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学習画像わずか8枚からの外観検査。「対象の観察」を重視したAI開発のアプローチ

はじめに
読者の皆さんは、「外観検査」ってご存じですか?外観検査とは、製品の傷や汚れ、凹み等の品質検査のことです。従来は目視で行われることが多かったものの、近年の技術の発展に伴って、外観検査へのAI技術の適用を検討される会社が増えています。一方、検討段階で様々な先行事例を見聞きする中で、「外観検査を行うAIを構築するには、最低でも数千枚の画像を学習用のデータとして用意する必要がある」というまことしやかな噂話を聞き、導入を諦めたという話もよく耳にします。
では、実際のところ、本当に数千枚の画像データが”必須”なのでしょうか?
私たち、AI Powerhouseの答えは「否」です。
私たちは、「対象の観察」を重視する、すなわち、検査対象を丁寧に観察してその特徴を的確に捉えることで、少ない画像データであっても、AIによる外観検査が可能となる場合があると考えています。
本コラムでは、2025年に開催された精密工学会主催の『外観検査アルゴリズムコンテスト2025』において、私たちAI Powerhouseが「優秀賞」を受賞した際の取組を紹介することで、「対象の観察」の重要性や少ない画像データでも高精度な外観検査AIを構築できるという実例をお示しします。
コンテストのお題:キャベツの場所と葉の枚数を当てる
コンテストで与えられたお題は、「畑の画像から、一つひとつのキャベツの場所と葉の枚数を当てる」というものでした。コンテストに取り組むにあたっては、アルゴリズムの構築およびテスト用に、一定の高さで真上から撮影した畑の画像(下図参照)がわずか8枚のみ配布されました。

お題としてはシンプルですが、下図のように、成長度合いでキャベツ自体の大きさや形が大きく異なり、さらには葉が重なり合って画像に写らない部分もあり、人が目で見ても正確に枚数を数えるのが難しい要素が多く存在します。

このような状況において、より精度の高いAIを構築するために重要なのは、「対象の観察」なのです。
解決の糸口は、「対象の観察」で見つけた5つの法則
冒頭でもお伝えしたように、外観検査AIを導入する際、十分なデータ数を用意できないことから、AIの活用を断念してしまう方は少なくありません。しかし私たちは、丁寧に対象を観察してその特徴を捉えることで、少量データからでも精度の高いAIを構築することができると考えています。今回のコンテストでもこの考えに基づいて、配布された画像を注意深く観察することで、精度向上への糸口となる5つの法則を見つけ出しました。
<「対象の観察」を通じて得られた法則>
1. 配置の法則:キャベツは、2列(畝)に沿って植えられている。
2. 間隔の法則:隣り合うキャベツは、おおよそ等間隔で並んでいる。
3. 形状の法則:一つひとつの株の幅と高さは、極端には違わない。
4. 相関の法則:株が大きく育てば、葉の枚数も多くなる傾向がある。
5. 均質性の法則:同じ画像に写る株同士で、育ち具合に極端な差はない。

こうした法則は、一見すると当たり前のことのようにも感じられます。しかし、前提知識が無いAIにとっては、こうした法則を少数のデータから自力で見つけ出すことは困難です。そこで、こういった人間が感じる「当たり前」を言語化し、AIが理解できる数値データに変換して与えることが、少ないデータでAIを構築するための鍵となります。
観察で見つけた法則を“AIへのヒント”に変える
データ数が限られている状況で、AIを活用したアルゴリズムを構築する際に重要なのは、すべてをAIに任せようとしないことです。AIは「明確なルール化が難しい判断」が求められる際に力を発揮しますが、判断の内容が複雑になるほど必要となるデータ量は増大します。逆に言えば、データ数が少ない状況においては、AIが判断すべき内容を極力単純化してあげることで、AIは最大限の力を発揮します。
したがって私たちは、今回のコンテストにおいて、ルールで判断できる部分はルールに任せ、本当に必要な範囲に限定してAIを活用するというハイブリッドなアプローチを採用し、処理の性質に応じて、次のように役割分担を行いました。
1. キャベツの場所はルールで
まず、キャベツの株の場所に関連する法則1,2,3は、AIではなくシンプルなプログラムとして実装しました。これにより、「キャベツはこの場所に、このくらいの間隔で並んでいるはずだ」という情報をそのまま使い、各キャベツの場所を正確に特定します。
2. キャベツの葉の枚数はAIで
一方で、キャベツの葉の枚数を数える作業は、株の成長という自然が生み出す複雑な現象を捉える必要があるため、単純なルール化が困難です。こうした単純なルールでの判別が難しい場面でこそ、AIは力を発揮します。
ただし、学習に使用できる画像枚数はわずか8枚しかありません。そこで私たちは、「対象の観察」で見つけた、葉の枚数に関連する法則の4と5をヒントとしてAIに与えることにしました。具体的には、「株の大きさ」といった情報を人間側であらかじめ計算し、画像と一緒にAIへ入力したのです。
こうすることで、AIは「画像だけ」から手探りで学ぶのではなく、「人間が事前に整理したヒント」もあわせて利用できるようになり、少ないデータからでも複雑な関係を学習させることに成功しました。
このように、「対象の観察」から得られた法則を基に、ルールとAIによる判断をうまく組み合わせることで、今回の難題を乗り越えることに成功し、優秀賞の受賞につながりました。
おわりに:外観検査DXを前に進める、AI Powerhouseのご提案
今回のコンテストでの優秀賞の受賞は、この「対象の観察」を重視する私たちのアプローチが、外観検査AIの精度向上に対して有効であることを示すと共に、データ不足という状況においても、AI活用を諦める必要は必ずしもないことを示す一例です。
この考え方の重要性は、今回のコンテストのお題に限らず、さまざまな分野で現実に発生する課題に共通します。
たとえば、製造ラインにおける品質検査やインフラ設備の点検などへのAI活用シーンにおいても、「異常データが極端に少ない」あるいはもはや「良品データしかない」といった、データ不足に悩む現場は多く存在します。AI Powerhouseでは、最新のAI技術知見と、検査対象の特性を理解する観察力を融合させ、お客様の実課題に即したソリューションを提供してまいります。
少量データでの外観検査AIの構築にご関心のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
参考
2025年度 精密工学会主催「外観検査アルゴリズムコンテスト」
https://alcon.itlab.org/
▶[PDF] ViEW2025 圃場の特性を利用した画像処理による株の検出と特徴量を拡張したスタッキングによるキャベツの葉数推定 (PDF/365KB)
