる。現在、身寄りのない単身高齢者への支援は、各支援団体の持ち出しで行っていることが多い。これでは、持続可能性がない。また、低所得の身寄りのない単身高齢者は、必要な福祉サービスの利用料金を支払えないことも考えられる。こうした課題に対応できるように、公的な財源確保が必要となる。
第二に、居場所をどのように確保していくのかは、模索段階といえよう。自分らしくいられる場所が日常生活の中にあることが望ましい。居心地のよい場で築かれる他者とのつながりが、人生を豊かにするだろう。
身寄りがなくても、友人やご近所など身近な人との質の高い関係があればよい。家族だけに頼らない「新しい社会づくり」を前向きに捉え、高齢期に身寄りがなくても、尊厳のある人生を送っていける社会の構築が求められる。
-
*2厚生労働省「持続可能な権利擁護支援モデル事業について」(成年後見制度利用促進専門家会議(第二期基本計画期間)、2024年2月1日、資料2。
-
*3国土交通省住宅局(2024)「令和6年住宅セーフティネット制度の改正」3頁参照。
-
*4つながる鹿児島(2021)「『身寄り』のない人を地域で受けとめるための 地域づくりに向けた 「手引き」作成に関する調査研究事業」(令和2年度 生活困窮者就労準備支援事業費等補助金 社会福祉推進事業)、92頁参照。
(CONTACT)

