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2021年10月

金融の脱炭素化(2/3)

イニシアチブ整理を通じた企業への影響の考察

みずほリサーチ&テクノロジーズ 環境エネルギー第2部 氣仙 佳奈

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2目標設定関連イニシアチブの比較・整理

ここでは、金融機関の目標設定に関するイニシアチブとその中で取り上げられている方法論について解説する。

ネットゼロを宣言するイニシアチブがその方法論を参照する金融版SBTとPAII、そしてネットゼロを宣言するイニシアチブ自らが定めた方法論としてNet-Zero Asset Owner Alliance(AOA)とNet-Zero Banking Alliance(NZBA)のものを比較し、金融機関による目標設定のパターンを整理する*6

(1)目標設定関連イニシアチブ(各方法論の解説)

[1] SBTi-Finance(金融版SBT)

金融版SBTは、金融機関向けのSBT設定方法論として2018年から検討が始まり、2020年10月1日にフェーズ1としてリリースされた*7。フェーズ1ではアセットオーナー、アセットマネジャー、銀行、モーゲージREIT(不動産投資信託)が対象とされ、これらの金融機関が金融版SBTの方法論に則って目標を設定することが可能となっている。金融版SBTの設定にコミット済みの金融機関は既に93社(2021年9月21日時点)にのぼっており、これら金融機関を対象としたSBT認定のパイロット審査も開始されている。

金融版SBTでは、Scope1・2と投融資に伴う排出量(Scope3カテゴリー15)のどちらも目標設定が必須。Scope1・2の目標設定方法は一般的なSBTと同様だ。投融資に伴う排出量の目標設定方法は3種類(セクター別脱炭素アプローチ(SDA)、ポートフォリオSBT設定企業カバー率、気温上昇スコア)あり、アセットクラスによって活用可能な方法が異なる。対象のアセットクラスとしては現時点でコーポレート(株式、債券、ローン)、発電プロジェクトファイナンス、不動産、住宅ローンが挙げられている。


図表2 金融版SBT 目標設定方法

図表2

(資料)SBTi-Finance「FINANCIAL SECTOR SCIENCE-BASED TARGETS GUIDANCE PILOT VERSION 1.1」よりみずほリサーチ&テクノロジーズが作成


[2] IIGCC Paris Aligned Investment Initiative(PAII)

PAIIは、欧州の気候変動に関する投資家(アセットオーナー及びアセットマネジャー)のグループであるInstitutional Investors Group on Climate Change(IIGCC)の中から立ち上がった、投資家がポートフォリオをパリ協定に沿わせるためのフレームワークを検討しているイニシアチブである。2019年の発足以来会員数は増加し、現在では118社(運用資産残高34兆ドル)が加盟している(2021年9月13日時点)。

2021年3月には、投資家がポートフォリオを2050年ネットゼロに沿わせるために活用可能な方法論や行動を提示したフレームワークとして「Net Zero Investment Framework 1.0」を公表。ガバナンス・戦略、目標、戦略的資産配分、アセットクラスの整合、政策提言、マーケット・エンゲージメントと、全部で6つのパートに分けて投資家がとるべき行動が整理されている。

このフレームワークでは、投融資に伴う排出量(Scope3カテゴリー15)の目標設定として、ポートフォリオレベルでの目標とアセットクラスレベルでの目標が提示され*8、対象のアセットクラスとしては上場株/社債、不動産、ソブリン債が挙げられている。


図表3 PAII 「Net Zero Investment Framework」目標設定方法*9

図表3

(資料)IIGCC Paris Aligned Investment Initiative「Net Zero Investment Framework 1.0」よりみずほリサーチ&テクノロジーズが作成


[3] Net-Zero Asset Owner Alliance(AOA)

[1]と[2]以外に、最近ではネットゼロを宣言するイニシアチブ自身がこれらも参照しつつ、自らの方法論を定めている。その一つがAOAである。

AOAは、投資ポートフォリオを2050年までに「ネットゼロ」に移行させることを目指す、アセットオーナーのイニシアチブで、2019年9月に開催された国連の気候行動サミットで発足し、現在では加盟機関が46団体(運用資産残高約7兆ドル)にのぼる(2021年8月31日時点)。

2020年10月には目標設定方法論として「Inaugural 2025 Target Setting Protocol」を公表した。2050年ネットゼロへの移行に向け、いかに次の5年で達成可能な目標(2020-2025年)を設定するかを明示的に提示したものであり、加盟メンバーは5年おきに中間目標を更新することが必要だ。

このプロトコルでは、投融資に伴う排出量(Scope3カテゴリー15)に対する目標設定方法として、全部で4種類(サブポートフォリオ排出目標、セクター目標、エンゲージメント目標、移行へのファイナンス目標)が示されている*10。加盟メンバーはこの4種類の目標を設定することが推奨され、最低でも3種類の目標を設定することが必要とされる。アセットクラスとしては、上場株、社債、不動産が現在の対象だ。


図表4 AOA 「Inaugural 2025 Target Setting Protocol」目標設定方法

図表4

(資料)Net-Zero Asset Owner Alliance「Inaugural 2025 Target Setting Protocol」よりみずほリサーチ&テクノロジーズが作成


[4] Net-Zero Banking Alliance(NZBA)

自ら方法論を定めているもう一つのイニシアチブがNZBAである。自らの目標設定方法論を定めているという点ではAOAと共通だが、NZBAの場合は自身ではなく関連する別団体が目標設定方法論を作成している。こうした違いも含めて、ここで詳しく見ていく。

NZBAは、2050年までにネットゼロへのパスとポートフォリオ(自社操業及び投融資先)の排出量との整合を目指す、銀行のイニシアチブである。2021年4月に発足し、現在では加盟機関が53団体(総資産37兆ドル)にのぼる(2021年8月31日時点)。

また、NZBA はCollective Commitment to Climate Action(CCCA) によって支えられている。CCCAはUNEP FIのPrinciples for Responsible Banking(責任銀行原則)の下に結成された2050年ネットゼロを目指す銀行のイニシアチブであり、38団体(総資産約15兆ドル)が加盟。2021年4月に目標設定ガイドラインとして、「Guidelines for Climate Target Setting for Banks」を公表しており、NZBAに加盟した金融機関はこれを用いることが必要だ。

このガイドラインは、大きく4つのパートに分かれており、[1]パリ協定に沿って長期目標及び中間目標を設定し開示すること[2]基準の排出量を設けるとともに、毎年排出量を計測・開示すること[3]目標設定では広く受け入れられている科学的な根拠に基づく脱炭素シナリオを用いること[4]最新の気候科学と整合するよう、定期的に目標を見直すこと、が要件とされる。

投融資に伴う排出量(Scope3カテゴリー15)の目標設定にあたっては、総量又はセクター別原単位の排出削減目標を設定することが必須である*11。また、対象とするアセットクラスについての記載はなく、各銀行が自身の対象とした範囲について開示をすることとなっている。


図表5 CCCA「Guidelines for Climate Target Setting for Banks」目標設定方法

図表5

(資料)Collective Commitment to Climate Action「Guidelines for Climate Target Setting for Banks」よりみずほリサーチ&テクノロジーズが作成


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