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業務部門の照明における温暖化対策の更なる推進に向けて(2/3)

社会動向レポート

環境エネルギー第1部
チーフコンサルタント 佐野 翔一 コンサルタント 横尾 祐輔 次長 松井 重和

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3調査結果の分析

(1)建物用途別のLEDの普及状況

主要なエリアにおける主要な照明の種類別(「LED照明」、「蛍光灯」、「白熱灯」、「その他」、「分からない」の5つに分類)の導入比率を建物用途別に分析したものを図表4に示す。LED照明導入比率(3)を見ると、娯楽施設(64%)や飲食店(61%)のように高い水準の用途がある一方、教育施設(13%)や博物館(8%)のように低い水準の用途もある。建物用途によってLED照明の普及状況に大きな差が見られる。

先に述べたとおり、地球温暖化対策計画では、業務部門におけるLED照明等の高効率照明のストックに占める割合を2030年度までに100%にすることを目指すとしているが、達成に向けては建物用途に応じた施策の工夫、特に普及が遅れている建物用途に対する工夫が必要になると考えられる。

図表4 主要な照明の種類別の導入比率(建物用途別)

図表4

(資料)みずほ情報総研「平成30年度民生部門における低炭素化対策・施策検討委託業務報告書」(環境省委託事業)
(注)主要なエリアで複数種類の照明を使用している場合は、主なものを1つ選択。以下の図表でも同様。

(2)竣工年別のLEDの普及状況

竣工年別のLED照明導入比率を図表5に示す。直近4年間(2015年~2018年)に竣工した建築物のLED照明導入比率は80%と高い値を示しており、最近の建築物ではLED照明の採用が標準的になっていることがわかる。

一方、竣工年が2010年以前の建築物のLED照明導入比率は26%であった。前述のとおりLED照明が本格的に普及し始めたのは2011年の東日本大震災以後であり、それ以前に竣工した建築物の多くは竣工時にはLED照明以外を設置していたものと考えられる。したがって、2010年以前に竣工した建築物でLED照明を導入している建築物の大部分は、LED照明を改修によって導入した建築物と考えることができる。LED照明導入比率が26%ということは、震災直後の2011年から調査時点の2018年末までの8年間の平均的な導入ペースは約3%/年(26%÷8年≒3%/年)となる。仮に照明器具の寿命を15年とし(4)、導入される照明がすべてLED照明だと仮定すると、導入ペースは約7%/年(100%÷15年≒7%/年)となる。これは現状の3%/年よりも大きいことから、ペースアップの余地があると言える。また、現在の導入ペースだと2030年のLED照明導入比率は約65%(26%+26%÷8年×12年≒65%)にとどまる。前述の地球温暖化対策計画の目標達成に向けては、既築建築物のLED照明への改修を促進する施策を充実させていく必要があるだろう。

図表5 竣工年別の主要なエリアのLED 照明導入比率

図表5

(資料)「事業所における照明の利用状況に関する意識調査」のデータより作成

(3)LED照明普及前に竣工したオフィス・事務所におけるLEDの普及状況

既築建築物のLED照明への改修状況をより詳細に分析するため、多くのサンプルが取得できた民間のオフィス・事務所について、LED照明導入比率を延床面積別(700m2未満、700m2以上~2,000m2未満、2,000m2以上~5,000m2未満、5,000m2以上)、所有関係別(自社ビル/テナントビル)に分析した(図表6)。

その結果、いずれの延床面積区分においても、テナントビルは自社ビルと比べてLED照明導入比率が10%~20%ポイント程度低かった。この原因として、いわゆる「オーナー・テナント問題」が考えられる。オーナー・テナント問題とは、テナントビルの専有部分に省エネルギー設備を導入する場合、導入費はオーナー負担となるが、導入による光熱費低減のメリットはオーナーではなくテナントが享受することが多く、結果として省エネ対策が進まないことを指す。本分析では、このオーナー・テナント問題をデータ的に捉えることができたといえる。

次に、テナントビルにおけるLED照明の導入ペースを分析する。LED照明導入比率は、延床面積の大きさによって若干異なっているが、ここでは700m2以上2,000m2未満を例にとる。このセグメントのLED照明導入比率が25%で、導入期間は震災直後から調査時点までの8年間であるから、平均的な導入ペースは約3%/年(25%÷8年≒3%/年)となる。このペースだと2030年のLED照明導入比率は約63%(25%+25%÷8年×12年≒63%)にとどまってしまう。先に述べたとおり、地球温暖化対策計画では業務部門におけるLED照明等の高効率照明のストックに占める割合を2030年度までに100%にすることを目指すとしている。この目標達成に向けては、既築の中でも特にテナントビルに対する施策を充実させていく必要があるだろう。

図表6 民間のオフィス・事務所における延床面積別・所有関係別の主要なエリアのLED 照明導入比率

図表6

(資料)みずほ情報総研「平成30年度民生部門における低炭素化対策・施策検討委託業務報告書」(環境省委託事業)
(注1)2010年以前に竣工した建築物が分析対象。
(注2)民間のオフィス・事務所を対象とし、公共の事業所は対象外とした。

(4)直近1年間の照明の改修状況

続いて、足元の改修の状況を把握するため、図表7に直近1年間の照明の改修状況を示す。直近1年間に改修を実施した事業所は回答が得られた事業所の17%となっている。仮に、照明器具の寿命を15年とすると、直近1年間に照明を改修した事業所は約7%(100%÷15年≒7%/年)になるため、直近の照明改修は相当早いペースで行われているといえる。なお、環境省グリーンビルナビによれば、照明のLED化は省エネ・コスト削減目的で計画よりも前倒しで実施される場合があるため、他の改修(空調改修、外皮等を含む改修)と比べて高い頻度で行われる(図表8)。

図表9に、直近1年間に照明の改修を実施した事業所のうち、改修前後の照明の種類について回答が得られた事業所について、その改修内容を示す。蛍光灯からLED照明への改修が36%と最も多いが、蛍光灯から蛍光灯への改修も34%を占めている。LED照明への改修は一定水準では進んでいるが、先に図表2に示したとおり直近の照明器具全体の出荷台数に占めるLED照明器具の出荷台数の割合が約93%に達する状況を踏まえると、改修においては更なる対策の余地があることが窺える。

図表7 直近1年間における照明の改修状況

図表7

(資料)みずほ情報総研「平成30年度民生部門における低炭素化対策・施策検討委託業務報告書」(環境省委託事業)

図表8 省エネ改修の頻度に応じた部位や改修等の動機

図表8

(資料)環境省グリーンビルナビより作成(5)

図表9 直近1年間で照明の改修を実施した事業所の改修内容

図表9

(資料)みずほ情報総研「平成30年度民生部門における低炭素化対策・施策検討委託業務報告書」(環境省委託事業)

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