社会政策コンサルティング部 コンサルタント 古川 みどり
調査概要(続き)
(3)分析方法
「九州総菜事件」判決に言う「定年前後の労働条件の継続性・連続性が一定程度確保」された労働環境を、本調査では[1] 業務の内容、[2] 業務に伴う責任の程度、[3] 所定労働時間の3つの観点に係る変化の有無に基づいて定義している。3つの観点のそれぞれに、「変化がない(定年前と同じ)」と「変化がある(定年前と違う)」の2通りの可能性があることから、回答企業は8つの企業タイプに分類される(図表3)が、このうち連続的再雇用環境を実現している企業(以下、「連続的再雇用企業」と表記)に該当するのはタイプAである。
アンケート調査の設計としては、[1] 業務の内容、[2] 業務に伴う責任の程度、[3] 所定労働時間は順に4件法(「全く変わらない」「ほぼ変わらない」「かなり変わる」「完全に変わる」)、5件法(「かなり小さくなる」「やや小さくなる」「変わらない」「やや大きくなる」「かなり大きくなる」)、4件法(「フルタイムからパートタイムになる」「フルタイムのまま」「パートタイムからフルタイムになる」「パートタイムのまま」)で尋ねたが、「変化がない(定年前と同じ)」と「変化がある(定年前と違う)」の2つに区別するにあたっては、図表4のとおりとした。なお、[2] 業務に伴う責任の程度について「やや大きくなる」あるいは「かなり大きくなる」、また[3] 所定労働時間について「パートタイムからフルタイムになる」あるいは「パートタイムのまま」を選択した企業は集計の対象外とした。
図表3 企業タイプの分類

図表4 「変化がない(同じ)」と「変化がある(違う)」の区別にあたっての基準

調査結果
(1)実態の確認
[1] タイプA企業の分布
「3(3)分析方法」で述べた企業分類に基づき回答企業を類型化した結果、連続的再雇用企業にあたるタイプAは15.4%と全体で3番目に多い企業タイプとなった(図表5)。最も多いのはタイプG(業務の「内容」が変わり、業務に伴う「責任の程度」は小さくなり、「所定労働時間」はフルタイムのまま変わらない企業タイプ。42.2%)、二番目に多いのはタイプE(業務の「内容」が変わり、業務に伴う「責任の程度」は変わらず、「所定労働時間」はフルタイムのまま変わらない企業タイプ。18.8%)である。
図表5 タイプA企業の分布

[2] タイプA企業における定年前後の基本給の変化
定年前を「100%」とした場合の定年後の「時間当たり基本給」の水準を数値で尋ねた結果、回答企業全体の平均が77.0(%)であったのに対し、タイプA企業では85.7(%)と、8つの企業タイプの中で最も高い数値となった(図表6)。「100(%)」と回答した企業の割合を見ても、タイプAでは全体の38.1%であり、8つの企業タイプの中で該当企業の割合が最も高い。これに対して、該当企業数の最も多い企業タイプであるタイプGでは74.0(%)である。
図表6 タイプA 企業における定年前後の基本給の変化

[3] タイプA企業における定年前後の労働意欲の変化
定年前と比較した現在の労働意欲の高さを「かなり低い」「やや低い」「変わらない」「やや高い」「かなり高い」の5件法で尋ねた結果、タイプA企業では、「変わらない」が70.6%と、8つの企業タイプの中で最も高い割合を占めた(図表7)。さらに、上述の5つの選択肢にそれぞれ-2、-1、0、1、2(ポイント)を割り振って加重平均を算出した結果、タイプAでは-0.25ポイントと最も低下の幅が小さく、タイプGにおいて-0.59ポイントと低下の幅が最も大きかった。
図表7 タイプA 企業における定年後再雇用者の労働意欲の変化

(2)労働意欲の変化に影響する項目
ここで、タイプAに係る結果を引き続き述べる前に、本調査の結果、労働意欲の変化に影響していると推察された項目を確認していきたい。
まず、企業を類型化する際の観点とした「[1] 業務の内容」「[2] 業務に伴う責任の程度」「[3] 所定労働時間」のそれぞれに関して見ると(図表8)、労働意欲の低下幅が小さく抑えられていたのは、「[1] 業務の内容」については変わる場合(N=772、-0.49ポイント)よりも変わらない場合(N=248、-0.35ポイント)であり、同様に「[2] 業務に伴う責任の程度」についても、変わる場合(N=632、-0.55ポイント)よりも変わらない場合(N=388、-0.29ポイント)に低下幅は小さかった。他方で、「[3] 所定労働時間」に関しては変わる場合(N=176、-0.45ポイント)と変わらない場合(N=844、-0.46ポイント)の間で労働意欲の変化にはほぼ差が見られなかった。
次に、賃金(時間当たり基本給)に関しては、定年前後の「時間当たり基本給」の減少が大きいほどに労働意欲の低下幅も大きく、一般に想定される通りの結果となった(図表9)。
そのほか、「定年後再雇用者に期待する役割」「人事評価の仕組み」「賃金の決定方法」についても、全体として、定年前と「変化がない」場合に労働意欲の低下幅は小さく抑えられていることがわかった(図表9)。
図表8 企業の分類に用いた3つの観点と「労働意欲」の変化との関係

図表9 労働意欲の変化に影響する項目(すべての図表についてN=1,020)

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